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そしてあたしたちは再び馬車の旅に出た。
御者は護衛のラナともう一名、そのほかはあたしと神様、そしてトリアスだ。
「この間はお疲れさん、トリアス」
「もー、ほんと大変だったんですよ」
あの一件ぶりのトリアスは、相変わらず大袈裟なそぶりで肩をすくめる。
馬車の中でサンドイッチを頬張りながら、トリアスは忙しなく言う。
「ソルティックはちゃんとした中枢領域のエリート神官に引き継ぎました。僕はあくまで下っ端の巡礼神官なので。立場以上の仕事はしたくないですからね」
「出世したいとか思わねえの?」
「とんでもない! 巡礼神官は自由だけが楽しいんですよ! お給料は安いですし、出世ルートには乗れないのでどんなに働いても結局エリートに手柄は掻っ攫われますし」
「大変だなあ」
「だから適当にまとめて、エリート様に任せましたよ、ええ。彼は左遷だーって死にそうな顔をしていましたけど、理解できませんね全く。知らない土地で働くって楽しいのに、お給料が高いなら尚更! ロマンややりがいだけじゃ飯は食えませんよ、ええ!」
「ってことで、今はあたしらに付き合うロマンを楽しんでんだな?」
「シャルテちゃんに付き合うなんてサイッコーのロマンですからね! ええ!」
「あんたはほんと旅が好きなんだなあ」
「えへへ。そして今回も同行させていただきますよ! そしていずれシャルテちゃんの伝記を書くんです!」
ささっとノートを取り出され、あたしは思わず口がへの字になる。
「やめてくれ」
「教会の貴重な資料にするだけです、一般には公開されませんよ」
「せめて閉架図書で持ち出し厳禁の奴にしてくれ」
そんなあたしたちの会話を、神様が無言で眺めている。
表情は穏やかだ。きっと彼なりに、旅を楽しんでくれている。
◇
――あたしたちの賑やかな旅路は一週間にも及んだ。
サンディさんの言っていたようなカメムシがひどい宿にはありがたいことに泊まらずに済んだ。
なぜならロバートソンさんが事前に各地の宿の予約を入れてくれて、さらにそこに王妃様が直々に手紙を書いてくれて、その宿の最高級の扱いで泊まることができたからだ。
あまりの贅沢な旅路に、最初は大はしゃぎしていたトリアスがだんだん、
「これはロマンがない! もっとこう、ボロい旅行がしたいんです、僕は!」
なんて言って。
わざわざ旅先の地元の汚い食堂に足を運んだり、妙な蚤の市に向かったりしていたほどだ。
その結果カメムシ臭くなって帰ってきた。
見ているぶんには面白かったけれど。
「このまま一生旅していたいな、神様」
あたしの言葉に、神様が頷く。
「仕事をほっぽりだしていくか」
そこに笑顔で両手をあげるラナ。
「俺も賛成!」
「ちょっと! ちょっと! 三人ともダメですよ!」
「「「「冗談だ」」」
「声を揃えないで! いつの間に三人とも仲良くなってんですか、もー!」
◇
そんなこんなで。
ついにあたしたちは、遠く人里離れた隔離された集落、タイタゲード村――ではなく、その村への最寄りの街スセンテンプへとたどり着いた。
タイタゲード村に行く前に、落ち合うべき相手がいるのだ。
今までの旅は中級クラスのホテルを使っていたが、今回は王侯貴族向けの豪奢なホテルに宿泊することになる。
スセンテンプの目抜通りを抜け、街の中心部に位置するホテルまで向かう。
あまり大きな建物が多くないスセンテンプ街に似合わないほど、一際大きく豪奢な石造りのホテルだ。
馬車を降り、厳重に警備されたホテルロビーに入り、荷物を預ける。
あたしたちは支配人直々に挨拶を受け、中庭に行くように告げられた。
あたしと神様が揃って向かうと、そこには背の高い体の分厚い男の後ろ姿があった。
彼は近づいた支配人にひそひそと耳打ちされ、こちらをバッと振り返る。
日焼けした肌、ラフに括った銀髪、纏う服は使い込んだ軍服。
「シャルテ!!!」
明るい笑顔をこちらに向け、大型犬のようにかけてくる男。
ルイス王太子――もとい、第一王子だ。
形式的な辞儀を交わし合うと、ルイス王太子はあたしの手を取って軽く甲に口付ける。そして笑った。
「久しぶりだねシャルテ、それにカインズも! お前は爵位を母から受け取ったのだろう、よかったではないか」
快活に笑うその笑顔は、かつての繊細で神経質そうな頃から比べると別人だ。
王太子の肩書を一旦外され、騎士団で鍛えられたことにより、彼は随分と明るく逞しくなったようだった。
背も随分と高くなり、体も厚い。
薄くて華奢な神様と並ぶと、神様三人分くらいの幅がありそうだ。
「庭は人払いしている。ここで話そう」
「わかりました」
ルイス王子は軽い足取りで先へと進む。
「この庭は僕も気に入っていてね、滝が綺麗なんだ。人工なんだけど霊泉を使っていてね。珍しい花もあるんだ、シャルテの瞳の色にぴったりのマーガレットだ。オレンジのバラもあるぞ」
「あ〜……そうですね嬉しいですね……」
きゃっきゃとデート気分のような言葉を捲し立てる王太子に、冷たい眼差しを向ける神様。ロバートソン商会長の時とは違う――ということは、やはりちょっとこの人は幼女趣味なのでは……?
神様があたしと王太子の間に割って入りながら歩く。
護衛のラナとトリアスは遠くからゆっくり歩いてくる。
「王妃から聞いているよ。最近も忙しく働かせているんだって?」
「王妃様のご命令とあらば、臣民の義務ですので」
「ふふ。シャルテも大変だろうけど、付き合ってくれて助かるよ。王妃が元気になったのはシャルテの存在が大きい。娘が欲しかった人だからな」
あたしは首をゆっくりと横に振る。
言葉を否定するのは不敬だ。それでもあたしはしっかり伝えてやりたかった。
「私の力は微力でございます。一番王妃様を元気にさせているのは、ルイス王子殿下のお力ですよ。長らく離れておいでだったご子息様と仲良くできるのは、母の喜びが大いにありましょう」
「……そうかな? 自惚れてもいいかな」
ルイス王子は頬をかく。そして続ける。
「僕は本当に気弱で、王太子としての自信のない弱い男だった。……だからこそケイゼンも迷ってしまったし、父も弱らせてしまった。そう思わなければならない。上に立つ人間として、須くは僕自身の責任だと受け止め、行動するべきだ。……そう、母の背中を見て、騎士団で鍛えられて、最近は痛感するようになったよ」
「殿下……」
ルイス王子は空を見上げ、目を細める。
以前も随分な美形だったけれど、悲しみと苦労を乗り越えたその憂いを帯びた眼差しは、より男性的な魅力を増したように思う。
(浮気かシャーレーン)
(違う違う。素直に立派になったなあって褒めてるだけだよダーリン)
心の声に反論していると、ルイスは話を続ける。
「王妃もケイゼンを失い、どれほど悲しいだろうかしれない。それでも彼女は気丈に王妃としての勤めを果たしている。邪神に心を惑わされて破滅した弟の一件もあるから、今回の『聖女聖父の祈り』の事件は早々に危険の芽を潰しておく必要がある……だからシャルテが手伝ってくれて、本当にありがたい。そこに座ってくれ」




