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「久しぶり。よろしくな、シャルテ様」

「ソルティックでは無理させたね」


 挨拶に来てくれたラナにお茶とお菓子を出すと、少しおどけた様子で大袈裟に肩をすくめて笑う。


「大変だったんだぜ、ほんと」


 あの時ラナは本当に大活躍をしたらしい。

 トリアスが興奮気味に語る巡礼神官トリアスと護衛ラナのソルティック騒動は、ちょっとした冒険物語のようですらあった。


「いただきます。俺、甘いの好きなんだ」


 ラナは嬉しそうに焼き菓子を食べる。マドレーヌとマフィンを小さく盛り合わせ、生クリームを添えたものだ。あたしが作ったものではなく、近くの洋菓子店で買ってきたものだ。あたしのハーブティと購買層が近いので、この街の味の好みを知るために時々あちこちのスイーツを買ってみることにしている。


 食べながら、ラナが思い出したように言う。


「そうそう、シャルテ様。あんたもしかして俺と同郷?」

「え?」


 意外な言葉だった。

 目を丸くするあたしに、ラナが自分の髪を摘んで見せながら言う。


「俺と同じ髪色で橙色の瞳だから、そうなのかなーって思ってたけどさ。魔力の馴染みが良すぎるんだよ。ラピスアステって島国、知ってるか?」

「いや……ごめん、知らない」


 あたしは正直に首を横に振る。ラナは紅茶で唇を潤して、続ける。


「主にも伝えるように言われていたから言うけど、俺はラピスアステの出身だ」

「ラピス……アステ?」


 あたしは目を瞬かせる。聞いたことのない地名だ。


「中継貿易で食い繋いでいる、産業もろくにない島国だよ。俺は食うために島を出て、主人に拾われた。このひよこ色の目立つ金髪は、そっちの出身者に多いと言われている。……シャルテ、あんたの金髪も多分、そっちの血なんじゃないのか?」

「……あ……」


 あたしはハッとする。


「あたしの容姿は父似なんだ。髪も瞳も父と瓜二つって言われてた。でも島国出身なんて、聞いたことは……」


 父は流しの薬師だった。故郷について聞いたことはないはずだ。

 知っていたら真っ先に調べていた。

 あたしの反応に、ラナは頷いた。


「そっか。まあ……昔、一度島は大噴火で島民が一斉に大陸に移住したこともあるらしいし、その影響かもな。……ち・な・み・に」


 ラナは少しいたずらっぽくウインクをした。


「俺とシャーレーン様(・・・・・・・・)は、そんなに体格も変わらねえだろ?」

「あ」

「商会長、それも意識して俺を雇ってんだぜ。ったく、愛されてるよなシャーレーン様」


 ラナは肩をすくめる。

 あたしはあはは……と苦笑いした。


「あの人、ほんっとにいろいろ大丈夫か? 父さんで拗らせすぎじゃないか? ちゃんとエダさん大事にしてるか?」

パートナーにしたいタイプの人間の趣味と、才能を愛したい人間の趣味は別って言ってたぞ」

「……まあ、パトロン気質と言えばパトロン気質なのか」

「ちなみに懇意にしているエイゼリアの商人もラピスアステのひよこ頭の男だぜ」

「そ、それは流石にこう……変な趣味が混じってないか⁉」


 聞きたくなかった話だ。

 あたしも自分用に紅茶を入れて、一口飲んではあ、と溜息をつく。


「ロバートソン商会長、それでよく商会長なんてすごい立場にいられるな……」


 ひよこ色金髪フェチここに極まれり、といった状態だ。

 ひどい話を耳にしながら、神様は意外にも嫉妬すらせずしれっとした顔をしている。


「俺の妻に色目を使わないなら、好きにしてくれて構わない。俺は夫で、他の人間はどれだけシャルテを思ってもファン(・・・)なのだから」


 この間落ち込んでいた時とは打って変わって、なんだか堂々とした感じになっている。何か吹っ切れたのだろうか――人生を共にする夫と、人生を側から応援するファンとしての立場の違いとかに。


「ラナは……あたしたちのこと、……どこまで聞かされてんだ?」

「あんたらを守るために必要な情報は、最低限全部、主から共有を受けてるよ」


 彼は神様とあたしを交互に見てニヤリと笑う。

 つまり。神様の正体も知っているということだ。


「俺は主であるロバートソン商会長に、何かあった時にシャーレーン様の身代わりになることを主から命じられている。口は固いから安心してくれよ」


 ラナはそう言うと、上機嫌にスイーツを平らげ始めた。


 ◇◇◇

 

 そんな感じで、店はラナと神様、それに王妃様の護衛に守られてあたしの兼業学生生活はスタートした。


「学校、想像以上にキッツイな……」


 あたしは九月入学に合わせて薬師学校に入学した。

 とはいえ基礎学校とは違うので毎日ではなく、週に三回午前中に講義がある、と言った感じだ。

 学校がある日は店のことは全部神様とラナがやってくれている。

 ラナはロバートソンさんの護衛らしく全部の事情をわかっている。

 口は堅くロバートソンさんへの忠義は絶対とのことなので、一応任せているが、ハーブティショップの店員なんて初めてだろう。神様と二人で大丈夫なのだろうかと、内心心配だった。

 だが……予想に反して、二人はかなりうまくやっているようだった。


「ただいま〜」


 あたしが店に帰ると、神様が目を細める。

 続いて、奥から出てきたシャツ姿に愛らしいエプロンを纏ったラナが笑顔を振りまく。

 花が綻ぶような営業スマイルだ。


「いらっしゃいませ〜ってシャルテ様か、お帰り」


 いつもの愛想に戻して、ラナが肩をすくめる。

 あたしは苦笑いした。


「あたしが言うのもなんだけど、ほんとぶりっこだよな君は」

「そりゃあロバートソン様から任されて、営業利益が下がっちゃたまらないからね。ほら売り上げ」


 あたしはラナに見せられた、今日の営業報告に目を落とす。思わず声が出た。


「うわっすごい。どうやって売ったんだよ」

「そりゃあ、俺天才だから?」


 ラナがにやにやと自慢げに笑う。


「奥様方ににっこにこでハーブティーを淹れたら、結構いけるぜ? 美少年としての媚びだよな」

「いや、媚びだけじゃこの売り上げにはならないだろ。よくやってるよ」


 あたしの言葉に神様が補足を入れる。


「ラナはよくやっている。茶の淹れかたも接客も、隠れて練習しているし、商会長の店で腕の良い販売員にやり方を聞いているようだ」

「あっこら、裏事情を話すなよ」


 ラナが頬を染めて神様に唇をとがらせる。

 その表情は十六歳らしい少年っぽさが滲んでいた。

 あたしの眼差しに気づいて、ラナが決まり悪そうにトレイをくるくると回す。


「だって役立たずって思われたくねえじゃん。シャルテ様にも神様にも」

「ロバートソンに褒めて貰いたいのだろう?」


 神様が「何を言っている」とばかりに本音を勝手に暴露する。あちゃあ。

 案の定、ラナはますます顔を真っ赤にさせた。


「当然だろ、雇い主に期待以上の結果を見せねえで、どうすんだ」

「……ラナ、あんた結構可愛いんだな」

「うるさいうるさい。でも可愛いの褒め言葉だけは受け取ってやる」

 そこでラナが咳払いし、話を変える。

ひよこ髪のエイゼリアの商人は、『空気な私』のルーカスストックです(明かす)

まったく同じ世界ではなく、スターシステム的に「エイゼリアの商人」を出してます。

彼がずっと恋しいので(重い感情)

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