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がうがうアプリで本日最新コミカライズ更新日です!
マケイドに戻り、あたしはすぐに王妃様に連絡を入れた。
中枢領域に呼び出され、あたしは王妃様にことの顛末を説明し、持ち出してきた薬を提出した。
人払いしたガラス張りのドローイングルームは観葉植物が美しく、王妃様も美しい薔薇柄のドレスを纏っている。猫足の可愛らしいテーブルには鮮やかなティーセットが並んでいて可憐な空間が演出されていたが、王妃様の表情は険しかった。
「こんな嫌な事態でしかあなたとお茶ができないのは残念ですが、報告してくれてありがとう。全ては信頼できる者たちに共有し、こちらで対応いたします」
「ありがとうございます、王妃様」
「全ての後始末に当たってくれた巡礼神官のトリアスには褒美を取らせましょう。教会にもよく言っておきます」
あたしと神様は深々と頭を下げる。王妃様は扇の向こうでため息をついた。
「……あなた方はただの一平民であるのに、ここまで働かせて悪いわね」
「そんなことございません。平和のために働けるなら、シャルテ嬉しいです!」
あたしの言葉に、王妃様は目元だけで微笑むと、神様にすいと視線を向ける。
「決めました。あなたに騎士の爵位を叙勲いたします」
思わずギョッとする。神様は丁重に断りの所作を見せる。
「私にはもったいないものでございます。何卒他のものに」
「もらえるものは貰いなさい、カインズ。シャルテという立派な妻をこれから食わせていくためにも、あなたはうんと偉くなる必要があります。お分かりですか?」
うんと偉くって言われても、この人大陸全土の土地神であの美しい龍神なんですよ。あたしは心の中で訴える。
王妃様は一人「そうよ、早くそうしなければいけなかったのよ」と拳を握る。
「あなたが爵位を持てば夫人として堂々とシャルテをお茶に呼べるのよ。ええ決めたわ。誰か! 剣を持って!」
「あわわ王妃様、あの、夫にそれはあまりにも不相応では」
「シャルテ、あなたはまだ若いし未来があるわ。私がきっちりと教育したいのです。来年には社交界でデビュタントさせましょう。貴婦人の仲間入りをして、この国の貴族令嬢たちにより良い風を吹き込みなさい。いいですね、これは王妃命令です」
「はわわ」
護衛の騎士がさっと剣を持ってくる。金と宝石で飾り立てられた貴婦人向けの儀礼剣だ。
「カインズ、そこに跪きなさい」
有無を言わさず神様を跪かせると、王妃様は肩にとんとんと剣を当てる。
「カインズよ。其方は賢婦シャルテの夫として彼女の才を支え、彼女を保護養育し、我が王家の臣下として尽くすように。ーー以上」
さくっと叙勲の儀式をすませてしまった。簡易かつ突然な行動だがれっきとした公式行事だ。
「あわわ……」
「シャルテ。青ざめたり変な声を出している場合ではないでしょう。夫に祝福を」
「お、おめでとうございます私の旦那様」
「ありがとうシャルテ。あなたのためなら俺は騎士にもなろう」
神様は膝をついたまま優しく微笑み、あたしの手の甲に口付ける。
その所作の意外なほどの美しさに、王妃様も周りの使用人もほぅ……と感嘆した。ああ、取り返しがつかない。
「それではカインズ、あなたの服も用意しましょう! 今度から城に訪れるときは、私の用意した服を着るのですよ」
そう言うなり王妃様は、さっさと使用人たちに神様をフィッティングルームへと案内させる。
「そのシンプルな装いもよろしいけれど、あなたはもっと叙勲した身に相応しい服を纏うべきです」
神様の服は神の権能で出来てるよくわからないものだ。
あたしの目には黒づくめでカソックに似たデザインの服に見えているけれど、他人には違う服に見えていると聞いている。
神様曰く「相手にとって自然と景色に馴染む服装」に見えているとか。
神様とはそれなりに付き合いは長いけれど、夜に服を脱ぐ瞬間も、朝に服を纏う瞬間もいまだに見たことがない。気がついたら全裸。気がついたら着衣。
さあ、今はどうなる!?
配偶者特権を駆使して一緒にフィッティングルームへとついていくと、神様は気がつけば全裸になっていた。
「うわー!!!」
あたしが思わず股間の辺りを体で庇う(シャルテなのだから股間くらいしか庇えないのだ!)
しかし使用人の皆さんは微笑ましそうな顔をしている。
「あらやだ、シャルテちゃん。まだ上着を脱いだだけなのにそんな」
「えっ」
「大丈夫ですよ、服の上からざっくりと測って、仮縫いの時に細やかな調整を」
「えっえっ」
慌てるあたしの脳内に、神様が直接話しかけてくる。
(問題ない。人々には全裸には見えていない。シャーレーンだけに全裸だ)
(問題は……ないのか!? それは!?)
(俺は肌をシャーレーンにしか見せたくない。よって問題はない)
神様はふふ……と微笑む。
とにかく他人様から見て整合性がついているのならそれでいい。あたしはふう、とため息をついた。
「なんか疲れた……」
そのときーーあたしは忘れていた。
王妃様が服選びに関してはとことんまでこだわる人だと言うことを。
それから半日以上かけて、神様はあれやこれやと試着をさせられまくり、あたしは王妃様の隣に座って延々と神様のファッションチェックをする羽目になることを。




