エピローグ/ヒラエス
ーー夏祭りが終わった翌朝のことだった。
アパートメントの2階の住居から神様と一緒に起きてきて店を開けようとしたあたしは、ふと店の扉に真新しいリースが飾られているのに気づく。
「ん? なんだこれ」
「危ないものではなさそうだ」
神様が隣でそう言うので、あたしはリースを手に取る。
「作りたてだな。こりゃまあ、随分と綺麗なもので……」
あちこち眺める。薬草の中でも華やかなものばかりを集めて作られた綺麗なリースだ。
手に取り、匂いを嗅ぎーーその瞬間、記憶が鮮やかに呼び覚まされる。
母が夏の暑い日、幼いあたしに話して聞かせてくれたこと。
ーー母さんは夏に結婚したの。
ーー結婚式はささやかなものだったけれど……父さんが結婚式の代わりに、新鮮な薬草をかき集めて精いっぱいの花冠を作ってくれたのよ。
そして、母はあたしにその花冠を目の前で再現してくれた。
夏の強い香りの花ばかりを入れた、母さんがつけていた香水によく似た、清々しい匂いの。
輪の奥の方にたった一輪だけ、金盞花が差し込まれていた。
このリースを手に取って、よく覗き込まないと見えない位置に。
「父さん!!」
あたしはリースを手に、あちこちを走り回って姿をさがした。
しかしどこを見ても、あたしが見つけたかった姿はなかった。
「……父さん……生きてるって思っていいの…………?」
あたしは座り込み、リースを抱きしめた。
父はこの店の噂を聞きつけ、シャルテを、シャーレーンだと思ってくれたのだろうか。
神様が、あたしの肩を抱いてくれる。こういうとき、縋れる温もりがあってよかった。
風が吹く。
父の名でもあるヒラエスの店名が描かれた看板が、鼓舞するように強く音を立てて揺れた。
お読みいただきましてありがとうございました。
多分続きは書きます(この続きにするか、別で新規で書くかは不明ですが……)
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