表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/90

14.暴露

※神様と初代筆頭聖女の件が不安な方はタグをご覧ください。大丈夫です(?)

 反射的に身を固くしたけれど、神様はあたしを抱き寄せるだけだった。

 神様は私を横抱きにしてベッドに座り、ぎゅっと腕の中に閉じ込めた。


「……ああいう時、人に親切なシャーレーンが好きだ」

「そうか」

「だが俺以外のオスに優しくしてるのを見るのは……いやだ」

「そっか。耐えててくれてありがとな」


 2本の腕では足りないとばかりに、どこからともなく湧いてきた白蛇が、しゅる、と太腿に絡みついて顔を覗き込んでくる。もうこの嫉妬も慣れてきた。慣れていいものかわからないけど。


「ほら。昼間みたいに()()()するんだろ?」


 神様は金色の瞳で黙っていた。手を差し出せば、あたしを見つめたまま指先に口付ける。唇が、薄く開く。指先に生暖かい感触を感じ、あたしはくすぐったさに手を引っ込めたくなるけれど我慢する。


「……ふは、くすぐったいな」

「……」


 神様は堰を切ったようにあたしに触れ始めた。体に絡みつく大きな手も、蛇の感触も、神様の執着を感じさせられる。あたしは神様の好きにされながら思う。


(憎めないんだよな、甘えられるの。……まるで迷子の子供が縋り付くみたいな……なくしてた気に入りのぬいぐるみを見つけて、二度と離さないように抱きしめて泣いてるような……)


 人間の男なら冗談じゃない触れ方も、神様ならなんだか、神様なりの執着なんだなと納得できる。舐められても甘噛みされても、それは動物が愛咬するのと同じだろう。

 あたしの肌を伝ってするりと伸びてきた白い蛇が、かわいい顔をしてあたしの顔を舐める。

 つい笑いかけると、あたしの手に夢中な神様も微笑んだ気配がした。


(……さて、甘やかすのは、この辺で十分か)


 ぼーっとしてきた意識に喝を入れ、あたしは神様の顎を取って目を合わせた。


「シャーレーン……?」

「神様。もうごまかさないで教えて欲しい。あたしに言いにくいことってなんだ。国の加護はどうなってる」


 蕩けていた金の瞳が、灯りが消えるように黒に戻る。


「神様の聖堂の霊泉が枯れた。初代筆頭聖女とあんたの契約で湧き出した、この国の霊泉の恵みの根源だ。……今はまだ各地域の霊泉は枯れていないようだが、無事で済む話じゃないだろ」


 甘えるように群がっていた蛇が消えている。

 真顔になった神様に、あたしは言葉を続けた。


「姿を見せなかった理由としてーー前に神様は言ったよな。聖堂に祀られたまま、人間の形にはなれなかったって。そしてこうも言った。『俺が神であり続けられたのは、あたしが苦しくても助けを呼ばなかったから』って。……ってことは逆に言えば、こうして人の形を取って、あたしのそばにいるのは……神であることを辞めているってので間違いないな?」

「……」


 神様はあたしに嘘はつかない。沈黙は、肯定だった。


「だが土地神としての権能は残っている。つまりあんたは神であること自体はやめていないんだーーということは、あんたが『国の守護神』として祀られた神であることを捨てたんだ。違うか?」

「……」

「初代聖女と契約して、ずっと神様をしていたんじゃないか。……妻だったんだろ? 初代聖女は」


 教義によると土地神カヤは初代聖女との契約によって、国を守る土地神となった。その契約は夫婦としての契約で、歴代の筆頭聖女を神の妻とするのは、初代聖女と土地神の関係をなぞったものと言われている。


「……最初の妻との約束を破ってまで、あたしを優先する理由を教えてくれ。言いにくいことなんだろうけど、当事者として聞かないわけにはいかないんだ」


 この言葉を言いながら、あたしは胸の奥がつかえるように苦しいと思った。


 神様はずっと黙っていた。


「……頼むよ、神様」


 あたしは神様の手を取り、神様の気が済むまで待った。

 喰まれて濡れた指先がすっかり乾いてしまった頃、ようやく神様は、絞り出すような声でこう言った。


「他にいるわけがない」


 金色に輝く瞳が、あたしを射抜く。懇願するように両手で私の手を包み込み、神様は訴える。


「俺の妻はあなただけだ、シャーレーン。過去も今も、未来さえ。もし別の世界に生まれ変わったとしても、俺の居場所はあなたの傍だけだ」

「神様……?」

「教会があてがった筆頭聖女なんて、人間が勝手にやっていた儀礼だ。俺の妻はあなたしかいない。俺が土地神から国の神へ堕ちたのはシャーレーンの傍にいたかったから。国の神であることも捨てたのは、シャーレーンを守りたいから」

「どういう……ことだ……?」


 神様は顔をおおう。

 今までにないほど感情的な吐露をして、神様は深くため息をついた。


「シャーレーンは……これ以上何も背負わず、ただ、幸せになって欲しかった。だからシャーレーンが全てを忘れていて、寂しさよりも嬉しさが勝った。……シャーレーンをただの俺のつがいにできるから」

「……神様……?」

「打ち明けてしまえば、シャーレーンはきっと……自分をまた犠牲にする。それが怖かった。……俺は…………ずっと、シャーレーンだけのために国を守り続けてきたから。シャーレーン以外は、何もいらないから。俺を神からただのオスた、あなた以外は」


 あたしは固唾を呑んで耳を傾ける。

 神様の、暴露を。


 神様は顔を覆った指のあいだから、金の瞳を輝かせて言った。


「初代筆頭聖女はあなただ、シャーレーン」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ