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12.逃亡神官と、強制開花

「神様、神官を助けたい」

「……オスか」

「ンなこと言ってる場合じゃねえだろ。逃亡するような神官なら、あたしたちが欲しい情報を持っているはずだ。……あたしを暗殺した奴の情報も掴めるかも」

「そういうことなら」

「……でもどうしようか。あたしはこの通りガキだし、聖女異能しか使えない」

「俺がいる。追手を殺そう」


 神様が蛇を袖から出すので、黙って袖の中に押し込める。


「手伝ってくれるのは感謝するがダーリン、物騒なもんはちょっとないないしようぜ」

「一番早いのに」

「急がば回れってことさ。死体を増やすのは得策じゃねえ。ええとまず、神様ができることを確認したい。……神様は『この国の魂なら感知できて』、人間が神様の加護を得て行使する『聖女異能と魔術』をなんでも使える……この認識で合ってるか?」

「ああ」


 それなら十分に助け出せそうだ。神様に一つ一つお願いをしながら魔力を行使してもらうのが無難だろう。あたしは神様を見た。


「神様、力を貸してほしい。魔力を使って助け出したいんだ」

「わかった」

「ありがとう! それじゃあーー」


 その続きの言葉はあたしの口の中に押し込められた。

 片手で顎を掴んだ神様にキスをされたからだ。

 いつも頬や額にするような愛玩するようなキスなんかじゃない。

 唇と唇を重ねてーー何かが、入り込んでくる。


「〜〜ッ!!!」


 ()が熱い。口移しで、言葉にできない何か大きなものをを注ぎ込まれている感じだ。

 何度も何度も角度を変えて、神様はいつもの淡白な態度が嘘のように、熱を帯びた口付けを与えてくる。初めてなんだぞこっちはなにすんだいきなり。そんな言葉すら湧いてこない。ただただ、(アタマ)が沸騰しそうだ。

 肌の内側をぞくぞくとした痺れが駆け抜ける。聖女異能で使う部分の神経が塗り替えられている。


「……は……」


 腰が抜けたあたしを、神様が軽く抱える。神様は濡れた唇を舐め、あたしの唇も指で拭った。首筋あたりまでひやりとする。膝がガクガクする。何を、されたんだ、今。

 先ほどまでの熱が嘘のような真顔で、神様はあたしに告げた。


「力を貸した」

「は…………?」

「聖女異能を使う感じで念じれば、シャーレーンの体で俺の魔法を使える。魔術師のように」

「あたしが自由に、魔術を使えるってことか?」

「そうだ」


 貸してって、そういうつもりじゃなかったのに。とんでもないことになってしまった。


「……代償は?」

「特にない。シャーレーンは魂が特別だから」

「おいおい……とんだチートじゃねえか……」


 気になることはあるが仕方ない。時間がない。

 壁の時計をみれば、まだ一分ほどしか経っていない(あのキスが一分以内とか、嘘だろ!?)

 震える膝をパンと平手打ちし、あたしは神様を連れて街に飛び出した。


「どこにいる……そうか、念じればいいのか」


 あたしは当てずっぽうに念じてみる。すると情報量が一気に頭に飛び込んできて、思わず頭を覆った。鼻血が出る。


「ッたあ……」

「シャーレーン。力の加減に気をつけて」

「何度もやって覚えるしかねえな、これは」


 あたしはもう一度目を閉じて、今度は情報量を抑えながら探知する。

 逃げ惑う若い男。

 きっとすでに生命力はつきかけている。集団の強い魂が追いかけ回している、その先ーー


「いた!」


 あたしは鼻血を拭うと、神様を待たずに飛び出した。

 頭がぽかぽかして知らない呪文がスラスラ浮かぶ。


遮蔽魔術シークレタ、そして跳躍魔術ルイブ!」


 地面を蹴り、あたしは空にふわっと浮かぶ。浮遊感にゾクゾクする。遮蔽魔術を使ったあたしに、人々は気づいていない。


「はは……禁術まで使えるったぁ、最高じゃねえか!」


 あたしは屋根を跳躍し、逃げ惑う神官の前に降り立った。

 泥だらけであざまみれの彼は、あたしを見てヒイイ、と息を呑んだ。そりゃそうだ、空から幼女が降りてきたら大抵はビビるわ。


「神官さん、聖女護衛騎士団メイデンオーダーから逃げたいそうじゃねえか。……あたしに協力するなら、助けてやってもいいぜ?」


 彼はこくこくと頷く。


「よし決まった」


 あたしは目を眇めて笑い、彼に手を差し伸べた。


◇◇◇


 数分後。あたしと神様と神官は、堂々と繁華街を歩いて宿へと戻った。

 すっかり夜になった繁華街を血眼で探し回る聖女護衛騎士団メイデンオーダーは疲労困憊の様子だった。歓楽街には物珍しいあたしたちを見ると、彼らはギロリと目を走らせるが、すぐに目を逸らした。


「こ、こんな大胆にしていて大丈夫なんですかね……」

「大丈夫に決まってるでしょ、お姉ちゃん」


 あたしはにっこりと笑う。あたしと仲良く手を繋いでるのが不満なのか、神様が不満気な仏頂面で、神官を睨んでいる。

 神官は赤毛を魔術で長く伸ばし、その辺の娼婦向けの服屋で仕入れたドレスを纏っている。

 化粧も施してしまえば、細身の若い男なら意外となんとかなる。堂々としていれば。


「さ、宿屋に入ろう」

「はい……」


 宿屋の一階ではおかみさんと宿泊客がいてこっちを一斉に見た。総勢六名、これなら弄っても支障は起こらない。


神様ダーリン、よろしく」

「ん」


 神様が全員と目を合わせると、みんなピシ、と動きを止める。

 あたしはにっこりと笑っていった。


「最初から一緒に宿泊していた、あたしのお姉ちゃん。確か服も借りるって話してたよね?」

「そ……そうね」


 みんなが頷く。

 そしておかみさんが、当たり前のように服を貸してくれた。


「な、何を……しているのですか……あなたがたは……」


 神官はだんだん青ざめてきた。あたしは「まあまあ」と笑顔で部屋に押し込む。

 そして、試しに音を消す魔術を構築する。


防音魔術ナイナ。……はは、音が全部消えちまった。魔術疲れもない……神の権能、怖えな」

「あ、あああ……あなたは……あなたがたは……神よ……」


 神官が神に祈り始める。神様がきょとんとして、私は笑った。


「まあ楽にしてよ。あたしたちは怪しいもんだけど、お兄さんの敵じゃない。今教会で何が起きているのかを聞きたくて、あんたを匿ったんだ。話してくれるかい?」

「……わ、わかりました。どのみち、外部に訴えたくて逃げ出したので……聞いていただけるなら喜んで」


 神官はしばらく怯えていたが、お茶を飲んで一息ついて、覚悟を決めた様子で背筋を伸ばした。

 妙な子供と胡散臭い男でも、目の前で助けられたら信じてくれるいい人で助かった。


「教会が荒れて、聖女の扱いもめちゃくちゃです。……このままでは土地神カヤに国が見捨てられてしまう」


 神の怒りを恐れる神官。

 神様はただじっと、彼の姿を見下ろしていた。


ちなみに神様を人前で呼ぶ必要がある場合、シャーレーンは神様をダーリンと呼んでいます。カインズという偽名で呼ぶのもしっくりこないし、カヤと真名で呼ぶのは、なんだか一線を越えるようなためらいがあるからです。

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