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【迷宮奇譚集】迷宮中華飯店  作者: かやまりょうた
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迷宮中華飯店1

 私の名はココナ・ロンド、北方連合王国の宮廷魔術師の一員であるロンド家のものである。

 遠く祖国を離れ、旅をして、この西方のダンジョンにやってきた。

 その目的は二つある。


 一つ目は私の腕試し、私の魔術の腕を試すため。

 二つ目はダンジョンに挑み、その謎の一端を明らかにして、傾いた実家を救うため。


 私は得意の魔術を手にこのダンジョンを踏破して、多額の財貨を実家に持ち帰りたかったのだ。

 ロンド家は貴族ではない分家であり、たとえ末席と言えども北方連合王国の宮廷魔術団の一員である。

 

魔術の研究に打ち込み宮廷の文官の一員として手堅くやってきた我が家がなぜ窮するようになった。それはよくある話、祖父、そして父親と二代にわたって散財して、わが家は傾いてしまったのだ。


 それぞれ、わが兄弟姉妹は家を立て直すために、各地に働きに出向くことになった。要するに家族で出稼ぎをすることにしたのである。

 長兄は家督を相続、宮廷魔術師になり、次兄は錬金術師、長姉は他国に嫁ぎそこで商いをすることに、次姉は教師をしている。

 

幼いころから魔術師に憧れ、魔術学校を卒業した私が選んだ職業は迷宮の探索者だった。

 迷宮を探索し、魔術を究め、立ちはだかる魔物を退け、この世界の真理に至る。


 私は幼いころから英雄の伝記、物語が大好きで、その主人公となることを夢想していたのだった。

 そんな私を兄姉は心配して、末っ子のお前は別に働きに行く必要はない、魔術学校で研究を続けたらいいと言ってくれた。

 しかし、独立独歩の決心は固く、私は意気揚々と故郷を旅だったのだった。


***


 この街にやってきた時は、自分が英雄にでもなった気分だった。これでも、幼い時から魔術の才はあると評価され、鍛錬は欠かさず魔法学校でもそれなりの成績を残した身で、過大な自信を持っていたのだった。


 しかし、ここで必要とされる魔術は魔術でもまるで違ったものだった。

 簡単に言えばここで必要とされるのは戦いの中で、必要とされる魔術だったのだ。詠唱の正確さや宮廷魔術師としての作法などはまったく意味もなかった。

 止まって繰り出される火の術、回復の術にしてもその場その場で要求されるレベルや速度がある。


 仲間をいかに助け、魔物を屠るのか、チームの中でよどみなく判断して動かなければならない。私は魔物を前にして自分の身を守るのが精一杯で、それがこなさせなかった。


 そして、一度評価が定まると残念ながらそれを覆すことができなかったのである。

 私の言葉足らずというか、満足にお礼も言えないプライドの高さ、人当たりの拙さも、よくなかった。お高くとまった世間知らずの異国のご令嬢というのが私の評価だった。


***


 しばらくして、誰からも相手にされなくなった私は、有り金を使い果たし、一人でダンジョンに挑み、魔物に敗れた。

 暗いダンジョンの中をやみくもに走り、命からがら逃げている中で、足を滑らせると穴に落ちてしまった。


 気を失った私が気が付くと、嗅いだこともないかぐわしい料理の匂いが漂っているのに気が付き、それを追ううちに、この奇妙な店にたどり着いたのである。


 よろよろと店の中に転がり込んだ私を白い服を着た男が「なんだあ、行き倒れか、寝かしてやるから」というとエルフの女と肩を持ち、寝かせてくれた。

 

 横になっていると自分はほとんど軽傷だということに気が付いた。血だらけだったものの、それは魔物の血で大した傷を負っていなかったのだ。


 そして、そこにいる客たちがおいしそうに食べ物を食べている事に気が付いた。

 そうか、ここは何かの食べ物屋なのだ。

 切実に何かを食べたいと思った。


 まる二日ほど何も口にしていないのだ。

 私はアンデッドの様にむくりと起き上がると、歩きカウンター席に這いあがった。


 店主は驚き「お前、傷は大したことないのか?なんだ、もしかして飯を食いたいのか」と聞いてきた。

「何でもいいので、お料理をだしてください」


 ただようおいしそうな食べ物の香りと、腹の皮が背中にくっついてしまうような空腹感に恥も外聞もなく叫んでいた。

「まあ、良いけど、お前さん金は持っているのかい?」

「持っています」

 

 私は空腹からウソをついた。本当はお金はほとんど使い果たしてしまっていた。それでも、空腹とただよってくる料理のいい匂いにまけてこう言ってしまったのだった。

「それじゃあ、日替わりでいいかい?もうそれしか材料がのこっていないんだ」

「いいです、なんでもいいんです」


 そういうと店主の手さばきは華麗だった。

 黄色の塊を木箱から取り出すと、それをほぐしてポンと沸騰している中に放り込み、長ネギを大きな


 包丁で短冊状に切れ目を入れてリズミカルに刻む、ネギはあっという間に細かな銀片になった。

 鍋の上であらかじめ温められている、どんぶりにネギを入れ黒いタレを入れ、寸胴から、スープを注ぐ。


 鍋の中の黄色のものを、店主は平ざるで器用にすくって、準備してあったどんぶりのスープの中に落とし、店主は揚げてある肉をざざっと切ると麺の上に乗せた。

「はいパイコー麺おまちどうさま」私の前に丼が提供された。


 ものすごくいい匂いがする。

 どんぶりにはスープが注がれていて、揚げた大きな肉が入っている。

 私は箸を持つと肉にかぶりついた。

 肉は豚肉で端に骨がのこっているが、柔らかく、香ばしかった。


「おいしい」

 次にスープをレンゲで口に運ぶ、塩味と肉と野菜、複雑な旨みが一体となって広がった。

 私はクルクルと箸に麵をまいて食べようとした。


「ちがうちがう、麺はすするんだぜ」

 店主や他のお客たちが腕を組むと私を見ている。

 麺料理を吸うのははしたないことだと教えられたので、一瞬、躊躇したが店長の言う通りやってみる。


 ずるずると音がたつ、しかし、スープをまとって吸い込まれた麵はおいしい、すする意味がわかる。

 肉と麺を一緒に食べてもおいしい。

 

 私はあっという間に麺と肉を食べ終わって、スープもどんぶりをもって飲み干した。

「ふう、おいしかった」


 私は食後の水を飲みながら、懐から財布を取り出し中を確かめてみた。銅貨が2枚しかなかった。

「ぬぐう、やっぱりお金がありません」


 腕を組んだ店主はやれやれと言った感じでため息をついた。

「そうだろうな、まあ、仕方がない。お前さんみたいなやつは時々いるんだ」

「なんとかします」


「そうだな、とりあえず店で働いて返してもらおうか」

 こうして、私は自分の食事代を働いて返すことになり、このお店で厄介になることになったのだった。

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