3話 特級技能 ―エクストラスキル―
「うげぇ、キモイな、こんなのと戦いたくねぇ……」
「やるわよ! レイト、私もこんなキモイのと戦いたくないけど戦いたく無いからこそ早く片付けちゃいましょ!!」彼が思い描くか弱い女の子イメージを打ち壊してくれるほどにイレイアの芯は強かった。
「お、おう!!意外だな、お前てっきりこう言うの相手にはやだー私戦いたくないぃ……早く帰して下さぁいとかグチるかと思ったぜ」
イレイアの部分のはわざと高い声で茶化しながら彼女に抱いていた勝手な脳内での偏見を語るレイト。
「うっさいわねー!! 勝手に人を頭で動かさないでちょうだい、ブツブツ喋ってないで行くわよ、構えてレイト!!」
「そのつもりだぁ!! 準備は出来てる」
『オリャァ!!』考え無しにレイトは背中の鞘から、街で、新調したばかりの剣を取り出し勢いよく敵のビッグスライム目掛け、斬撃攻撃を繰り出す。
__ズサッ!! 回避もされずビッグスライムに見事に命中。
「ピギャアアア!!」
「しゃあ!!」
__しかし。やったか、という束の間スライムに直撃し両断した部分がみるみるうちに再生されてしまう。
「くっ」
そしてビッグスライムは、身体の一部を変化させ、細長い触手状の物でレイトに直ぐ様反撃した。
「クッソ、マジやべぇ……」レイトは、持ち前の瞬発力、逃げ性能で幾多もの触手からの攻撃を回避する。
「レイト今援護するわ! 吹き荒れよ、自然の輝きハリケーン・カトリーナ!!」
大体の属性が使えるイレイアは短い時間の自問自答の末、このスライムに有効打ではなさそうな火炎系、水系の呪文を使わず、イレイアは自分の持つ魔法の中で威力に自信のあった、自然系の魔法である中級魔法を放った。
「助かる……! イレイア」
相手を覆う竜巻を魔法により召喚し、ビッグスライムに攻撃を加えるイレイア。
近接攻撃の為懐に潜ってしまった、レイトがイレイアの援護攻撃により、敵の位置から離脱する時間を与えられレイトはこの隙にイレイアの元へ帰還する。
「危ねぇ……あのスライム、とんでもねぇ再生力持ってやがるぞ、近接攻撃は不利だ」
「そうみたいね、レイト……今回は脳筋バカのあんたは出番無し無しじゃない、紐は紐らしく下がってみてなさい」普段の慣れない異世界の生活で、大分イレイアのお世話になっているレイトへ向け、皮肉のこもった一言で煽られ。
頭に血の登りやすいレイトはその一言で再び接近攻撃に移ろうとする。
「うるせー!黙ってろイレイア今日こそ俺が出来るやつだってとこ見せて、やるぜ!!」
両手で剣を力強く握り、勢いに任せ、ありったけの力でもう一度斬撃をスライムに打ち込んだ。
「一撃目!! そりゃあ、再生しちまうなら再生される前にまた攻撃をうちこみゃ良いんだろ!!」二撃、三撃、と渾身級の攻撃を打ち込み続けた。
降りかかる、触手攻撃をも剣一本で捌き再生の底が尽きるまで斬撃を辞めない覚悟を決めたレイトは全力で攻撃を繰り出し続ける。
「喰らえぇえ!!」
「あんた、ほんとバカね……でもその頭の悪さ嫌いじゃないわ!!」イレイアが手を天に掲げ、精霊に祈りを捧げた。
「私、イレイアが命じます大自然の精霊よどうか彼に祝福の加護を」イレイアが攻撃をやめて祈りを告げると、レイトに精霊加護が付き、ベールを纏う。そして、知らず知らずのうちに傷付いていたレイトの傷と体力が少し回復する。
「__!? 身体が軽い、これなら!!」
「うおおおおぉお!!」斬撃の連続で疲れきった体力を回復したレイトは分裂しているスライムに最後のひと押しを加える。
彼の少ない魔力を解放し、剣へと雷の魔法を付与し雷撃の一撃を回復したありったけの体力全てを注ぎ最後の一撃を加える。
「これで終わりだぁああ!! ライトニング・スラッシュ!!!」
「ピュイギーィイイ!!」
分裂したスライムを片ずけるかのように、彼、唯一の必殺技の爆撃でまとめて掃討した。
そして、衝撃で焼け焦げたスライムの肉片が辺り一面に転がる。
「ハァ……ハァ、これだけ加えればもう再生出来ねぇだろ……」レイトはありったけの体力を犠牲にしたせいかその場で跪き、息を荒らげる。
「やったわ!!」イレイアがレイトの勝利に歓喜し、そんな言葉を言いながら近ずいてくる。
「へへ、どうだ俺魔法なんかマトモに使えなくても、ちゃんとやれるだろ?」とイレイアに向けて言った途端、その言葉に対するイレイアの賞賛の言葉が返ってくるのではなく、返って来たのは『逃げて!! レイト』と言う彼の身を案ずる言葉だった。
「逃げろ? ……イレイア何言って」
__!?
「ピギ、ギギギ、ギ」
僅かこの短時間で、黒焦げの肉片になったはずのスライムが再構成され斬撃を加える前の無傷な状態で再生されてしまう。
様子から見るに、ダメージは確かに受けているのであったが、スライムの攻撃や俊敏さには影響がなく素早い攻撃がレイトを襲う。
「__ぐあ!!」
「レイト!!」
レイトは不意を突かれ、触手の凄まじい攻撃の威力で吹き飛ばされ壁へ激突してしまう。
「くそ、なんでやつだ……細胞ひとつ残らず消滅させなきゃ何度でも戻ってくるか、はは」とレイトは笑いながら弱音をこぼした。
「レイト、待ってて今私が……きゃあ!!」
状況を把握したイレイアは援護に回ろうとした所で素早い触手に首を捕まれビッグスライムに捕まってしまう。
(魔力も、残り少ない……有効打になりそうな呪文も多分今の私には無い……)
首を絞められ、イレイアは杖を落としてしまいその為、呪文詠唱もままならず抵抗出来なくなってしまう。
「ぐっ、このままじゃあたし達ホントにヤバい……」
「ピギピギピギャアアア!!」怒れるスライムは命を奪う為、瀕死のレイトに更なる攻撃を加えた。
『ぐあああ!!!』
凄まじく早い勢いで伸びてくる触手が、針のような形状に変化し、レイトの身体につきささる。
__レイトの身体全身に痛みと衝撃が走った。
スライムは心臓を狙ったが、しかし咄嗟にレイトが危機を感じ避けた為胸の貫通は避けられたが肩に槍のように変化した触手が突き刺さってしまった。
「ハァハァ……レイト!!」
成す術が無く見てるしか出来なかったイレイアがレイトの身の危険を自分の痛みかのように心配した。
イレイアの頬から伝う涙。
「レイト!! レイト!! 何とか言いなさいよ」声を荒らげ、レイトへ返答を求める彼女。
「……」
気絶寸前のレイト、敵へ拘束されてしまって動けないイレイア、状況は最悪であった。
しかし、この男はこの状況を待っていたと言わんばかりにこの状況にに似つかわしくない笑い声を一人あげる。
「は、ははは!!」
「……レイト?」それまで涙を零していたイレイアの顔が晴れ、真剣な顔でレイトを見つめる。
「バカ野郎、こっからが俺の技能の本番だろうが!! イレイア!!」
『見せてやるよ!! 俺の秘策をなぁ!!』
このピンチを逆転へ導く秘策が有るのであろうか、死の狭間を彷徨う、衰弱したレイトの目の灯火は凄まじい希望光をともしていた。
明日にはまた更新します!!