2話 -迷宮ダンジョン-
「おぉ、 ここがランバル高原か」
身軽に__スッと、魔列車から降りると目前に広がる大自然の美しさに、思わず声が出てしまった。
__王都からかなり離れた大高原、それがランバル高原。澄み渡る空気、身体を吹き抜ける爽やかな風、全てが心地よい。
普段生活していて、滅多に目にすることの無い大自然が王都に隣接している事に感動し、異世界を胸いっぱいに感じるレイト。
「なによー、ただの高原じゃないレイト」
「あ、そうだな。あはは」やべ、こっちの世界では高原や、大自然なんて普通か……なんか悟られちまうぞ俺と自分のテンションを再調整し直すレイト。
「あんたってほんと、不思議よね いちいち色んなことに驚いたりして」
「そ、そうだな、意外だろ? はは」適当に話を流しつつ謎の質問をした。(やべ、異世界人なのばれそう)
「そうね、ぷくく……やっぱりあんたって面白い人ね。」イレイアのよく分からない笑いのツボをナチュラルに刺激したのかイレイアは笑ってくれた。
「そういうお前もな、さ急ぐぞ」
と、ダンジョン探索と言うクエストに支障を来さないためにイレイアを引っ張るレイト。
「そうね行きましょう」
「そう言えば、今回のダンジョン探索どんな依頼なんだ?」さっきイレイアに、依頼書は見せてもらったのだが、レイトには報酬金の部分しか目が行かなかった為、ダンジョン探索の詳細が全く、分からなかったので、どんなクエストなのか質問する。
「ちょっとまってね、ええと、ランバル高原にある遺跡内の異音の調査だって」
見かけに選らずしっかりしている、イレイアは俺の為に依頼書を取り出しクエストのオーダーを確認して俺に伝えてくれるイレイア。
「異音の調査か……嫌な予感しかしないな」
「よね、きな臭い匂いしかしないわよねこの任務報酬金が高い割にオーダーの内容があやふやだし、それにこの最後の一文……最下層まで行って何も無いなら帰ってきていいって、不安しかないんだけど」
表が有れば裏があると言わんばかりに、報酬と良い意味で釣り合わないこの金額設定。
普通の『調査』クエストの何倍もある報酬金が、絶対このダンジョンには、なにかあると二人は身構えた。
「ま、レイトが居れば安心よね 」
「信頼してるわよ? 紐男さん♪」
茶目っ気全開で男の甲斐のハードルを上げるイレイア。
「ぐ、」
__以前、風来のソロハンターだったイレイアが彼と共に冒険を続ける、理由が二つあった。
一つはシンプルに彼が面白いから。
そして二つ目は、戦力で見れば期待さえ、出来ない彼の戦力値であったが、イレイアが彼をパーティに置くのは彼の持つ『固有スキル』がチート級であったからである。
「この、パーティ盛り上げて行きたいわよねレイト!!」
「おい、急にどうしたんだよ」
「ふふ、なんでもないわそれじゃ行くわよ」
そんな事を喋りがら目的地に向かっていると、鬱蒼とした森の中に二人の前に目的のダンジョンである遺跡へ到着した。
大高原に祀られている、その遺跡は年季でヒビや、すす、サビが至る所に入っていて、外観から明らかに時の流れさえも感じる。
「この階段の先がダンジョンが……ん、なんかあるぞ?」
四本柱の奥に、何重もの魔法陣で頑丈に封じられた階段があり、その下り階段の入口にはハンター以外立ち入り禁止の立て札があった。
「ん、イレイアこれってまさか?」
「ええそうよ、協会のお墨付きダンジョン特級ダンジョンよね」
危なすぎる禁止区域やダンジョンには国の『治安維持協会』が関与しこう言ったハンターや専門の職業の人間しか入れない魔法で封じられた、場所が存在する。
「やっぱヤバかったわね、このクエスト」
「ああ、だけどやってやろうじゃんイレイア!!」
「ええ、そうときたら始めましょレイト」
「おう!!」
魔法陣で封じられた立て札に、レイトは手をかざし。ハンターギルドの人間であることを魔力で証明した、そして封じられていた入口が物凄い音を立て、下に通じる道がゆっくりと解放される。
__ブォン!!
ハンターコード『No.11464サヤマ・レイト』『同意の上、魔力解析確認しました、解放します。』
__ゴゴゴゴ。
解放されたダンジョンへ二人は探索を開始した。
薄暗い、封印されていたダンジョンであるが故蝋や、ランタンと言ったあかりが全く無く前が良く見えない。
「自然に暮らす、聖なる精霊達よ私イレイアが命じますどうか私の元へ来て力を貸して下さい」
_フッ。
魔法使いで精霊使いでもある、イレイアが呼び出した炎の精霊が自らの力で、炎を解き放ち 、前が見えなかった二人に導を示すように暗闇だったダンジョンに炎の光を次々に灯す。
「お、助かるぜ流石イレイア、ナイスだ。」
「私は呼んだだけ、礼なら精たちに言ってあげて」そう言って、イレイアは律儀な受け答えを冷静にする。
「お、ああ。分かった」
__タッ、タッタ。
狭い一方通行のダンジョンを下れる限り下る二人。
そして、ある程度進んだ所で、一本道だった階段が二手に分かれる。
「……どっちだ?」二人は同じ言葉をピッタリのタイミングで発し、顔を見合せた。
この場合どちらの道に行くのが正解なのだろうと考えるレイト、それと同時にこの分かれ道を起点にイレイアと俺で、二手に別れて探索すると言う事も考えられた。
「どうしよっかレイト」
「そうだな……」
レイトの中にはいくつかの考えがあり、そしてその考えを決める選択を迫られた。
「『異音』の調査って事だし二手に別れて行動した方が合理的だけど、でもそれだと不測の事態に対応出来ない、ここは二人で同じ道を探索しよう」と二人で行くと言う選択を取ったレイト。
「そうね、そうしましょ いい考えじゃない一人より二人よね私達パーティなんですから」とイレイアもレイトの意見に賛成してくれた。
「ありがとうイレイア」
「ええ、当然よ」
そして二人は二手に別れていた道の右を探索する事を決意した。
行く方向の道の選択は至ってシンプルだったそれは『ジャンケン』による決定であった、勘で右に行きたいと言うイレイアがジャンケンで勝利した為、そっちを進む。
「やったー! 絶対こっちが正解よ」
「クソ……変な事起きたら全部お前のせいだからな」と冗談を言うレイト。
ゆっくり、ゆっくり道を進む二人
__そしてその『異音』が聞こえ始めてくる。
ズズズ……ズズズ。
少しの地響きを伴い聞こえてくる鈍い何かを擦るような音、まわりが薄暗い為かとても不気味である。
「うわぁ……聞こえてきた」
「ああ、やっぱり絶対なんかいるなこれは」
そしてある程度道を進んで言った先にどうにも、抜けられなさそうな壁が出現し行き止まりにさしかかった。
「行き止まりじゃん、やっぱりこっちの道間違ってるぞイレイアもどろうぜ」
「うっさいわね、ちょっと待ちなさいこの壁もしかしたら開くかもしれないじゃない」
イレイアが力を振り絞り壁を押して行き止まりという真実に抵抗をする。
「無駄だって、戻ろ」
しかし、その時だった。
__ゴゴゴゴ
イレイアが壁に強く触れた途端一件行き止まりかと思われた壁が轟音と共に開かれた。
「ほーら、言ったじゃない開くってこう言うのは強く押したりすると開くのよ」
絶対、物理的に空いたのではなく何かの条件をクリアしたから空いたのであろうがここは長引そうなので黙ってレイトは褒めておいた。
そして開いた通路の先に物理的に人間が構築したであろう部屋があった。
喋ったら声が響くくらいに閑散とした無機質な室内、そしてその部屋に似つかわしくない魔法で閉じ込められた何メートルもある巨大な箱と奥の方に祀られている秘石何も無い部屋に目立ったふたつのオブジェクトがあった。
「お、なんか壁にデカい宝石があるぜ、イレイアこれハントしてこうぜ!!」
「あんたねぇ、こんな文化的に価値がありそうな物に対して遠慮ってモノがないの?」
「だって誰のものでも、ねーだろこれなら採取して売っちまおうぜ」世の中金だと言わんばかりに卑しいレイトの心がバリバリイレイアに透けて見えた。
「あんたねぇ……バチ当たるわよ絶対」
そして次に二人が目をやるのはその圧倒的な威圧力のある大きな『箱』だった。
「ん、イレイアこれって……」
「ええ、これはとても強い魔法で何かが封印されている棺ね」
「棺!? って事はここはお墓って事?」
「そうね、普通ならそう思うのが普通なのかも知れないけど、でもこの棺の中身……」イレイアはその手を棺へ添わせた。
「やっぱり……中の人間は生きているわ」
「なんだって!? 生きてるって本当か!?」
魔法使いであった、イレイアは棺の中の魔力を調べる事で生死を調べることが出来た。
「それじゃあ、助けねぇと!!」
「クッソ!! 開かねぇ……!!」
棺には封印式で固められた魔法陣、更には鍵穴が付いており、どうやら魔法的、物理的共に、ロックされているようだった。
「待ちなさい!! レイト!!」
イレイアの制止の声も虚しく、人一倍お人好しなレイトの頭の中は目先の『救出』の事で一杯であり、イレイアの声は彼には届かなかった。
レイトは棺の封を強引に両の手で開けようとした。
__グググッ、めいいっぱい力を込め引っ張るレイト。
「今助けてやるから、少し待ってろ」
__しかし、彼が棺に触った途端先程聞いた異音が激しくなり始める。
__ゴゴゴゴ、ゴゴゴゴ。
部屋奥の秘石が光だし、足元が激しく揺れ出した。
「クエストに書いてあった揺れ、まさにこの事だわ」
「やばい、この揺れ激しすぎる」地に足と手を付け激しい揺れに耐えるレイト、イレイアは魔法で浮遊し余裕綽々だった。
__そして、秘石から半透明のレーザーが地面向かって射出されその光線が3Dプリンターの様に魔法陣を出力し、地面に描き始める。
「なにか始まったわね、来るわよレイト」
「ああ、やるぞ イレイア!!」
クエスト依頼書の内容から、どうせこんな事になるだろうと覚悟できていた二人は直ぐ様戦闘体制に入る。
二人の予想は的中し、魔法陣の中から禍々しい魔物が召喚される。
『ピギュャアアァァ!!』
魔物はおどろおどろしい、鳴き声を上げて威嚇する。
「きゃああ!!」
「うわ気持ちわりぃ何だこのドロドロのモンスター」
とてつもない異臭の正体に目をやるとそれは、ゾンビの様に身体が溶けていて、更にはアメーバの様なグロテスクな見た目、ドロドロで巨体な恐ろしい、巨大なスライムの魔物が二人の目の前に、立ちはだかった。