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始まりはよくある婚約破棄のように  作者: 喜楽直人
第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」
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宰相補佐オレファン、皇女の案内役を任命される・02



 翌月、王宮内の謁見室。


「グナーデ皇国の永遠なる友、栄えあるオリゴー王国国王陛下にご挨拶申し上げます。グナーデ皇国第二皇女クラリース以下視察団一同、御拝謁の栄誉に預かり光栄にございます。皇国へ新しい技術の風を取り入れたいという申し出を快く受け入れて戴いたこと、とても嬉しく存じます」


「我がオリゴー王国の永遠なる友、栄えあるグナーデ皇国よりようこそ。クラリース第二皇女。我が王都に取り入れた上水道施設を視察したいとの事だったな。快く受け入れよう。この視察が二国の結びつきを強くできる、素晴らしいものとなるべく助力しよう」


 グデーナ皇国訪問視察団の代表として第二皇女からのオリゴー王国の繫栄を寿ぎと視察の申し入れの言葉に、オリゴー国王陛下は鷹揚に許可を下した。


 打ち合わせ通りに厳かに進む式次第に、会場内は静謐に包まれていた。

 本日の拝謁はこれが最後だ。外交という意味ではこの一件のみである。

 夜は、グデーナの視察団を歓迎する為の小規模な夜会が開かれるが、王太女でもないただの王女としての視察に対して、それほど大袈裟となる訳もない。

 どこかホッとしたような弛んだものがあって当然だろう。


 しかし、敬愛する国王陛下のこの言葉で、臣下一堂に緊張と動揺が奔った。


「接待役は、第二王子であるオレファンが務めることになっている。なにか相談したいことがあったら頼るといい」


 ざわり。


 大臣など要職にある者のいる辺りからざわめきが上がった。感情を制御できて当たり前の高位貴族でありながら、あからさまに動揺を表してしまった気まずさに、場内の至る所で咳払いや身じろぎする音が落ち着きなく広がっていく。


 そんな場内のざわめきは、陛下が手招きで呼び出した、ひとりの青年により遮られた。


 立ち上がっただけなのに、目が吸い寄せられるようだった。

 太陽がそこにあるように輝く金の髪とエメラルドを嵌め込んだような美しい瞳。

 少年期を脱し、骨格も太く大きくなりがっしりとした体躯は、ただそこに立っているだけで王族らしいオーラを振りまく。


「我がオリゴー王国へようこそ。善き友グナーデ皇国クラリース第二皇女殿下。この度の視察における接待役をオリゴー国王陛下より申し付けられましたオリゴー王国第二王子オレファン・オリゴマーです」


 左手を胸にあて軽く会釈を送る。その仕草にすら気品があった。

 対する皇女も、美しい笑みを浮かべてそれに答えた。


「グナーデ皇国王太女候補クラリース第二皇女です。ご紹介ありがとう存じます。オリゴー王国の隠し刀、未来の宰相オレファン殿下のお噂はかねがねお聞きしておりました。お会いできるのを楽しみにしておりましたのよ」


 つい、とごく自然な仕草でクラリースがエスコートを強請る手を差し出した。


 しかし、その手を受けるべき相手であるオレファンは、その場から一歩も動こうとしなかった。


 代わりに、首だけで横を向いて笑顔で頷くと、オレファン殿下の更に後ろからひとりの見目麗しい令息が現れ、皇女の手を取った。


 呆けた様子でそのエスコートを受けたクラリースの前に、オレファンはようやく面と向かった。


「クラリース皇女殿下、ご紹介します。彼はドートル侯爵家三男で私の側近Cもといカインといいます。彼に手配できない物はこのオリゴー王国内にはなにもないと言っても過言ではない。有能な男です」


 クラリースの手を取った手とは逆の手を胸元へ当て、カイン・ドートルが腰を下げると、クラリースの白い手へ敬愛のキスを贈った。実際に触れた訳ではない。形だけだ。

 だが、その流れるような仕草はさすが侯爵令息で第二王子の側近なだけはあるという堂に入ったものだった。


「勿論、視察初日や最終日などは私も同行させて頂きます。なにか至らない事があった際には傍に私がいれば直接ご要望戴いても構いません。皇女殿下におかれましては、快適に視察を済まされ、帰国された御国にて充分な成果を報告できるよう、出来る限りスムーズにご要望へお応えができる体制を整えるつもりでおりますよ」


 にこやかに告げられた、その言葉の意味するところに、つい先ほど動揺を表してしまったことに動揺していたお歴々の間に、再び動揺が走る。

 もちろん、クラリースも気が付いたひとりだ。


 オレファンからクラリースへ、はっきりと線引きがなされた。


 この程度の会話の裏が読めないような愚鈍な者は、偉大なるグナーデ皇国の王太女候補にすら名前が挙がらないし、友好国への視察団の責任者に任命される訳もないのだから。


「オレファン殿下におかれては、わたくしの接待役ごときでは、ご自分には役不足であると仰りたいのでしょうか」


 しかし、言葉の裏は読めたとしても、それを老獪に窘めるまでには至っていない。

 クラリースはかなり直線的に、それを訊ねた。


「滅相もない。オリゴー王国国王陛下より直に申し付けられたお務めです。そのように思うほど身の程知らずではありませんよ」


 いけしゃあしゃあと言うオレファンの後ろで、国王が苦い顔をしていた。

 他国の外交団に対して無礼であろうと、咎めるべきか微妙なラインではある。

 だが、国王にとって次男は問題児であるといえばあるが、それが処罰を与えねばならぬような失態をわざわざ起すような種類の問題児であると思ったことは一度もなかった。周囲の側近達も優秀で、そんな子供じみた行為に加担するような無能者はいない。そうしてその信頼は今も国王の胸にある。


 明らかな失態を引き起こすまでは静観することに決めた国王は静かに目を閉じた。


 一方、穏やかでいられなくなったのはクラリースだった。

 国王が目を閉じたということは、このオレファンの行動について黙認するという意思表示だろうということは明白だった。


 つまり、グナーデからではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()については最初の回答通り完全に拒否するつもりもないが、喜んで受け入れるつもりもないままである、ということだ。


 接待役として希望を受け入れたのだから、それ以上は自力でなんとかしろということなのだろう。クラリースは、そう受け取った。


 ここが自国であるならば、クラリースとてこのような扱いを受けて大人しく引き下がることなどしない。


 しかし、場所が悪すぎた。

 視察団を受け入れてもらった初であり、その歓迎式典の最中だ。

 先ほど直情的な言葉を使ってしまったばかりだと自覚のあったクラリースは言葉を飲みこんだ。


「どうやら第二皇女殿下はお疲れの御様子。今日の謁見は友好国であるグナーデ皇国が最後。つまりは終わったも同然です。この後に開かれる夜の晩餐会に備えて、早めにお部屋へお戻りになられた方がよろしいでしょう」


 オレファンはカインに向かって目配せを送ると、にこやかに両の手を後ろに回してまっすぐ立ったままだ。

 つまり、本人がエスコートするつもりはまったく無いということだ。

 そうして当たり前のように先ほどの側近が手を差し伸べる。


「僭越ながら。グナーデ皇国の華、クラリース第二皇女殿下。お部屋へとご案内いたします。どうぞ、国王陛下へ退席のご挨拶を」


 いくらクラリースが格下だと認定していようとも、友好国がこの度の外交を受け入れるに当たって、実質的な接待役であると割り振られた者からの進言を、すげなく切り捨てることはできない、()()()()()()


 しかし、皆の注目の集まる中、エスコートを受け入れるべく手を伸ばしかけていたクラリースは、震え出した手を豊かな胸に引き戻してしまった。そうしてその視線が、ゆっくりと下がっていく。


 細い肩を震わせ、下を向いたままの目元へと何度も手をやる姿に、周囲は同情を寄せた。


 ──泣かせてしまう。


 初めて外交団の責任者となり向かった友好国での歓迎式典。緊張も、活躍する未来の自分という夢も希望もあっただろう。胸を膨らませて挑んだその場で、歓待役の筈の王子から、あからさまに冷たい態度を取られては、心を痛め参ってしまっても不思議はない。


 妖艶とすら見える容姿をしていようとも、実際のクラリース皇女はオレファン王子よりもひとつ下であるのだから。


 そうして顔を上げたクラリースの瞳は、涙で潤み揺れていた。


「オレファン様は、わたくし自身が、お嫌、なのですか?」

 

 身を捩り、弱弱しげに縋ろうと一歩前へと足を踏み出したクラリースの白磁のような頬を涙がひと筋伝って零れ落ちた。


 大人びてみえる皇女の、年相応の幼さ。その健気で可憐な様子に、人々の視線と同情が集まる。


 そうして近付いた筈のクラリースとオレファンの距離は、けれどもまったく変わっていなかった。


 クラリースが一歩踏み出すと、オレファンが一歩下がる。


 横へ後ろへとクラリースの歩に合わせて移動を続けるオレファンに焦ったのか、クラリースがドレスの裾を乱して蹈鞴を踏んだ。


「あっ」


 バランスを崩したクラリースの手を、逞しい手がとった。


『掛かった』


 もちろんこれは、クラリースの演技だ。

 躾けらえた紳士たる者、目の前で姫が倒れそうになるのを見て放っておける訳がないのだ。

 必ず手を差し伸べ助けるだろう、と。


 果たしてクラリースは、差し伸べられた手を引き寄せ、服の上からだけでは分からない見事に鍛え上げられたその身体へと自ら強く縋りついた。


 あたかも引き寄せられて仕方がなく抱き寄せられたのだと周囲からは見えるように。


「ありがとうございます、助かりました。お陰で不作法に倒れ込むようなことにならずに済みました」


 さっと手を肩へと廻して胸の双丘を押し当てる。やわらかな肉がむにゅりと形を変えるほど身体を密着させてから、顔を上げたクラリースの視線の先には、頬を染め困ったように笑った顔があった。


「……側近、C」

「カイン・ドートルです」


 クラリースを抱え込むように助け起こしたのは、オレファンの側近Cことカイン・ドートルだった。


 オレファンはその横で「お似合いじゃあないか」と頷いている。

 クラリースは慌ててカインの腕の中から飛び退いた。


「なっ、なんでっ。なんで私の魅力に堕ちないのよ!」


 クラリースには今回の視察に合わせて企てた自身の計画に、絶対の自信があった。それなのに。



 オリゴー王国の第二王子は、その見目が麗しいだけではなく文武に優れていると近隣諸国でも有名であった。

 学園を卒業して宰相補佐になった途端、オリゴー王国の財政改革に成功。机上だけではない実際の政務において成果を上げており、各国から熱い視線を送られていた。

 にもかかわらず、だ。

 すでに兄王子が立太子しており、その妃が懐妊したことで、将来は臣籍降下し、公爵令嬢の婚約者と結婚し公爵となるという。


 人望も美貌もある有能な第二王子を国内を治める為に使い捨てるなど、あまりにも勿体ないではないだろうか。


 優れた人材は、それに相応しい素晴らしい役職に就くべきだ。


 例えば、偉大なるグナーデ皇国女王の王配という、地位も名誉もある素晴らしい役目などとても似合う筈だ。


 幼い頃から国内の公爵令嬢と婚約を結んでいるようだが、それも兄王子の立太子の邪魔にならない相手として、爵位や歳まわりが相応しいとして選ばれたのだろうともっぱらの噂だった。

 実際にクラリースが探らせた報告書には婚約者に関して特筆すべきものは何もないとされていた。

 更に、何の手心も加えないよう指示して描かせた姿絵によると、髪も瞳の色も地味な茶色で、顔全体の造りにもこぢんまりとしている。つまりは華が無いのだ。

 体形に至ってはクラリースと同い歳とは思えないような凹凸のない幼児体型。


 あれでは殿方の興味を惹きつけることなど出来る訳がない。

 グナーデ皇国の華と呼ばれるクラリースに敵うものなど何一つない、ただ公爵家に生まれたというだけの、つまらない少女だ。


 どんなに清廉潔白と謳われていようが、オレファンとて、思春期をようやく過ぎた男性である。


 年齢のわりに妖艶で色気がただならぬと言われてきたクラリースは、自身の魅力に絶対の自信を持っていた。


 そう。クラリースは今回の視察で、近隣諸国で名の知られたオリゴー王国の第二王子オレファンを王配として迎え入れることで、グナーデ皇国の王太女として立つ為の切り札を得ようと画策していた。


 この事は、視察の受け入れを打診する際にオリゴー国王宛てに内々に話も付けてある。


()()が受け入れたら』


 いささか抽象的過ぎる回答ではあるが、国内の公爵令嬢という婚約者がいる状態で婚約を持ち掛けたにしては順当といえるものだろう。

 政略としてどうしても成立させたい婚約であるならば、即行で断られている筈である。

 つまり王国側も、公爵家とよりもグナーデと縁を結ぶことに意義を見出しているという事だ。


 なのに。


「殿下は、わたくしの王配になるのはお嫌なんですか?!」


 突然の発言に周囲がどよめいた。


「はは。いくら異国に出て気分が高揚しているとはいえ冗談にも程がありますよ、クラリース第二皇女殿下。グナーデ皇国の王太女は、まだ決まっていらっしゃらない。ですよね?」


 オレファンのにこやかな表情は、最初の挨拶の時からずっと変わっていない。

 けれど、そこに籠められた圧はまるで底冷えしそうなほど冷たかった。


「初めての外遊で緊張されたのでしょう。場を和ませる為の話題選びに失敗されたのも、仕方のない事です。やはり早めにお部屋にお戻りになられた方がよろしい」


 冷たい笑顔のまま、重ねて退席を促すオレファンに、クラリースが叫んだ。


「冗談などではございません! わたくしを選んでくださいませ、オレファン殿下。あのような幼児体型の婚約者よりずっと、わたくしの方が、……ひっ」


 今度こそ、一直線にオレファンに向かって抱き着きにいったクラリースに向かって、オレファンがまるで目が笑っていない笑顔を向けた。


「僕は、ミリィがいい」


 美しい顔が、瞬きすらせず睨みつけている。その圧の強さに、クラリースが怯んだ。

 しかし、自分が怯んだことを認めたくないのか、必死になって口を開いた。


「ですが! 美しさだって、スタイルだって。わたくしの方が、ずっとずうっと」


 むにゅりと腕で自慢の胸を持ち上げ、谷間を強調してみせる。

 その艶やかでやわらかそうな肉の丸みに、男たちの視線が吸い寄せられた。


 肝心の、オレファン以外の男たちの視線ではあるが。


「聞こえませんか? 僕にとって興味があるのは、ミリア・ファネス公爵令嬢のものだけなんですよ。貴女を賞賛してくれる男性は沢山いるようです。そちらへどうぞ?」


「でも、わたくしを選んだ方が、オリゴー王国としても益があるのではないですか。国同士の結びつきを強くできるだけでなく、あなた自身も、一国を導く尊き存在となれる。生まれた順番が遅いというだけで王位を継ぐことができない不公平な楔を解ける」


「それは、第二皇女として生まれたクラリース殿下が感じてきた不公平さでしかない。僕はそんなものを益とは呼ばない。僕にとって、この世で意味があるのは、ミリィ唯ひとりだけです。国の利益だって、僕には関係ない!」


「なにを、言って……」


「そもそも、他の誰からの評価も必要ないし、どうでもいい。貴女の方が美人だという人がどれだけ沢山いようが、そのひとつひとつは個人の判断だ。僕の意見とは違うだけです。どうぞご自由に。僕は気にしない。関係ない。僕にとって最高で最上で至高な存在は、僕が決めます。それは、ミリア・ファネス。彼女だけが僕の特別。彼女の横に立つことのみを僕は夢見て精進してきたのです。僕からミリィを奪おうとするなら叩き潰すのみですし、僕がミリィといる時間を奪おうとするなら全力で抗いますが、それ以外ならお好きにどうぞ。ですから、どうぞ僕のことはお気になさらないで下さい。むしろ気に掛けられては迷惑千万。ミリィから誤解される可能性が湧くかもしれないと思うだけで腹立たしいので、手が届きそうな範囲まで近寄らないで欲しい」


 息継ぎ少なく一気に告げながら、また一歩後ろへと下がりクラリースとの距離を取る。


「そんなっ、オレファン殿下が、貧乳派だったなんて」


「違う。僕にとって重要なのは、大きさでも、形でもない。それがミリィの……その、愛する彼女のものであるということだけが重要なんだ」


 言葉の途中でポッと頬を染めつつ、けれども堂々と胸を張ってオレファンが宣言した。


 誰ともなく、周囲からは「あー……」という残念そうな、ため息が漏れる。 

 その胸の内はひとつだった。


『良いこと言ってる気はするんですけど、言葉にするとかなりヤバいな。ウチの第二王子殿下』


 しかし、友好国の皇女からの求婚を断るのは確かにあまりよいことではないだろうが、オレファン殿下には正式な婚約者がいるのだ。


 ミリア・ファネス公爵令嬢。


 見目こそ平々凡々であるが、しっかり者で、予測のつかない行動をとるオレファンがまともに見えるように上手に誘導できているのは、彼女の才覚によるものだという事は、上層部では有名な話だ。

 彼女なしにこの国の第二王子は有能たりえない。



「愛する人のものであることが、重要だなんて。そんな、そんなの。それに、王族の結婚というものは、そんなものではないはずだわ。国益とか、外交上の手札とするとか。いろいろ、いろいろあるはずよ」


 オレファンの言葉に衝撃を受けたクラリースが、床へ頽れるようにして膝をつく。


「いいえ。それ以上に大切なものなど、この世にはありません。少なくとも、僕の辞書にはないです」


 言い切るオレファンの後ろで、国王陛下以下この国の重鎮たちが深いため息を吐く。

 実際のところ、彼等の中でも、誰ひとりとしてオレファンがミリア嬢との婚約を無効とし、友好国の王配となるべく婚姻を受け入れる可能性があるとは思っていなかった。


 それでも、どうしてもと重ねて請われて断り切れず、仕方がなくふたりが近付く機会だけは作ることにしてみたのだ。どうせミリア嬢といるオレファンを見れば、皇女の方から断られることは間違いないのだ。

 これで噂のオリゴー王国の第二王子の真実が周知されれば、見合いの話が来ることも無くなる、と。

 そう目論んだのだが、まさかの初手からオレファンによりバッキバキに叩き壊されてしまった。


『これ、どう決着つければいいんだ』

『知りませんよ』

『おい、誰か儂の寿命が縮む前になんとかしろ』


 王と家臣たちの間でアイコンタクトが飛び交う。

 しかし誰も打開策を思いつけずに、ただ見守るしかない。


 微妙な空気の中を打ち破るべく、王がごほんごほんと咳ばらいを繰り返し、言葉を発した。


「あー、ゴホンゴホン。あー、夜には歓迎晩餐会も、えー、ある。そろそろだな、準備を」


 気まずげに話し始めた王の言葉へ高らかに笑う声が重なり、消し飛ばされる。


「ふふっ。ふふふ。そうですか、好きな人を諦めない王族も、いるのですね」

「えぇ。いてもいい。僕はそう思っています」


「そうですか。ふふ。素敵ですね。いつか、わたくしにもそういう方ができるかしら」

「えぇ。諦めなければ、いつかきっと」


 吹っ切れたように明るい笑顔で、クラリースが眦に溜った涙を拭きとり、オレファンに笑いかけた。


 すると、それまで一切近づこうとしなかったオレファンが、手を差し出した。


「エスコートを、して下さるのですか?」

「今の第二皇女殿下からは、秋波の色を感じませんから。ミリアも不安になったりしないでしょう」

「平凡なのは見目だけで、婚約者のミリア様は優秀な御方なのですね」

「えぇ! 僕にとってミリィは見た目もすべて完璧ですが、同意はいりません。ミリィを特別に想うのは、僕だけでいいので」

「まぁ! 熱々ですのね。ふふ。この視察の間に、婚約者の方からもお話をお伺いしてみたいわ」

「駄目です。ミリィの時間は、僕の為にあるので」


 にべもなく誘いを断られたというのに、ころころと上機嫌でクラリースが笑う。




「……くっ。なんだこの茶番は。儂の縮んだ寿命を返せ」


 笑顔のふたりを前に、こっそりと悔しがる国王陛下を、


「いいえ、すばらしき勇気でした」

「陛下は頑張られましたとも」

「あの時点で取れる最良の道を選ばれました。御英断です」


 宰相たち家臣一同が王を心より褒め讃える。



 オリゴー王国は、今日も平和だ。






お疲れさまでしたー。解散☆



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