2.ふかふかのベッドでまどろめば
「初夜…実感ないなぁ」
ボフン
「ふっかふか」
寝室だという部屋のベッドは綺麗に整えられ過ぎて。とりあえず端に座っていたけど、起きているのも疲れてそのまま後ろに倒れた。旦那さんとなる人は、到着が遅れているとの連絡があった。
「はぁ」
ぼんやりしている間に夜になっていたな。今日から神殿ではなく家に住むらしい。
「家っていうか豪邸っぽい」
新居だというこの家に連れてこられた時には既に夜で、全体がよく分からなかった。
「皆、どうしてるのかなぁ」
うつらうつらと眠る前の気持ちよさに任せ目を閉じた。
*~*~*
揺れる。
吐きそうなくらいの揺れだ。
『助けてくれ!』
「わ、わたし」
『元に戻さなくていい! ただふさいでくれ!』
腕がちぎれた人が叫んだ。
ドーン
ドドーン
『大隊長!第二部隊、生存者不明! 第三部っうっ』
目の前にいた泥だらけの人が倒れ、その背中には尖った大きな見たこともない光る欠片が刺さっていた。
『頼む! アレをここで食い止めなければ、町は国は全滅する!』
頼むってどうすれば。
人の形や動物の姿をした真っ黒な沢山の生き物は、人をなぎ倒していく。ある者は、宙に飛び、ある人は、千切れていく。
怖い。音も、目にしている光景も、臭いも。
…私、死ぬのかな。
「どう…すればいいんですか?」
私の蚊の鳴くような声に顔が泥だらけの大きな人は教えてくれた。
『治癒を。そして戦えと!』
言われた瞬間、私は、生まれて初めて祈った。
強く強く。
「治れ! 死なないで!」
死にたくない!! どうでもいいと思って生きてきたはずなのに。
こんな、頭がとれて胴体がばらばらになるなんて、こんな死に方は嫌だ!
「戦って! 生きて!!」
それは形になり力となる。
食べられた足を治し、肉が見える傷を塞ぎ、離れた腕を生やす。
焦げる匂いは、どちらのモノか。
「あぁー!!」
私の両手は赤黒く血にまみれていた。その指が溶けていく。ガタガタと揺れるのは地面じゃなくて私の身体。
息ができない。
苦しい
誰か 誰か 助けて
ふいに温かい何かに包まれた。
誰かが私の頭を撫でる。
あまりにも温かい温度に涙が溢れた。
ああ。
ありがとう。
やっと呼吸ができた。
*~*~*
ピルルッ
綺麗な鳴き声。
眩しいな。あれ、夜なのに眩しい…?
「…朝?」
眩しさに目を擦ると。
「目が覚めましたか?」
男の人の声がとても近い距離で聞こえて無意識に身を小さくすれば。
クンッ
右手が動かない?
自分の腕を辿ると大きな手に握られていた。そのまま視線を上にあげると白いシャツが見えて。
「おはようございます」
青い目が私を見ていた。