夜明けの光
少年は、立ち込めていた砂埃がゆっくりと散っていく様を、上がった息を整えながら建物の壁にもたれて眺めていた。東の空から差し込む朝日が、路地裏から夜闇の名残を拭い去り、戦いの中運良く無事だった一角を、静かに、そして美しく浮かび上がらせる。
そこには一本の木がひっそりと立っていた。誰かが植えたのだろうか、いずれ大木になるであろう幹はまだ細く、しかし広がる枝にはすでに多くの蕾をつけている。石造りの街並みの中、微かに立ち上る命の気配は彼の目をひどく惹きつけた。
陽の光を受け、その白く輝く蕾がゆっくりと綻びはじめるのを、時を忘れて見つめる。しかしその香りが鼻へと届くよりも先に、地を揺らす轟音と振動が彼の意識を引き戻し、相棒の元へと急かした。
一つ瞬きをすると、名残惜しげに一瞥を投げてから、もう一つの戦場へ向かって駆け出す。
「……なるほど、彼が……」
振り返ることなく駆けていく少年の背を、建物の上から眺める者がいた。その目は冷静に、少年と、今まで彼がいた路地裏の状況を見下ろしていた。つい先ほど戦いが行われたばかりのそこには、いくつかの破壊の跡と、複数の魔力の残滓が残るのみ。どれだけ目を凝らそうとも、他に注視すべきものは見当たらない。
「しかし、これは思いの外、長丁場になりそうですね……」
夜明けの光に目を細めながら、笑みを湛えた傍観者はその身を翻した。