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忘却しなければ出られない部屋

作者: 高森
掲載日:2019/11/20

 突然とある部屋に閉じ込められた。

 隣には愛しい彼がいて、私と2人きりだ。


 これが何気ない日常のワンシーンなら、心をときめかせたりしていたに違いない。


 けれど今は、そんな甘い状況ではない。


 私と彼以外に、この部屋には1つの薬が置かれている。

 薬の効果は、最愛のパートナーに関する記憶の忘却。

 この薬をどちらかが飲まなければ、この部屋から出られない。


「どうする……?」

 

 彼が困り顔で訊いてくる。どうすると言われても、私だってよく分からない。


 もしかしたら何かのドッキリで、私たちは試されているのかもしれない。

 そもそも部分的に記憶を消すだなんて非現実的だ。


 私はあまり深く考えず、楽観的に返事をする。


「さすがに嘘なんじゃない? あり得ないって」


「そう……だよな。でもたぶんこれ、薬は飲まないといけないんだろうな」


「うーん、テレビ番組とかの企画なら、やっぱり飲んだほうがいいよね」


 すでに、薬の効果を信じてはいなかった。


 彼もしばらく薬を見つめていたが、しだいに決心したのか大きく頷く。


「……よし! 俺が飲む」


 宣言したと同時に薬へ手を伸ばし、躊躇ためらい無く口へと放り込んだ。


「あっ!」


 驚いた私が声を上げるも時すでに遅し。ごくりと飲み込み、目を2、3度ほどしばたかせる。


「……べつに何とも無い気がする」


 彼は私を見つめながら平然と答えた。


「本当に? 本当に本当?」


 私は念押しするように問いかける。


「大丈夫だって言ってるじゃん。ほら、扉も開いたし早く出よう」


 言いながら彼は私の手を引き、扉へ向かって歩き出す。

 彼の様子に変わったところは見当たらない。薬の効果を信じていたわけではないが、万が一の事態は想定していたので心のどこかに危機感はあった。


 けれどそれも無駄な心配だったらしい。


 2人でニコニコしながら部屋を出る。すると、こちらに1人の女性が駆け寄ってきた。

 そのまま私の胸ぐらを掴みかかる。


「あんた誰よ!」


「えっ? えっ……?」


 唐突に怒鳴り声を浴びせられて困惑するが、すぐに彼が間に割って入って来てくれた。


「ちょっと、いきなり何をするんですか」


 怒りを乗せた声で女性を非難する。

 

 私はこの女性のことを知らないし、どうやら彼も知らないようだ。

 これ以上の関わりは不要と判断したのか、私の手を半ば強引に引いて早足で歩き出す。


「ほら、ぼけっとしてないで行くぞ」


「う、うん……」


 いまいち状況は分からないが、理解する必要も無いのだろうか。

 先ほど私たちが出てきた部屋を見て泣き崩れる女性を背に、愛しい彼とその場を後にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悲劇は起こった…。そして男性が不誠実!! 小噺的で面白かったです。
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