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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
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結末

 冷たく凍るその地には、生きるものなどなく。

 ただ茫漠たる風が吹き続けているだけだ。

 その有様は、更なる北の荒廃と凍結の地、闇凍土ネ・モルーサと同じだ。

 と、ダークエルフの少女ネフェリアは思った。

 夢見ドリーマーとも呼ばれる予見にも似た力を持つ彼女は、ダークエルフの巫女としてこの南征の成功を確約した。


 はずだった。


 しかし、実際はどうだ?

 南征を指揮したダークエルフのネーベルをはじめ、ゴレモリア族、バズダバラ族、ラグン族、ガ氏族、グ氏族、ヨ氏族、ネ氏族はほぼ全滅した。

 一万体にも及ぶオークが、闇凍土ネ・モルーサから遠く離れたこの地で命を落とした。

 導かれる結論はただ一つだ。


 大失敗。


 この南征はダークエルフとオークの力を大きく、修復不可能なほだ削り取ってしまった。


「その責を負うのは、夢見ドリーマー……つまり、私、だ」


 ネフェリアは、だが笑っていた。

 それは、これから待ち受ける同族からの叱責と弾劾、処罰を恐れた強がりからくる笑い、ではない。

 本当に楽しそうに、嬉しそうに笑っているのだ。


「けれど、しかし。私がいなかったら?」


 その責任は誰に振りかかるのか。

 ネフェリアの代わりになるもの。


 それは、弟であり、ダークエルフの宗教的指導者である十一代目ファリオスに他ならない。


 血縁関係であり、さらにネフェリアの進言を取り入れ南征を推進したのは間違いなくファリオスだ。

 実行者のネーベルと、発案者のネフェリアがいなければ彼が全ての責任を取らなければならないだろう。


「そうすれば、ダークエルフは真っ二つに割れる」


 責任を取らせようとする者。

 使命を全うしようとする者。

 成り代わろうとする者。

 引きずりおろそうとする者。


 さまざまな思惑がからみあって、ダークエルフの仮初めの馴れ合いは崩れ去り、血で血を洗う内乱が起こるだろう。


「そうすれば、きっとダークエルフは絶滅するわ」


 ちらちらと雪が風にのり、降り始めた。

 あっという間に、戦場は白い雪に覆われる。

 殺した者も、殺された者も、全ての亡骸は雪に埋もれる。

 凄惨な戦いのあとは、そうやって白い雪に隠されていく。


 ネフェリアはようやく目的地に到着した。


 それは最後の戦いの場所。

 心臓を貫かれ、絶望の表情のまま動かないネーベルの遺骸がそのまま残っている。

 けれどネフェリアは、その遺体には目もくれなかった。

 ただ一振り残っていた黒い石が鋳込まれた短剣だけを見ている。


 おそるおそるというふうに、ネフェリアは剣に手を伸ばした。

 彼女の手の中に収まった剣は、あつらえたようにその小さな手にピタリと合っていた。

 彼女が使うことが最初から決まっていたかのように。


「ダークウォッチャー、いえ、ゲイル。聞こえるかしら? 聞こえているのでしょう?」


 黒い石からは答えは無い。

 しかし、ネフェリアは構わずに石に語りかける。


「この世に三度生まれ、三度死した闇の魂。それがあなたです。吹き止まぬ風のごとき暗き魂は幾度、凍える夜の世界に墜ちても、炎とともに還り来たる」


 それは、彼女の夢見ドリーマーの真の力の顕現だった。

 未来を夢見る力ではない。

 夢見たものを現実化する力だ。


 ダークエルフの滅びを現実にするために、彼女は死した魂を四度蘇らそうとしていた。


 しかし。


「ふぅ。やはり、力が足りないわ」


 人一人を蘇生させるには、彼女の持つ力では不足。

 簡単に蘇生できるのは、神や魔王といった伝説上の存在だけだ。


「だからこそ、歪なとはいえダークウォッチャーの存在は奇跡。この世界の有りようを大きく変えうる力」


 ネフェリアは短剣を布でくるみしまった。

 まだ、その時ではない。


「力を蓄えるためにも、まずはどこか遠くへ行きましょうか。知っていますか?ゲイル。闇凍土ネ・モルーサのさらに向こうには二つの大河に挟まれた国があるそうです。その近くにはドラゴンの住まう島や海の上に築かれた国、黄金の都などもあると言われています。ダークエルフが内乱で力を失うにはまだ長い時がかかるでしょう。ですから、私とともに旅をしましょう」


 いまだ見ぬ異国の光景を思い浮かべてネフェリアは笑う。


「充分な力が溜まったら、あなたを目覚めさせて私の目的を果たしましょう」


 ダークエルフの絶滅。


「あなたが目覚めたその時、約束どおり私の名を呼んでくださいまし」


 布にくるまれた短剣の黒い石がチカリ、と瞬いた。


 雪が強くなり、吹雪になって大地を覆っていく。

 目に見える全てが銀世界となったころには、ダークエルフの少女の姿は無くなっていた。



 この後、南方諸国には一時的、とはいえ平和が訪れた。

 光の国とベルトライズ王国との不可侵条約の締結によって。

 しかし、秘密裏に北限三国と呼ばれた地への侵攻を両国とも始めている。

 そして、命をかけて怪物たちから人間を守った北限三国の人々は英雄視された。

 凍土の魔法使いストリ、水の英雄ミナス、滅びし国の王女アウラ、老いたる英雄オアネモス。

 そして、その中で彼の名は不朽の英雄譚とともに伝承されていく。


 彼の名はダークウォッチャー。

 闇の種族を見張り、そして打ち倒す者。

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