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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
46/52

決着07

 崩れた戦線を建て直そうとミナスは陣形を組みオークと相対した。


 偃月刀を振るい、オークにダメージを与えていくが、こちらが一体倒すたびに味方が二人死んでいく状態だ。

 最前線で殺しまくっているダークウォッチャーたちのお陰で数の差はない。


 ない、が。


「アウラ嬢が……いなくなったのは痛い」


 相手に必中する矢というのがどれほど強力なものなのかを、アウラは示してくれた。

 だから逆に、アウラがいなくなった穴は大きすぎるのだ。


「だが、彼女だけではないな」


 残っていた48人。

 誰が欠けても、人間側の不利に天秤は傾く。

 オークは一体一体が強力だが、人間はそれぞれの持ち味を重ね合わせて有利を作っていくしかないのだ。

 その選択肢が狭まるのは嫌なものだ。


 終わりはいつも唐突だ。


 幾度も敵を切り裂き、屠っていたミナスの愛剣である偃月刀がオークの一撃を受け止めた時に折れた。

 咄嗟の判断で、折れた剣をオークに投げつけ、予備の剣を抜く。

 そのいくつかの動作が、オーク相手には致命的なタイムロスだった。


 投げつけられた剣を恐れもせず、そのオークはかわし相手に接近。

 ミナスが予備の剣を抜いた時には、そのオークはミナスの左胸を己の剣で貫いていた。


「長き戦いで積み重なった不運が、今たまたま発現しただけ。でなければ我は負けていたかもしれぬ」


 オークにしては流暢にしゃべる。

 そう思ったミナスは最後の力を振り絞る。


「名は……?」


 それだけ言うのが精一杯だった。


「ネ・ボーグだ。強き人間よ」


 答えはなかった。

 ただ、ゴボリと真っ赤な血を吐いたミナスは目を見開いたまま、動かなくなった。


 ネ・ボーグは優しく亡骸を地面に横たえた。

 強い戦士の亡骸を辱しめるのは武人としてやってはならない。

 そう、思ったがゆえだった。


 29/26


 後方の味方が崩れ始めたのを、オアネモスは感じていた。

 オークたちの攻撃の頻度があがっている。

 共に旅をし、かつ友人の孫娘だったアウラ。

 人間の軍の総司令官をつとめた優秀な男ミナス。

 その二人が亡くなったためか。


「若い者がわしを追い越していくな」


 思えば、つまのゼフィロナが逝った後からだ。


「そうか。わしが長く生き過ぎたのか」


「そう思うのなら、潔く果てろ」


 目の前を通りすぎる凶刃から、オアネモスは間一髪避ける。

 相手をしていたオークごと、切り裂いたようだ。

 ズン、と倒れる切り裂かれたオークの向こうに同族ごと攻撃してきた相手がいた。


 右手が異様に肥大化した黒と赤茶けた肌のオークだ。

 そして、やけに流暢にしゃべる。

 まるで、人間のように。


「そうか。人間のように、ではなく人間だった、のだな?」


 巨大な右腕を持つオークは笑う。


「この姿のどこが卑小な人間なのだ? ワレはネ・ルシ、偉大なる闇のオークの戦士だ」


「傲慢な自尊心、まさに人間だな」


「ワレはオークだ!」


 怒りにまかせて、ネ・ルシは突進した。

 オークの巨体が突き進んでくる様子は大岩が迫ってくるようだ。


 その程度なら、オアネモスには通じない。


 相手の脇をすり抜けるようにオアネモスはネ・ルシの背後に回る。

 そのまま、無防備な背中へ刃を突き刺す。

 硬い筋肉を突き抜け、柔らかな内臓、おそらくは心臓を抉る。

 これで終わりだ。


 普通の相手だったら。


 一仕事終えたオアネモスは、急に全身が圧迫された。

 何かで全身を挟まれているような。


 挟んでいるのは、巨大な手だった。

 その手は、ネ・ルシのものだ。

 関節がねじれたように駆動して、オアネモスの背後から掴んだのだ。


「なぜ、だ?心臓を……」


「心臓を突いたから? 抉ってぐちゃぐちゃにしたから? それがどうした。そもそも、それは心臓ではない。不要な臓腑だ」


 ネ・ルシはゆっくりと振り返りながら、言った。


「不要な臓腑……そうか、人間だったころの臓腑は不要、というわけか」


「まだ、言うか」


 ぎりぎりとオアネモスを締め上げながら、ネ・ルシは不快そうに言った。


「ぐう」


「骨と皮ばかりの老人を痛め付けるのは好みではないが、お前はワレを傷つけた。このまま絞め殺してやろう」


「老人一人殺したところで、お前が人間だった事実は変わらぬ」


「やけに拘るな。まあ、それならそれでもいい。今のワレは強きオーク。過去はいらぬ」


 苦しさにオアネモスは意識が朦朧としてきた。

 これを打開しようと、無意識に短刀をネ・ルシの大きな手に突き刺した。


「アグアガッッ!!?」


 野太い悲鳴とともに、拘束が緩む。

 咄嗟に脱出したオアネモスは距離をとり、ゲホゲホと咳き込みながらも息を吸った。

 その間も、ネ・ルシは苦悶の表情で呻いている。


「その腕……最強の武器であり、最大の弱点だったというわけか」


「おのれ、おのれおのれおのれ! 我が主よりいただいた腕に、よくも傷を!」


「ならば、あのダークエルフは根性がねじまがっておるか、お前のことが嫌いなのだな」


「そのようなわけはない。ワレは主に最も期待されているオークの戦士だ!」


「元、人間の、な」


「だ、黙れッ!」


 ネ・ルシは右腕を伸ばした。

 そこへ、オアネモスは飛び込んだ。

 オアネモスの短刀が、ネ・ルシの手のひらに突き刺さる。


「どうだ?痛いだろう?」


 自らの攻撃の勢いによって、短刀はネ・ルシの手に深く深く突き刺さり、痛みもまた強いものになっていた。


「グガガガガガ!!!!?」


 人間ならショック死してもおかしくないほどの痛みに、しかしネ・ルシは耐えた。

 そして、激痛に我を忘れて手の内にあるものを握りつぶした。


「ははは、本能でわしを殺すか。どうやら、本当にバケモノになったようだな、本望だろう?」


ねっ!」


 ブチり、と音をたててネ・ルシの手の中のものは完全に潰れてしまった。


 最後に、誰にも聞こえないほどのささやきで「ゼフィロナ」とオアネモスは呟いた。


 28/25


 最前線の一角を担っていたオアネモスの死は、人間側には大きなダメージとなった。

 そこで足止めされていたオークの一群が戦場に乱入していき、司令官を失っても戦い続けていた人間の本隊へ襲いかかった。

 際どい拮抗は崩れた。


 18/7


 ついに人間の人数は一けたにまで減り、しかしオークどもはまだ十体以上いる。

 最初からわかっていた通り、人間は不利。

 全ての手は打ち尽くした。


「バーバ・ヤガー!!」


 凍結する魔法がオークたちを襲う。

 最初から展開されていたネーベルの障壁魔法が、それを防ぐ。

 オークたちの顔に嘲笑めいたものが浮かぶが、ストリはそれを予想していた。


「連続魔法!」


 頭痛はずっとしている。

 だから、魔法の使いすぎで痛みが増しても、もうどうでもいい。

 バーバ・ヤガーの二重発動。

 原理的にはアウラのやっていた極小タイムラグ射撃と同じだ。

 一撃目で障壁を砕き、再展開される前に二撃目で空いた穴へ魔法を叩き込む。

 障壁を過信していたオークの群れは凍結の息吹きにのまれ、凍死した。


 3/4


 戦争自体はもう終わったも同然だった。

 ほとんどの、人間もオークも戦場の露と消えた。

 アウラも、オアネモスも、ミナスも死んだ。


「ストリ・ボーグ」


 頭痛の中で、ストリは己を呼ぶ声を聞いた。


「ネ・ボーグ……いや、ベーロア・ボーグ」


「!?……それが人間としての名、か」


 ベーロア・ボーグはボーグ家の当主だった。

 そして、ストリとネーベルを引き合わせた。

 ネーベルの魔法によって、家人と召し使いを殺すことで彼はオークとなった。


 ストリが倒さなければならない相手の一人だった。


 それがストリの目の前に立っていた。

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