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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
45/52

決着06

 その日。

 午前中には、ストリの造った氷の壁は粉々に砕かれた。

 ネ氏族のオーク50体。

 ダークエルフ一人。

 闇の種族の遠征軍、その最後の部隊が進軍を開始した。


 迎え撃つは、レイヴン連合軍。

 47人。

 オーク一体。

 ダークウォッチャー一人。


 闇の種族は氷の国の都を攻め始めた。

 攻め寄せたオークの姿を見た人間たちは驚きをあらわにした。

 彼らの今まで戦ってきたオークの姿とはかけ離れたモノがそこにはあった。


 まず違いは、その色だ。

 赤、緑、黄色といった基本色が変わらないが全身に黒い刺青のような紋様が刻まれている。

 さらには目。

 どれもこれも黄金色の瞳を爛々と輝かせている。


「ダークエルフの力を注ぎ込まれているのだろう」


 と、ネ・ルガンは語った。


「なぜ、わかる?」


 ストリが聞いた。


「あれらはどうやら、フォンと同じ出自を持つようなのだ」


 フォン、と同じ出自と言われストリは考え込む。

 そして気付く。


「ダークエルフの魔法で、オークに変えられた人間・・・・・・ということですか?」


「どうやらな」


 ストリたちは、守護炎ガードファイアの塔での出来事を思い出した。

 ウォッチャーであったフォンは、ダークエルフの魔法により十人の同族を殺すことでオークへと変わった。

 あの五十体のオークも、同じような手順を踏んだのだろう。


「同じような手順……?」


 不意にストリは気づく。

 五十体のオーク。

 十人の生け贄。


 五百人の失踪者。


 それは雪の国で起きた。

 ボーグ邸爆発をきっかけとして、雪の国の貴族五百人が失踪した。


 ストリが詳細を知らなかったその事件。

 それが、ダークエルフのネーベルの仕業だと今わかった。


「雪の国の人間を、オークにしたのか」


 誰に向けたでもない言葉に、オークのネ・ルガンが答える。


「だろうな」


「……だったら……」


 彼らは僕が殺さなければならない。

 ストリは冷たい声で言った。


「気負うな」


 ダークウォッチャーがはやるストリの肩に手を置いた。


「あなたに何がわかるんです? あいつらは同じ国の人間を殺したんですよ!」


「起こったことはもう取り返しがつかない。それに奴らはもう死ぬ運命なのは間違いない」


「……止めるんじゃないんですか?」


「俺もお前も、もう死から逃れなれない。ならば好きなようにさせるまで。ただ、無駄死にしそうなら止める」


「わかりました。ちょっと頭に血がのぼっただけですから」


「さあ、そろそろ始めるぞ。籠城戦も楽しいことを教えてやろう」


 指揮官たるミナスが号令を発した。

 もう、オークたちの姿は視認できる。


「では、いきます。バーバ・ヤガー全開!」


「私も参ろう。“鉄塊霊破”」


 ストリの放った凍結魔法と、ネ・ルガンの放った死霊攻撃がほぼ同時に攻めてきたオークの群れに着弾。

 これが戦闘の幕開けとなった。


 触れれば凍る魔法と死ぬ魔法だが、ストリに自動障壁魔法を仕込んだネーベルの前ではその威力は大きく減じられることになった。

 細かな半透明の青白い六角形はダメージを受けるとパチパチと割れる。

 割れることでダメージをかき消しているのだ。

 それが無数に展開される、ということはネーベルの魔力が尽きるまで攻撃は防がれ続けると言うことだ。


「なかなかに重い」


「こちらの遠距離攻撃はおそらく効かないでしょう。そして大規模魔法を行使されると」


「ふむ。篭るべき城も砕かれる、か」


 ストリの分析にミナスは頷き決断する。


「なれば野戦で決着をつけよう」


 49/49


 人間たちは頷き、城門を開けた。

 相手が城門ごと吹き飛ばせるのなら、守る意味はない。

 兵士たちより先に、ダークウォッチャーとネ・ルガンは城壁の上から飛び降り、戦いを始めた。


「お前と肩を並べて戦うとはな」


 大剣で、赤黒いオークを断ち割りながらネ・ルガンは趣深そうに言った。


「戦力として認めてはいる。だが、忘れるな。お前も俺の仇の一人だ」


 赤い宝玉の短剣“暁丸ラス・ルガ”をひらめかせて、黄色と黒のオークの心臓を一突きにしたダークウォッチャーは言った。


「よかろう。最期まで生き残ったならば決着をつけよう」


 ネ・ルガンとダークウォッチャーはそれ以上の会話をせず、切り込んでいく。


 49/47


 突出したダークウォッチャーたちに城門から出撃した人間たちは追い付こうと駆ける。

 その中には、オアネモス、ストリ、アウラ、ミナス、ヴァーユの姿もある。


「人間の最後の底力を見せてやる。ダークウォッチャーに遅れをとるな!」


 ミナスは最後の号令を発し、兵たちは続いた。

 たちまち乱戦となり、基礎能力の高いオークたちが人間を圧倒する展開になる。

 その中でも、オアネモスとヴァーユがダークウォッチャーたちに次ぐ活躍を見せ、オークを屠っていく。


「やるな、爺さん」


 ヴァーユは魔力の雨すら弾き返した技を主体に、相手の攻撃に合わせて反撃しつつオアネモスに言った。


「若い者には負けんよ」


 突っかかってきたオークの臓腑に短剣を突き刺し、グリグリと抉りながらオアネモスは笑う。


 39/45


 腕も千切れんとばかりにアウラは弦を引き絞り矢を放つ。

 連射の速度はすでに常人の域を超えており、弓の神キースと見まがうほどの気迫で彼女は矢を連射し続ける。

 オークたちには遠距離攻撃用の障壁魔法がかかっている。

 ストリのバーバ・ヤガーやネ・ルガンの鉄塊霊破すらも防ぐ防壁の、その弱点に彼女は気付いていた。


 それは、障壁がダメージを消し去っているわけではないことだ。

 ストリと同じように小さな六角形の魔力の壁が連なっているのは確認している。

 その六角形がダメージを受けると破壊されることで、ダメージを無効化しているようだ。

 そして、すぐに代わりの六角形の壁が魔力によって生成され、障壁は補強される。


 つまり、だ。

 六角形の壁が壊れて、補給される前ならば。

 そこには穴が開いているということだ。


 ならばできる。

 まったく同じ場所に、極小のタイムラグで、矢を射ることならアウラにはできる。

 生涯最高の集中力でアウラは同じ軌道の矢を二連続で打ち続ける。

 一射目で開いた穴にすぐに二射目が打ち込まれ、無防備のオークを射抜く。

 ダメージが通ればこちらのもの。

 たとえ、わずかでも気が逸れればそこに兵士たちが殺到し、オークを殺す。

 それはフリーズが率いた冬の国残党軍の得意戦術であった。

 生き残った兵士たちは、最も効果の高い戦術としてこれを採用した。

 ダークウォッチャーやネ・ルガン、ヴァーユ、オアネモスが切り開き、群れから離れたオークをこの作戦で殺す。


 無論、人間にも犠牲はでる。

 死の間際のオークの悪あがきや、動じなかったオークによって少なくとも五人は死んだ。

 だが、それがなんだ?

 どうせ、死ぬ運命なのは変わらない。

 ならば一体でも多く怪物を倒せば、それだけの意味はある。

 死の恐怖はどこかへ行った。

 アウラも兵士たちも。



 だからといって、アウラが無尽蔵の体力を持っているわけではない。

 年相応の非力さを、意思の強さで補ってきた彼女にも限界は訪れる。


 弓を持ち続けた左手も、矢をつがえ続けた右手も限界を迎え筋肉が断裂した。

 腕中から出血し、アウラは弓を取り落とした。

 そして、それ以上に集中は限界を超えてアウラの神経を焼き尽くす。

 激痛とともに、アウラは倒れた。



 空は青く晴れているが彼女の目には“赤”が映っていた。

 どこかの出血が目に入り、その色を見せていたのだが、しかしアウラは笑っていた。

 赤は炎の色だ。

 炎は、今はなきウォッチャーの村を照らしている。

 昔見た幻影のままに。


 炎の幻影のそばには、父がいた。

 ドーヌ王子もいたし、コールディン王もいた。

 フリーズ王子も、従兄弟たちも。

 祖母のシナツも笑っていた。


 最期に見たその光景にアウラは満足して逝った。


 弓の援護が途切れた人間たちの戦線は、嘘のように崩れ出した。


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