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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
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決着05

「退却です!」


 ストリはバーバ・ヤガーを全開で放った。

 辺り一面の温度が下がり、凍結する。

 そこにさらに障壁魔法を展開、混合された魔法は氷の壁となって人間とダークエルフを隔てた。


「へえ。二種類の魔法をミックスさせるなんて、ますます非凡さに磨きがかかってきたね。さすがはストリ君だ」


 ネーベルは楽しそうに言っている。


 しかし、ほとんどの兵員が死に残った者たちも消耗しきっている人間たちではダークエルフと五十体のオークは強大すぎる。

 一旦ひいて、策を練らねばならない。

 たとて、それが足止めにしかならないとしても。


 それがわかっているのか。

 ダークエルフのネーベルは氷の壁を撫でるだけで、それを崩そうとはしなかった。



 氷の国の都は全兵員を収容し、城門を固く閉ざした。

 誰も彼も疲労の色を濃くし、そして絶望していた。


 五百体のオーク。

 それを倒し、撃退した。

 勝った。


 と思ったその時にやってきたダークエルフとオークの増援。

 数さえいればなんとかなったかもしれないが、それもない。

 徴兵しようにも、氷の国にはもう老人と女子供しかいない。

 国家総動員、という北限三国史上初の政策を実行した氷の国にはもう、余力はなかった。


「フリーズ殿下は戦死された」


 残った者たちをまとめながら、ミナスはまとまって座っていたストリたちに合流する。


「……」


 アウラからすれば、義理の父になるはずだった人物。

 そして、最後まで残った家族だった。


「彼に殉じて、冬の国の戦士たちも皆倒れた」


「……冬の国はこれで本当に滅びたのですね」


 表情には現れない絶望。

 そんな感情がアウラにあることを、誰もが悟っていた。

 生まれ故郷、家族、帰るべき場所、そんなものをアウラは完全に喪失したのだ。


「スライド公爵も戦死した。それとジェルサハ将軍も」


 半ば独立国を築いていたアウラの大叔父と、氷の国軍の指揮官だった男、その二人もまたこの戦いで命を落とした。


 泣きながら、シャイナーの名を呼ぶフライシュ少尉を連れてきたのはヴァーユだった。


「おう、ミナスのおっさん。一つ聞きたいんだが」


「シャイナーは、中尉はどこにいますか!?」


 ヴァーユの声にかぶさるように、叫ぶようにフライシュは問う。

 ピシッとした服装と態度の彼女しか知らなかったアウラは意外に思う。


「シャイナー中尉は……行方不明だ」


「それは……」


「死体が見つかっていない……だけだ」


 うつむくミナスに、フライシュは上司が亡くなったことを察した。

 人を喰う怪物のオークと戦うとき、行方不明は戦死と同義だった。


 ヴァーユはフライシュを慰めている。


「近しい者の死は、慣れぬものよな」


 オアネモスがポツリと呟く。


「そうだな」


 レイヴン連合軍。

 残数48名。

 ほとんど壊滅といってもいい。

 この人数で、ダークエルフとオークを相手にしなければいけないことを全員が悟っていた。


 都内に残っていた民間人は、南方諸国へ落ち延びる事になった。

 その中には、フライシュ少尉とユラ女王の姿もある。


「わたくしだけが生き延びると言うのも、なんだか申し訳ないように思います」


 相変わらずの女王っぽさのない格好で、ユラは哀しげに笑う。


「生きる事が死ぬよりも辛い事もある、と私は思います」


 ミナスはここに残ると決めたそうだ。


「援兵に来ていただいた方を残して逃げるのです。それくらい覚悟の上です」


「気丈なお方だ」


 夜に行動すると、オークに襲われる可能性がある。

 そのため、避難は明るくなり始めてから行うことに決まった。


 予定通り、翌朝の明け方には、避難が始まった。

 粛々と民間人は都を後にし、兵士だけが残った。


 去り行く人々をダークウォッチャーは城壁の上から眺めていた。


「お前は大丈夫なのか?」


 後ろから声をかけたのは、オアネモスだ。


「なんのことだ?」


 振り向かずにダークウォッチャーは答える。


「魔法の結合が解けかかっている。おそらく、全力で長時間戦うか、あの大群を倒したようなウォッチャーの炎を使えば、死ぬぞ?」


「正確に言えば、全ての魔力を使い果たして消滅する、だな」


 必死なオアネモスを受け流すように、冗談を言うような言い方で、ダークウォッチャーは言った。


「表現はどうでもいいのだ。お前はこの戦いの後、消える。それが言いたいのだ」


「それがどうした?俺はもともと死んだ身だ。憎悪と怨恨が復讐者の形を取っているだけにすぎない。そんなものが消えたとて悲しむ者もおらんさ」


「それは、そうだが」


 なんだかんだ言って、オアネモスはダークウォッチャーのことを認めていたのだ。

 強さと、その意志はまぎれもなく尊敬に値するものだからだ。

 それに蘇ってからの彼には、どことなく死んだつまゼフィロナの面影を感じていた。

 どこかで彼も、生前のゲイルもゼフィロナに近しい血を引いていたのかもしれない。


「何心配するな、あのダークエルフを倒すまでは死にはしない」


 慰めるようなダークウォッチャーの言葉に、オアネモスは苦い思いを抱きながら、頼む、と言って笑った。


「ずいぶんと楽しそうだな。もう、終わりが来ると言うのに」


 ノシノシと歩いてきたのはオークだ。

 黄色い肌、醜悪な顔、筋肉に覆われた肉体。

 ネ・ルガンだ。


「だからこそだ。死ぬ最後の瞬間まで人生は楽しむべきものだ」


「この状況では楽しめまい」


 ネ・ルガンはオアネモスたちに敗れた。

 そして、ダークエルフのネーベルが放った広範囲魔法に巻き込まれ死にかけたが、ストリが救出を提案し、氷の壁に闇の軍勢が阻まれている隙に連れて帰ってきたのだ。

 怖がるような者はみな避難したので、こうやって堂々と人前に出てきている。


「虚勢、悪あがき、諦観、どうとでも言うがいい。笑っていられればそれでいい」


「ダークエルフは現在十二人いる」


「どうした急に?」


 ネ・ルガンは表情を変えない。

 まあ、変わってもオークの表情はよくわからないが。


「どこまで笑えるか、試してみたくなってな」


「相変わらず意地が悪い」


「・・・・・・ふぅむ。やはりお前は私と親交があったのだな」


「まあな。お主はフォン。ウォッチャーのフォン、だった。十人以上の同胞を殺し闇凍土ネ・モルーサへ逃れ、ダークエルフの魔法によりオークへと変貌した者、だ」


「記憶はないのだ。私はオークとして闇の都へ参内し、戦士となったところからの記憶しかない。己がウォッチャーであったとか、人間からオークに変わったなどとは知らぬ・・・・・・知らぬが、もし私が人間であっても強さのために同じことをしそうな気がする」


「知らぬのなら、忘れたのなら、それでよい。もう、ゼフィロナは戻ってこぬ。むしろ、わしが向こうに行くほうが早い」


「支離滅裂なことを」


「わしのことはどうでもよい。ダークエルフのことを話してくれるのだろう?」


 オアネモスは壁にもたれかかり、聞く姿勢を見せた。

 ネ・ルガンは床に胡坐をかいた。


「南方を追われたダークエルフたちは、長い放浪と闇凍土ネ・モルーサへの幽閉によって徐々に数を減らしていった。だが、逆に言えば力ある者が残ったともいえる。一人一人がネーベルと同じくらいの力を持つダークエルフが彼の他に十一人いる」


 ダークウォッチャーは空と大地を見ている。

 避難民とユラ女王たちの姿はもう見えなくなっている。


 オークと元ウォッチャーの話しは続いている。

 無人の都では、ストリが最後の策を練っているし、アウラが無心で矢を放つ訓練をしている。

 ヴァーユは瞑想しているし、ミナスは残った兵士たちと話しをしている。


 北限三国は歴史から姿を消す事になる。

 その最後の戦いが始まろうとしている。


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