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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
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闇を見る者の帰還7

 はっきり言って、この幻影というか過去の追体験は心身に悪影響がありすぎる。

 と、アウラは思っていた。

 最初のコガラといい、次のオークに変わったウォッチャーといい、衝撃が強すぎる。

 幻影から覚めたあとも、まだ動悸がおさまらない。


「あれは……フォンであった」


 オアネモスが呆けたように呟いた。

 彼の過去の話で断片的に聞いたウォッチャー殺しのウォッチャー。

 闇凍土ネ・モルーサへ逃亡したといわれるフォン青年。

 彼に何が起こっていたのか、三人は追体験したのだ。


 他者への違和感、それでも築いた仲間との関係。

 闇凍土ネ・モルーサへの侵入、オークの殺害とダークエルフとの遭遇。

 そして、ウォッチャーを裏切り、オークへ変貌。


 そのフォンのこともそうだが、彼が出会ったダークエルフも重要だろう。

 あれはネーベルだ。

 アウラは一度しか見ていないが、ダークエルフがそう何体もいるとは思えない。

 アウラたちが出会ったダークエルフが、フォンの出会ったのと同一個体である可能性は高い。

 ちらりと、ストリの様子を見るとじっと虚空を見つめている。

 何を見ているのか?


「私は行くわよ」


 アウラは先頭に立って、歩き始めた。

 誰かが先に立って歩き出せば、ついてくるものだ。

 たとえ一番先が真っ暗闇だとしても。


 いくつもの、幻影が通りすぎていった。

 それらはウォッチャーの記憶なのだ。

 守護炎ガードファイアの中に秘められている全てのウォッチャーの記憶が、この塔の中で再生されている。


 塔を登るにつれて幻影の登場人物たちの時代は古くなっていく。


 やがて幻影は守護炎ガードファイアの生まれた時代。

 人類と闇の種族が戦争を繰り広げた時代の末期にまでさかのぼった。



 二組の男女が立っている。

 どことなくオアネモスやゲイル、アウラに似ている。

 先祖……なのだろうか。

 ウォッチャーの始祖。


「ダークエルフとオークたちは闇凍土ネ・モルーサへ完全に逃走した」


 ダークウォッチャーになる前のゲイルによく似た長身の男性が静かに言った。


「氷の魔女と冬将軍のおかげね」


 アウラ、というよりはその祖母であるシナツによく似た女性が活発に言う。

 氷の魔女とはおそらく、今の氷の国の女王ユラ・グレアムの祖先の魔法使いのことだろう。

 冬将軍はアウラの父方の祖先であり冬の国の建国王のことであろう。


「しかしよお、やつらが帰ってこないっていう保証はないぜ」


 なぜか、南の国ベルトライズから来たヴァーユに似ている若者が自信ありげに言った。


「だから、私たちがここにいるのだわ」


 短髪の女性が言った。


「今は、闇の種族も消耗しているからすぐには攻めてこない」


 アウラ似の彼女が言う。


「その間にこっちも戦力を拡充せねばならんよなあ」


 ヴァーユ似の彼もぼやく。


「といっても俺たち戦闘人種はほとんど死んだ」


 ゲイル似の彼もため息をつく。


「私たちが、産んで増やすのよ」


 短髪の女性が当然だ、といわんばかりに言った。


「だよなあ」


「それで、この火はなんだ?」


 ゲイル似の彼が、守護炎こちらを見て言う。


「これはガードファイア。この炎のぬくもりの範囲内で生まれた、戦闘人種の血を50パーセント以上保持した人間の魂を共有し、その経験を継承する魔法よ」


 短髪の彼女がすらすらと言った。


「は?」


 ヴァーユ似の彼が何言ってんだこいつ、みたいな顔で見た。


「簡単に言うと、私たちが作るであろう戦闘人種の村に生まれたら、戦闘人種わたしたちのようなの才能を得る魔法よ」


 短髪の彼女はどうやら、魔法特化の戦闘人種のようだ。


「おお、便利だな」


 ヴァーユ似の彼は理解して笑う。


「本来なら、俺達のような者が出ないのが一番良いのだろうがな」


 ゲイル似の彼はそう言った。


「そんな未来を守る為に、私達が礎になるのよ」


 アウラ似の彼女が笑いながら、ゲイル似の彼の背中をバシンと叩いた。


 守護炎ガードファイアは祈りだ。

 再び、惨禍が起きないように世界を守ることを願った彼と彼女らの。

 全てのウォッチャーは、その力とともに祈りを受け継いでいる。

 その全ての集合体であるダークウォッチャーは、たとえ今は復讐の化身であろうと、その願いのために戦っている。


「だから、バカめ、か」


 幻影が消え去った後、オアネモスは息を吐いた。

 個人的な復讐心に駆られ、ウォッチャー全ての願いを台無しにしようとしたために、ダークウォッチャーは罵声を浴びせたのだ。


『あなたたちは全てを見た。この炎に込められた全てのウォッチャーの記憶と願いを』


 真っ暗闇と化した守護炎ガードファイアの塔の、おそらく最上層。

 そこに、彼女はいた。

 短髪の女性。

 最後の幻影に写っていた魔法特化型の戦闘人種。

 漆黒の闇の中でもはっきりと視認できるのは、彼女が魔法的存在だからだろう。


『ダークウォッチャーに似た彼とあの娘は番いとなり、全てのウォッチャーの祖先となった。あなたちの知る南人に似た彼はやがて村を出て、外に子孫を残した。私は守護炎ガードファイアに身と魂を捧げて、今日まで炎を灯しつづけた』


「ということは、あなたが守護炎ガードファイアそのもの。いや、むしろあなたこそがダークウォッチャーそのもの、ということですね」


 ストリの声に、彼女は悲しげに頷いた。


『復讐心により生き延びたゲイルと守護炎ガードファイアはただ闇の種族を殺戮するための機械となってしまった。しかし、それでも良いと思ってしまいました』


 それで平和な世界が保たれるなら、と。


「だが、現状は平和にはほど遠く、さらに言えば人間たちが争う未来が訪れる確率が高い」


 オアネモスの声に、彼女はうつむく。


『ですから、彼と守護炎ガードファイアの魔力があふれ、塔を形成した時、好機と思いました』


 このままでも、闇の種族は遠からず撤退する。

 それはおそらく北限三国の滅亡と、南方諸国の反撃によってだろう。

 オークは強力だが、人間の力を結集すれば倒せる。


 その時に、ダークウォッチャーという存在は戦乱の火種となろう。

 それは力であり、技術であり、そして魔法だ。

 ダークウォッチャーという存在そのものが、貴重な財産であり、強力な兵器でもある。


 そのダークウォッチャーが、このような塔の姿を取ったことは彼女にとって不幸中の幸いだった。

 このまま、ダークウォッチャーの活動が停止すれば、彼の力を悪用することもできなくなる。


「けれど、私は私の国を立たせたい。滅びたままにはしたくない」


『……であるならば、私にできるのはダークウォッチャーを復活させることのみです』


 そのあとの、ダークウォッチャーの処遇は一任されたということだ。

 たとえ、彼が全ての復讐を果たして、そのまま全てを殺し尽くす破壊の化身となっても、彼を止めるのはストリたち三人がやらねばならない。


「お願いします」


 ストリは三人を代表して言った。


 守護炎ガードファイアの化身たる彼女は儚げに微笑んだ。


『彼の魂と守護炎ガードファイアはもはや断ち切れぬほどの強さで結び付けられている。ということは、今この塔の形を成した守護炎ガードファイアのコントロールを私が手放せば、自動的に魔法は再構成され、ダークウォッチャーがよみがえる』


 ハッと、アウラが気付いたように彼女を見た。


「それは、あなたが消滅するということですか?」


『そうです。けれど私のことはいいのです。私は充分、長く存在しました。全てのウォッチャーの生死を見続けて、もう疲れてしまいました』


 彼女は優しげに、アウラを見ているのだった。




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