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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
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闇を見る者の帰還5

 氷の国の駐屯地を出発して半月。

 ストリたちは、ようやく雪の国の王都へたどりついた。

 街道を進みつつ、野良オークを撃退し、野営を重ねる日々を経て、ようやくだ。


「・・・・・・」


 沈黙はストリだ。

 アウラも絶句している。


 話に聞いていたのと、リアルで見るのはまた違っているものらしい。

 想像を超えて、雪の国は終わっていた。


「そもそも、関所がまともに機能しておらぬのがその証左よな」


 と、一人冷静なオアネモスが言った。

 比較的、街道沿いの村落は往時のままだったが都に近づくにつれ、荒廃の度合いは増していったように思える。


「国境警備を捨てて治安維持に注力しているのかと思っていました」


 ストリは呻くように言った。


 眼前に広がるのは、閑散とした広場だ。

 人通りはなく、渇いている。

 城門は開け放たれ、衛兵はなく、市場は人気がない。

 無人の廃墟と言われても納得できる有様だ。


 三人は街路を歩く。


 中心部に向かうに従って、少しだけ人が出ているのがわかった。

 急ぎ足で、何かに見つかるのを恐れているように。


「野良のヤツが市街にも入り込んでいるのだろう」


 オアネモスがフードを目深にかぶって言った。

 乾燥した風が、砂埃を巻き上げて髪や目にふりかかるのだ。

 ストリもアウラも、道行く人々もそうしていた。


 静かな恐怖が街を覆っているのが、アウラにはわかった。

 顔を隠した他人が、オークであるかのように見えるのだろう。


「ここには……用はありません。ボーグ邸へ向かいましょう」


 ストリの声に、アウラは我を取り戻す。

 三人は歩みを速めつつ、市街を出ていった。


 かつて馬車で通った道は、焼け焦げた土が固まったでこぼこなものに変わってしまっていた。

 ここまで、ダークウォッチャーの爆発の影響が凄まじいとは、ストリも予測していなかった。

 歩きづらい道を進んでいくと、遠くに大きな黒い穴が見えた。



 爆心地は全てが吹き飛ばされ、真っ黒に焦げた空間だった。


 その中心に真紅の塔がたっている。

 炎が凝り固まったような、赤く透明な物質でできている。

 地面からおおよそ30メートル、そびえたつような異様の塔だが、周囲の漆黒の方が光を吸収してしまうのか、遠くからは見えなかった。


「あれは・・・・・・守護炎ガードファイア、なのか?」


 オアネモスが見知ったものと違うそれを見て、声を漏らす。


守護炎ガードファイア・・・・・・ウォッチャーの村を照らす炎。確かに同じような雰囲気は感じます、けど」


 アウラも自信なさげにそう言った。


 情報が少なすぎてストリには判断がつかないが、おそらくは二人の言うように、この塔はダークウォッチャーと守護炎ガードファイアに関わりがあるのだろう。

 そもそも、守護炎ガードファイアとはなんだ?


 ウォッチャーの村にあった魔法の炎、闇の種族が訪れたときにそれを知らせる狼煙となるもの。


 ストリはそう聞いていた。

 しかし、ダークウォッチャーと同化して強大な魔法の力となったり、大爆発を起こしたり、こんな塔の形をとるなどとは、とても信じられない魔法だ。

 ストリがネーベルから学んだ魔法体系ではおそらく実行できないシロモノだろう。


 守護炎ガードファイアの塔にはぽっかりと黒い穴が空いている。

 まるで入り口のように。


「入れ、ということなんでしょうね」


 ストリの呟きに、オアネモスも、アウラも頷いた。



 三人は、守護炎ガードファイアの塔に足を踏み入れた。



 凍てつく、という言葉すら生ぬるい極寒の荒野。

 それが闇凍土ネ・モルーサだ。

 ここにははるか昔の戦いで、肥沃な南方を追われた闇の種族が住んでいると言われている。

 皮膚すら凍りつくような吹雪を、白貂の毛皮で作ったマントを引き上げてやり過ごす。

 目だけは、必ず凍土の方を向いていなければならない、と戦長チーフのカームによく言われていた。

 一秒目を離すと怪物オークが一体現れると思え、とも。


 初めての夜警。


 たった一人で闇凍土ネ・モルーサを見張る役目。

 それはウォッチャーとして一人前になるための、通過儀礼、のはずだった。


 コガラ、という名前の若い女性ウォッチャーの目を通して、ストリ、アウラ、オアネモスの三人は過去を見ている。


 守護炎ガードファイアの塔に入った瞬間、精神と肉体が切り離されたような感覚に陥り、気付いた時にはコガラの中にいたのだ。

 そして、その目を通して三人は生前・・の、ダークウォッチャーになる前のゲイルの姿も確認している。

 三人が知るダークウォッチャーから幽鬼のような雰囲気を取って、若者らしさを付け加えたような姿だった。

 それが、ああなる。

 ということは、だ。

 おそらく、三人はダークウォッチャーが生まれた理由とその瞬間を見る事になるのだろう。

 見たくない、という気持ちはあるが見なければならない、とも思う。

 そもそも、このコガラの視点から逃れることはどうやらできないようだった。


 真夜中。

 夜警の役目はまだ始まったばかりで、コガラもまだ油断していない。

 しかし、それでもそれは防げなかった。

 ウォッチャーとして半人前の彼女では、いやたとえ一人前であろうとそれは防げない。

 数千体のオークの大群など。


 接近する怪物の気配を感じた瞬間、コガラは逃げた。

 早く、村に危険を知らせねばならない。


「“ウォッチャー”というのは、やはり素早いな」


 最高速度に達したはずのコガラの前に、それは立っていた。

 黄色の肌の、黒い鎧をまとった巨大なオークだ。

 手には巨大な鉄剣が握られている。


(ネ・ルガン!)


 コガラの中にいて様子を見ていた三人は、そのオークのことを知っていた。

 ダークエルフのネーベルとともにボーグ邸に現れたかなりの強さのオークだ。

 その強さは相対したコガラにも感じ取れたようだ。


 ただ逃げるだけでは追い付かれる。

 そう判断したコガラは足元を蹴りあげた。

 砂ぼこりがオークの顔を襲う。

 振り払うオークの脇を通り抜け、コガラは駆けた。


 早く、早く村へ。


 腹部に衝撃。

 激痛と、胃の中身がもどってくる。

 何も食べていないため、胃液だけが口に不快感を与えた。


 オークの拳が腹にめり込んでいる。

 喉元にせりあがってくる液体を吐き出す。

 赤い。


 血だ。

 痛みに意識を放棄しそうになるが、冷静な自分が内臓の損傷具合を計算している。

 命を捨てればまだやれる、と判断する。


 オークに殴られた衝撃を利用して、後方へ跳ねる。

 頭だけを手で覆う。

 直後に地面、勢いのまま転がる。

 回転の勢いで立ち上がり、駆ける。


「まだ動く力があるか。だが」


 オークはそう言って、鋭い踏み込みでコガラに接近。

 こめかみ、水月、太ももを滑かな動きで殴打する。

 格闘の手本のような動きだ、とコガラが思った時。

 脳が揺れ、呼吸が止まり、立てなくなった。

 さきほどの腹部への強打もあわせて、これ以上の戦闘は不可能なほどのダメージとなった。

 気絶したコガラは虜囚となったのだった。


 次に目を覚ましたコガラが見たのは、愛する人の亡骸だった。

 尊敬する戦長チーフの首を失った死体だった。

 家族と村人の、なかには原型を留めぬほどの遺体だった。


 コガラは村が滅びたことを知った。

 己が夜警の役目を全うできなかったゆえに。


 恥辱と絶望の慟哭をコガラはあげた。


 その瞬間、ダークエルフはコガラの首へ刃を当てた。

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