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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
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闇を見る者の帰還3

「僕が前にでます!」


 飛び込んだストリを嘲るように、緑色の肌をしたオークは笑った。

 そのまま、太い棍棒を振り下ろす。


 しかし、ストリの目の前に展開した障壁魔法が棍棒の衝撃を受け止める。

 まるで岩を殴り付けたかのような硬さに、オークは顔をしかめた。


「魔法使いが前衛に立つな」


 シュッと放たれた矢とともに、アウラが言った。

 矢はオークの右目に突き刺さる。


「ぐおごおおッ!」


 オークは低く悲鳴をあげた。

 棍棒を取り落とし、両手で矢を抜こうとする。


「喚くな。どうせ、お主は死ぬ。わしの手によってな」


 無防備になったオークの首、頸動脈をかき切りオアネモスは冷たくいい放つ。


 遭遇して、わずか数分。

 オークは命を落とした。


「受け止める技量の無い者が前に立つな」


 アウラがオークの亡骸から、矢を抜きながら言った。

 荒野では矢の一本も貴重品だ。

 歪みや欠けがないか確かめる。

 どうやら、問題ないようだ、とアウラは矢筒にしまう。


「でも、僕が一番良い位置にいましたよ」


「今回は、な」


「上手くいったからいいじゃないですか。連携もできてましたよ?」


「もし、あのオークがお前の魔法を突破したらどうするんだ?」


「その時はその時ですよ」


「真面目に考えろ」


 アウラは不機嫌そうに言う。

 対するストリも徐々に不機嫌になる。

 そこへオアネモスが口を挟む。


「嬢ちゃんは、坊主に死んでほしくないのさ」


「な!?……違う……違わないけど違う」


「オアネモスさん。適当なこと言わないでください」


「若い者にはわからないだろうが、年を食えばお互いの本音が見えてくるってものさな」


「私が何を考えているか、わかる、と?」


「そうさ。わしにはわかるぞ。アウラ嬢ちゃんはストリ坊主に死んでほしくない。なにせ、大切な仲間だからな」


 アウラは口をつぐむ。

 だいたい合っていたからだ。

 でも、オアネモスの言い方はなんか違う。


「死んでほしくない、というのは大筋で認めるわ。大切な仲間なのもそう。だから、無茶はしてほしくない。あなたに死なれたら、私の目的が遠のく」


「だ、そうだよ。ストリ坊主。聞きようによっては甘い告白にもなるのだがなあ。どうにも、嬢ちゃんには色気がない」


「色気は関係ないでしょう?」


「さて、無駄話はこのくらいにして、そろそろ野営の準備をしましょう。もう日が暮れる」


 ストリは空を見上げて言った。

 日は傾き、影が伸びている。

 もう、午後も終わりかけている。


「私の話がまだなんだけど!?」


「今日の食事当番はアウラ嬢ちゃんじゃな。うまい飯を頼む」


 と、このように和気あいあいとした旅の一幕だった。



 外は日が暮れた。

 夜だ。

 囲炉裏に赤々と炎が燃える。


 一日に一回は、警戒していてもオークと遭遇し戦いになる。

 それほどまでに野良のオークが増えているのだ。

 この北限三国に来ているオークはほとんど氷の国へ向けて出征しているはず。

 しかし、これほどオークがこのあたりを闊歩しているということは、どういうことなのか。


「先生……いえ、ダークエルフのネーベルの統率力が落ちているということが考えられます」


 いやに薄味のスープを飲みながら、ストリはそう言った。


 ここは廃屋だ。

 冬の国にいくつも生まれた廃村の一つ。

 名もなき村がオークに襲われ、住民は居なくなった。

 そんな村がたくさんある。

 その内の一件に、三人は今日の寝床を求めて侵入した。

 窓を閉めきれば火を使ってもうろつくオークに見つかることはない。

 外に天幕を張るよりはずっと過ごしやすい。


 ちなみに今夜の食事は薄味の鶏肉のスープとパンだ。

 食材はこの村の残っていたものを使用している。

 たぶん住民は戻ってこないだろうが、アウラは代金をちゃんと置いていくことにしている。

 自分の国の民から、たとえここにいなくても物を盗むというのは、アウラにはできなかった。

 せめて、代金だけは支払っておきたい、と無意識に考えていた。


「ダークエルフは生きているはずだろう?」


 パンをスープに浸して、柔らかくしてオアネモスは食べている。

 作られて日がたった硬いパンは噛みきるのに苦労するからだ。


「生きてはいるが、指揮をできるような状態ではない、のかもしれません」


 もそもそと硬いパンを食べながらストリが言う。

 パンはパン、スープはスープで食べる派らしい。


「ダークウォッチャーの爆発か?」


 オアネモスの予測にストリは頷く。


「確かに、あれは死を覚悟したわ」


 アウラがスープの味に顔をしかめる。

 作ったのはお前だ。


 ダークウォッチャーの爆発は、堅牢なボーグ邸を吹き飛ばし、焼失させたほどの威力だった。

 自分が無傷だったのは、ネーベルがかばってくれたからだ、とストリは思っている。

 ならば、ネーベル自身は完全に防げたわけではないはず。

 もしかしたら、重傷を負っていてもおかしくない。


「そのせいで軍規に緩みが生じ、オークが野良化している、か。良いのだか、悪いのだか」


 戦線に参加しているオークの総数が減れば、その分対峙しているレイヴン連合軍の負担が減る。

 それは残された猶予が伸びるということだ。

 しかし、野良になったオークが増えるほどストリたちと遭遇する可能性も高まるということ。


「まあ、良いことですよ。僕らは警戒を厳にして進めばよいのですから」


「あなたが無茶をしなければ問題ないわね」


「おぬしらは仲がいいな」


「「どこが!?」」


 オアネモスの言葉に、アウラとストリは揃って反論する。

 同じタイミングで、同じ言葉だった。

 オアネモスはさらに笑う。


「そういえば、シナツとゼフィロナもそうだったな」


 遠く、懐かしむような顔。

 アウラは身を乗り出す。


「お祖母さまを知ってるの!?」


「ああ、そうだ。わしとゼフィロナは兄妹、シナツとは同じ“母”の元で育ったからな」


「ん? 同じ母のもとで育ったのに、兄妹とそうじゃないのがいるの?」


 ウォッチャー独特の家族制度のことをアウラは知らなかった。

 同年代の子供が集められ、同じ“母”のもとで育てられる。

 年の近い男女が番いになり、兄妹、姉弟として共同生活を送るようになる。

 その二人の間にできた子供は、ウォッチャーの村全体の子供として引き取られ、“母”のもとで育てられる。

 伴侶を失ったウォッチャーは、男性は外の世界との連絡員であるウォーカーになり、女性は村内で子供を育てる母となる。

 そうやって、ウォッチャーは血系を繋ぎ、その力を受け継がせてきた。


「なんというか……想像もつかないわ」


「でも、貴族の血統主義にも近いものを感じるよね」


 想像もできないアウラと近いものを感じるストリ。

 二人の育ってきた環境と考え方の違いが垣間見える。


「シナツもヴィエトルという男と番いになった……だが、三十年前にヴィエトルもゼフィロナも、多くのウィッチャーと命を落とした」


「三十年前・・・・・・」


 確か、アウラの祖母シナツが冬の国に現れたのがそのくらいだったはずだ。

 それも……傷だらけで。


「ウォッチャーの一人、フォンという若者が突然同胞に剣を向けた。そして数十人の村人を殺害し、闇凍土ネ・モルーサへ逃亡したという事件だ」


「いったいどうして?」


「さあな。だがたまにそういうのが生まれるのは確かだ。血が濃くなると恐ろしいほどの才能を持つものが生まれるが、反対に生きられぬほど弱い子が生まれることもある。フォンも才能はあったが、そういった濃い血を受け継いだのやもしれぬな」


 昔を思い出して、オアネモスは口を閉じた。

 思わぬところで祖母の過去の一端を知ったアウラも考え込む。


 旅の一夜はこのように過ぎていった。



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