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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
31/52

戦地にて7

 誘い込まれたオークは潜んでいた人間によって挟撃された。

 オーク三百に対し人間二千。

 数の差は圧倒的に人間有利。

 個々の力量の差はオークが有利。

 全体としてみると、数の多い人間が奇襲の効果もあってやや優勢だ。


「頭を失えば、群体は自壊する。俺様たちで敵の指揮官を叩くぞ!」


 ヴァーユが片手剣を構えながら突撃する。

 迎え撃ったのは、ラグンの戦士グ・オゾド。

 赤茶色の皮膚の、片目の潰れたオークだ。


「人間にも強き者はいる。なれば、それを喰らってワレは族長とならん」


 グ・オゾドは迫り来る人間ヴァーユに向かって、長柄の大槍を振るう。

 恐るべき膂力で突き出されるこの槍は幾多の敵対者を屠ってきた。


「なかなかの筋力だ。―-だが、俺様には効かん」


 ヴァーユは恐れの色を一切見せなかった。

 実際に、グ・オゾドの攻撃を恐れていないのだから仕方ない。

 タイミングを合わせて、突き出された槍の柄に跳び乗り、そのまま前進する。

 大槍を足場にして駆けているのだ。


「!?」


「この程度の槍や力で誇るなよ。七星剣おれさまたちはもっと上にいる」


 そのヴァーユの台詞に、グ・オゾドは答えることができなかった。

 なぜなら、言葉を理解した時には首が胴から離れていたからだった。

 槍をなんでもない道のように駆けぬけ、そのままオークの首を切断したヴァーユは笑う。


「それほどでもない。だが、それなり、ではある。ああ。もっと強い奴と戦いたいなあ」


 そして、ヴァーユは乱戦の中に突入していった。



 上半身が異様に発達した黄色い肌のオーク、ゾ・ボナサは両手にそれぞれ巨大な鉄棒を持って振り回していた。

 突然、襲われた時こそ驚いたものの、人間などちょろちょろと動く餌に過ぎない。

 ゾ・ボナサが軽く両手を振ると、簡単に人間のミンチが出来上がる。

 食べるのは、みんなミンチにしてからだ。


「オデ、腹ヘッタナアア」


「ならば私を喰らうが良い」


 ゾ・ボナサの目の前にいつの間にか、硬い殻をつけた人間が立っていた。

 なんだか筋張っていておいしくなさそうだ。

 いや、食材に文句を言っても仕方ない。

 悪い食材でも美味しく食べられるようにするのがゾ・ボナサの役目。

 まずは食べやすくするためにミンチにしよう。


「オイシク食ベルゥゥ!」


 発達した背筋から放たれる両の腕、その腕もまた盛り上がる筋肉で覆われている。

 オークの中でもさらに特異な筋肉の塊であるゾ・ボナサは力強く二本の鉄棒を、殻にこもった人間に叩きつけた。


 ズン、と地面がめり込む。

 しかし、その感触にゾ・ボナサは首をかしげた。

 柔らかい血肉を砕く感触が無かった。

 ただ硬い地面を叩きつけた感触しかなかった。

 鉄棒が巻き上げた土煙の中から、無傷の人間が飛び出す。


「そう簡単に私が食らわれると思うなッ!」


 人間はゾ・ボナサの間合いの内に滑り込み、その勢いのまま抜刀した。

 水の国に伝来する偃月刀、本来ならば長柄のその武器を、彼は短く持ち片手剣のように運用していた。

 反っている刃は振る勢いをそのまま威力と変え、硬い鎧すら切り裂く。

 金属ですらそうなのだ。

 ただの肉の塊など、彼の剣の前では無抵抗のバターと同じだった。

 そして、腹をすかせたままゾ・ボナサは胴体を両断されて死亡した。

 最期の言葉は「にぐ……」だった。


 どさり、と地面に倒れて動かないオークの死骸を見ている彼に、部下が話しかけてきた。


「困ります、大尉! 仮にも全軍の司令官なのですよ?」


 真面目な部下にたしなめられながらもミナスはニィッと笑う。


「司令官としてはな、部下が死ぬのを見過ごすわけにはいかなかったのよ。それに私の剣はオークに通じることもわかったしな」


「司令官なんですから、命を賭けるようなことは止めてください。私たちが陛下に叱られます」


 ミナスを信頼している水の国の王の顔を、彼は思い出した。


「そうだな。陛下に叱られぬよう、強そうなのは避けよう」


「弱そうなら戦うってことですか?」


「さてな」


 思わず笑いだしそうになって、ミナスは表情を引き締めた。

 危ない、危ない。

 戦いを求め、それを楽しむ本性。

 それをミナスは否定しないが、それを他人に見せるわけにはいかない。

 根拠はないが、面倒なことになる気がする。

 その証拠でもないが、あの若軍師に見破られてから、こんなことになっている。

 さて、どんどんと倒していかねばならない。

 オークは強い。

 さっきだって、両手の鉄棒を振り下ろしただけの攻撃に、極限の集中力でかわすので精一杯だった。

 これで技とか術を使われては勝てるものも勝てなくなる。

 常に先手を打って戦わねばと、ミナスは敵集団に突撃しながら決意を新たにした。



 ガ氏族は、オークに数ある氏族の中でも武勇に秀でた者のみが加わることができる氏族だ。

 ガ・デゴンもまた、その氏族名を持つ勇士である。

 伝説的強者であるゾ・ググガの教えもあり、若くして戦士になった彼はラグン部族の精鋭としてあまたの戦いを勝利で彩ってきた。

 その全身についた傷は、その証である。

 人間による挟み撃ちにも、彼は慌てず配下に対応を命じている。

 族長になるべく功を競う他の戦士たちが動き始める中、彼はゆっくりと待っていた。


「慌てぬのか?」


 それは、人間の声だ。

 こうして、オークの目の前に姿を現したことに、ガ・デゴンは意外さを覚えた。

 落とし穴や落石などの罠を使うことを、ガ・デゴンは嫌ってはいない。

 己にできることをとことんするというのは、戦いに勝つために必要なことだ。

 それを怠ったから、ゾ・テドンは族長を逐われることになったのだ。


「何かを仕掛けてくることは予測していた」


「そうか」


「我が前に立つ者の名を知りたい」


 人間の眉がピクリと動く。


「なぜだ?」


「我が武勇の勲しに一文記そうかと思ってな」


 ガ・デゴンは決めている。

 偉大なるゾ・ググガの名跡を継ぎ、ラグン部族をバズダバラやゴレモリアを超える最強部族へと鍛え上げるのだ。


「それは、無理だ」


「何を……!?……」


 ガ・デゴンの全身に刃が突きたっていた。

 激痛が、ガ・デゴンを苛む。


「私はフリーズ・ウィンタリアと言う」


 人間が静かに声を発する。


「卑怯な!」


 ガ・デゴンの周囲には、フリーズと同じように冷たい目をした男たちが五、六人立っていた。

 彼らがこのオークを刺したのだ。


「卑怯と言われても、私にはなにも響かない。私の心はすでに死んでしまったのだから」


 人間の声が遠く聞こえる。

 寒さをガ・デゴンは感じていた。


「……」


「お前はあの時いなかったかもしれない。しかし、私は奪われた全ての変わりに、オークを殺すことを誓った。我が血と父と国にかけて」


「……」


「ゆえに、お前は死ぬのだ」


 ガ・デゴンが聞いた最期の言葉は、凍るように冷たいそれだった。

 オークが死んだのを確認するとフリーズは、部下に指示を出す。

 命令に従い、冬の国から付き従ってきた精鋭たちはフォーメーションを組んでオークの雑兵を狩りに向かった。



 白い肌のオークを、名前も聞かずにシャイナーは切り捨てた。

 白は法の神であるバルニサスを象徴する色だ。

 光の国は、千年以上の歴史を持つ法の国。

 その信仰の中心たるバルニサス神を愚弄するような怪物オークなど生かしておくことはできない。

 特務部隊出身のシャイナーにとって、オークの戦士といえどそのへんの雑魚と変わらない。


「さて、フライシュ……が無茶をしないように見張らねばな」


 立ちふさがる、というよりは通行の邪魔をしているオークたちを見もせずに斬殺し、シャイナーは名目上の部下であり、護衛対象のもとへ向かった。



 次の族長を狙う四体の戦士はほぼ同じタイミングで倒された。


 そして、オーク軍ラグン部族は全滅した。


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