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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
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戦地にて3

「相手の目標がなんなのか知る必要があります」


 軍議の主導権を握ったままストリは話を進める。

 その方が進めやすいとみた大人たちは、ストリの質問に答える形で進行することにしたようだ。


「北限三国の領有だろう?」


 と答えたのは氷の国のジェルサハ将軍だ。


「いや、それは過程に過ぎないだろう」


 冬の国残党軍のフリーズ王子が反論する。


「その推測の理由は?」


 ストリはフリーズに聞く。

 情報を、もっと情報を。


「領地を有するということは、その領地の民も支配下におくということだ。民のいない土地など荒れ果てているか、これから荒れ果てるにきまっているからな。だが」


 だが、フリーズは一度口を閉じる。

 アウラは知っている。

 その頭の中でどんな記憶が再生されているか。


 闇の種族は冬の国の民を堀へ突き落とし、その骸で橋を作ろうとした。

 その常軌を逸した行動を、今でもアウラは苦いものとして思い出せる。


「だが、やつらはその民ですら殺し尽くした。人間を必要としていないのだ」


「で、あれば闇の種族の目的は闇凍土ネ・モルーサ以南への入植でしょうか」


 落ち着いた声は氷の国の女王ユラのものだ。


「戦いの際に、オークたちが奪回だの言っていた記憶がある。かつて逐われた闇の種族が舞い戻ってきたのはそのためだろう」


 重い雰囲気のままのフリーズが続ける。


「もし、そうなら。彼らは人間を滅ぼすのを目標としている」


 ストリの呟いた結論に、場の空気が凍る。

 充分に暖められた場のはずなのに、ぬくもりを感じない。

 闇の種族は、ダークエルフとオークは人間を必要としていない。

 消費しきってよい資源、いや食糧としか見ていないのだ。


「人間の絶滅……それを前提とするなら、我らに打てる手はなんだ?」


 冷たい空気の中、さらに凍えるような声が響く。

 フリーズは覚悟している。

 彼の息子は戦死している。

 父であるコールディンは憎悪の中病死。

 王都にいた妻はおそらくオークに殺された。

 オークたちを駆逐するためには何でもする。

 もう、それ以外、彼には何も残っていないのだから。


「寝返り、内応、などの内部分裂などの策は使えないし、こちらからの離反者も重用されることはない」


 氷の国を攻めたオークの軍団が、ダークウォッチャーによって分裂させられ、同士討ちをしたことは知られていない。

 唯一、知っているオアネモスが呆けている今、それをこの同盟軍に伝わることはない。


「しかし、正面から戦うには戦力差がありすぎる」


 シャイナーが呟く。


「それで、私の罠が参考になるって話だけど。具体的にはどうするの?」


 話を振られたまま放置されていたアウラが焦れたように口を挟む。


「この場所に駐屯しているのは、ここが氷の国と冬の国を結ぶ街道にして、大軍勢が行軍できるのがここしかないから、ですよね?」


「そうだ」


 と、ミナスが答える。

 陣地設営に関しては、ベテランの彼の意見が大きく採用された。

 まだ若いシャイナーや、戦闘要員のヴァーユが持っていない技能だ。


「そこで、こことここ、あとここに罠を仕掛けます」


 ストリは冬の国に近い、街道のいくつかの点を示した。


「ほう」


 楽しそうにミナスが笑う。

 獰猛な笑みだ。


「それでオークの軍団を倒しえる、と?」


 ユラ女王が不審げに言った。

 たった三ヶ所に罠を仕掛けて数千体の怪物を倒せるわけがない、と思っているようだ。

 普通はそう思う。


「いえ、無理です」


 あっさりとストリは言った。


「ええと」


「心理的にオークを足止めする、と?」


 戸惑うユラとは対照的に、シャイナーが何かを察したように言った。


「はい。三ヶ所の罠で被害が出れば、その先にある次の罠を恐れて動きが止まります。どこに何があるかわからないという状況は、怖いですよね」


「怖いねー。でも、俺様なら、斥候を出すけど」


 自分で行く、という発想は飲み込んでヴァーユは常識的な案を出す。


「もちろん。それが狙いです。アウラさんの報告から、オークにも索敵特化の部隊がいるのは確実です。その目を潰します。いくら強い怪物でも見えなければ戦力は半減ではすまない」


「足を止め、目を潰す。で、あれば次は手をもぐといったところか」


 ミナスの不穏当な発言にもストリは頷く。


「はい。オークの手、すなわち戦闘部隊を突出させ、削り取ります」


 脳裏に浮かぶのは優しかったネーベルの微笑みだ。

 だが、彼とて弟子が自分を打ち負かす軍略を出すのを見れば嬉しいだろう。


「具体策は?」


 シャイナーが聞く。


「焦れたオークの軍団は、倒しやすそうな弱兵団を見つけたら追ってくるでしょう。そして囮の兵団は敵を引き付けつつ後退し、狩り場へ誘導する」


 ストリは地図上の街道を指でなぞる。

 それは囮の逃走経路であり、オークの進軍経路でもある。

 そして、その指先は開けた場所で止まる。


「ここなら、人間側がオークの数を上回れるな」


「はい。入ってくるオークの数を制限しつつ、三方向から挟撃できます」


 こことは違う世界、違う場所で、“野伏のぶせ”と呼ばれた戦術である。

 これを使った軍団の常勝記録を支えた戦術でもある。


「これを繰り返す気か?」


「はい。こちらが全滅するまで」


 ぞわり、という寒さ。

 また、暖かさを覚えた場に氷点下の息吹きが吹き荒れる。

 ストリの覚悟に、全員が寒気を覚えたのだ。


「闇の種族を倒すことが最優先だものな」


 フリーズがなんでもないことのように言った。

 覚悟が決まっているのは彼も同じだ。


「俺様たちが全滅したら?」


「ヴァーユさんが負けることなどあるんですか?」


「ないな」


「それはさておき。三千の兵員が全滅するまでかなり時間が稼げるでしょう。そうなれば南方諸国から援軍が来る可能性は高まる」


「俺様を話のダシに使うなよ」


「確かに、私たちが帰還せねば本国も増援を寄越すことはありえます。私はともかく、フライシュはそうせざるを得ない」


 シャイナーは副官を見ずに言った。

 フライシュは何を言われているのかわかってないようだ。

 フライシュは光の国の重要人物、もしくはその血縁者、と脳内にストリはメモした。


「冷たい、冷たいな。さすがは北の国の男か」


 感服したようにミナスは呟く。


「現実が見えてないだけです。机上の空論なら誰にでも言えるでしょう?」


「そうだな。吐き気をこらえて、部下に死を命じられれば立派な指揮官だ」


 ミナスの言葉に、フリーズも頷く。


「ならば早速動こうではないか。罠を仕掛け、斥候を潰し、囮を追わせて殲滅する。やることは多い、時間は有効に使わねばな」


「最後に一つだけ、よろしいでしょうか?」


 ユラ女王が立ち上がりはじめたミナスや諸将を止める。


「俺様はいいが?」


 ヴァーユが再度腰かける。

 ありがとうございます、とユラは礼を言った。


「私たちは生まれも育ちも考え方も違う烏合の衆です。ですが、この闇の種族の侵攻を食い止める戦いに関しては、足の引っ張りあいも、裏切りもなしにしてほしいのです」


「……」


 場の空気が鎮まる。


「私たちは全滅するでしょう。ですがそれを恐れて逃げ出した時、闇の種族は北限三国を越えて皆様の祖国へと進むでしょう。どの国も勝てると思っているかもしれません。しかし、同じように思っていた北限三国はほぼ壊滅しました。それを繰り返してはなりません。ここで潰えた命は皆様の祖国を守る礎となるはずです。どうか、心を一つに戦ってくれるようお願いいたします」


「無論だ」


 ミナスが答える。

 それに続くように諸将が答える。


「ありがとうございます。では、ここに対闇の種族のための連合軍“レイヴン連合軍”の設立を宣言します」


 突如発せられた連合軍の名称に全員がポカン、とした。


 ただ一人オアネモスが笑った。


「なるほどな、レイヴン合の衆ということか」


 ともかく、彼らは、人間は動き出した。

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