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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
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雪の国より6

「事実……なんでしょうね」


 アウラの返答を待つまでもなく、ストリにはわかった。

 彼女が嘘を言っていないことを。

 それどころか、実際に闇の種族の一員たるオークと戦闘し、勝利し、オークを殺害しているのだが、そこまでは理解がおよぶわけもない。

 それでも、彼女の言葉が。

 冬の国が滅び、氷の国も滅亡に瀕していることはわかった。


 ストリの師であるネーベルも言っていたではないか。

 冷静な思考こそが魔法使いに必須の資質だ、と。

 その冷静な思考と、判断力が彼女の言葉を真実だとストリに信じさせた。


「ええ」


 そこで、ストリは疑問を感じる。

 どうして、この国はなんの反応もしていないのだろうか。

 王家も、六大貴族も、ストリとドリアードのいさかいを権力争いに発展させるほどに狡知に長けている、というのに。

 隣国の状況すら把握していないのはなぜ?


「あまりにもその侵攻が速く進められたから?」


「いいえ。闇の種族の侵攻から一週間は王都は持ちこたえたはずです。その間に、付近の村落への襲撃もありました。完全に秘匿された襲撃でないことは確かです」


「それなのに、この国の人は誰も気付いていない?」


 なぜ、が大きくなった。


「私の印象では、知らない、そして知っていても認識されない、という風に感じました」


「知らない、知っていても認識されない?」


 アウラやスライド公爵は、何度か王家や貴族と会談を設けた。

 その度に、冬の国の窮状を訴えた。

 けれど。


「けれど。その次に会った時にはすっかり忘れているのです。何度話しても、何度も・・・・・・あなただけでした。覚えていてくれたのは」


 ストリ以外の貴族や王家は冬の国の事を認識していない?

 どうして?

 何が違う?


「この事を話したのは誰と誰?」


「王家、六大貴族の方々、中堅の貴族でも力のある方々です」


 いくつかの貴族の家名をアウラは挙げた。


 それはみな、どこかの大貴族の分家だ。

 いや、そもそもこの国では六大貴族に連ならなければ権力を握ることが出来ない。

 国を助けるために、力の弱いものに頼っても意味ない、とアウラやスライド公爵が考えるのは当たり前だ。

 しかし、力のあるものは冬の国の事を認識できない。


 それを仕掛けた誰かは、冬の国が助けられることを望んで居ない?


 それはつまり。


「闇の種族の手先がこの国にいる?」


 ストリの出した結論に、アウラは青ざめる。


「そんな、この国も……?」


 この和やかなお茶会も急に寒々しいものに、ストリには感じられた。


 そして、ハッと閃く。


「そうだ。先生なら」


「先生?」


「ええ。僕の家庭教師の先生です。この国の人じゃないから話を聞いてくれるかも。それに貴族へのコネもある」


 そして、魔法使いでもあります、という言葉はストリは飲み込んだ。

 それはネーベルとの約束だったからだ。


「そう、ですね。今は一人でもこの事実を知ってもらわなければなりません。ストリさん、お願いします。その方のもとへ連れていってください」


 ストリは力強く頷いた。



 主賓が消えた事に、お茶会の幹事が気付いたのはストリとアウラがいなくなってしばらく立ってからだった。



 お茶会を抜け出した二人は、一路ボーグ邸を目指した。

 だが、そこで二人は気づくべきだった。

 どうして、警備の厳重な冬の国の王女が簡単に学院を抜け出せたか。

 都合よくボーグ邸行きの辻馬車が残っていたか。



 乗り込んだ辻馬車はガタゴトと街道を進んでいく。

 陰気な御者は白髪で、もう引退してもおかしくない年頃だろう。

 そんなことをなぜかストリは思った。


 ボーグ邸の前で、馬車は止まり二人は降りた。


 その時、馬車が爆発した。


 文字通りの爆発だった。

 今まで乗っていた固い座席も、キィキィなる車輪も、雨漏りしそうな屋根も粉々になってしまったのだ。


 爆発の直前、ストリは異変を感じアウラを助けようとしたが、彼女の方が先に脱出してしまった。


「えー?」


 もちろん、ストリは爆発に巻き込まれたが自動防御魔法が発動し、ゴロゴロと道に投げ出された。

 無傷だったが。


 いつの間にか、アウラの右手には青い刀身のダガーが握られていた。

 冬の国の宝刀“モロルガン”の兄弟剣ともいうべき武器で、王都脱出の際にアウラがフリーズをはじめとした王族に贈られたものだ。

 銘を“蒼月アゾルナ”。

 あっという間に戦闘態勢になった彼女は武器を持つだけでなく、着ていたドレスの裾や袖といった動くのに邪魔になる部分を千切り捨てている。


 ストリも立ち上がり、魔力を集中し魔法を使える態勢になる。


「この国はどこもかしこも奴の臭いがする」


 声は上から聴こえた。


 ボーグ邸の屋根に、それはいた。

 時刻はもう夕暮れになりつつある。

 その赤い夕陽の中で、それは闇夜のように見えた。


 幽鬼。


 という言葉がストリの脳裏に浮かぶ。


「誰!」


 アウラの誰何に、それは答えず空を見ている。


「臭いが濃すぎて探すのに手間がかかった。その少年が一番濃い」


 ストリの方へ向けられた視線は、蛙を睨む蛇のような威圧を含んでいる。


「何者なの!?」


 アウラの声にそれはまたしても答えない。

 ふっとその姿が消える。


「!?」


 二人の動揺をまったく気にせず、それはストリの前に現れる。


「問題はあの時、お前はいなかったということだ。であるならば、奴の一連の行動の中で接触があったということになる。つまり、奴はここにいる」


「私の質問に答えなさい!」


 アウラの声にそれは静かに彼女の方を向いた。


「ああ、聞き覚えがあると思ったら、シナツの孫か」


「!?」


 アウラはその言葉で目に見えるほど動揺した。

 混乱の中で動けない。


「あの罠の張り方は面白かった。オーク一体を仕留めるには良い罠だ」


 と簡潔に、ストリにはよくわからない寸評をすると、それきり彼女への興味を無くしたように視線を外した。


「……」


 ストリにはわからない。

 この状況が、何が起こっているのかなどが。


「さあ、奴はどこにいる。教えてもらおうか」


「……奴って、誰ですか?」


 ストリの知り合いに、こんなのと付き合いがいる人物がいるとは思わない。

 いるはずがない。


「ダークエルフ、黄金の瞳、闇の種族を率いる者だ」


 同じような単語をつい最近聞いたことをストリは思い出した。


 アウラから、だ。

 と気付く。


 冬の国は闇の種族によって滅ぼされた。


 しかし、その話の中には黄金の瞳を持つダークエルフの存在は出てこなかった。

 今、この北限の地に起こっていることに対しての新たなピース。


「あなたはなぜ、その人を探しているのです?」


「奴は俺を殺した。俺たちを殺した。村を殺した。守護炎ガードファイアを殺した。カームを、コガラを、殺した。だから、俺も奴を殺さなければならない」


 その言は危険な言葉で満ちていたが、意外にも冷静なトーンだった。

 それだけに秘めたものがどれだけあるか、ストリはうかがうこともできない。


「復讐は」


「復讐は何も生み出さないという言葉なら、俺には届かない。闇の種族を俺は探し、殺す。それだけの存在だ」


 ストリの浅はかな言葉を先回りするように、それは潰す。


ダーク探索者ウォッチャー


 ストリが古語で呟いた言葉は、おそらくそれのことを的確に表しているのだろう。

 その言葉を聞いたわけではないだろうが、ストリに詰め寄るダークウォッチャーを止めるような声が響いた。


「あまり、僕の弟子を苛めないでほしいものだね」


 ようやく聞けたその声に、ストリは安心感を覚えた。

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