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ダークウォッチャー  作者: サトウロン
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冬の国にて3

「陛下。討って出るよりありませぬ」


 ウィンタリア七将の一人、フロイグ将軍が発言する。

 五日目の夜、王城内での軍議の場である。

 国王コールディン、王太子フリーズ、王弟ロッキール、フロイグをはじめとした七将が参加している。

 この日、近隣の村から四百名あまりが捕虜となり、堀へ落とされた。

 その積み重なった死体は今もそのまま放置されている。


「うむ」


「おそらく、近隣は全滅でしょう」


「で、あろうな」


 国王はじめ、この軍議の参加者は気付いてしまった。

 オーク軍は王都を落としたいとは思っているが、それでも自由に動けるのだ。

 包囲が解けた時に攻めていれば、残存部隊を殲滅できたかもしれない。

 だが、それだけだ。

 数千のオークは自由に村々を襲い、国民を連れてこれる。

 やがて、堀は死体で埋まり、王都は襲われる事になる。

 その前に、これ以上の被害を出す前に敵と決戦すべし、とフロイグ将軍は言っているのだ。


 この時、逃れた人々は周辺の国を目指すことになる。

 氷の国、などにだ。


「もはや、手は他にないか、と」


 王太子フリーズもフロイグに同意する。

 どうしようもなくなってしまったのだ。

 王都は一年篭城できるが、敵はその間に国民を殺しつくすことができる。

 そして、その死体で堀を埋め王都を陥落させることもできる。

 乾坤一擲、決戦を挑み、勝つしかない。

 そもそも、国民が一人もいない国など存在している価値があろうか。


「よかろう……。明朝、跳ね橋を下ろす。全兵に休息を取るように命じよ」


 国王として、コールディンは決断した。


 その夜更けのことである。

 眠れないまま、武具の手入れをしていたアウラは、父に呼び出された。


「一体どうしたというのです? 明日は決戦です。父上も休まないと」


 アウラのその言葉に父は苦笑いを返す。

 これは、この顔は何かもうどうしようもないことが起こっている時の顔だ、とアウラは思い出した。

 前回、この顔を見たのは祖母シナツの死の時だったはずだ。

 アウラが祖母に懐いていた事を父親は知っていた。

 だから、その死を伝えられず、こんな顔をしていた。


 アウラが連れてこられたのは、王宮にある王家の私室だ。

 アウラのような半端な王族ではなく、国王、王太子一家が居住している場所。

 そこには、ここにいる王族が全員揃っていた。


「……何を?」


「コールディン・ウィンタリアは暁の主ラスヴェートの名において、アウラ・ウィンタリアの王位継承権を引き上げ、第一位とする」


 アウラは目の前に現れた瞬間に、国王コールディンはそう宣言した。

 これは、アウラが次の冬の王になるという意味の宣言だ。

 それは、世情に疎いアウラでもはっきりと理解できた。


「陛下……こんな時に冗談はお止めください。王家の方々も、お爺様も伯父様方も、いったいなんなのです?」


「冗談ではないぞ。王女殿下」


 ついさっきまで王太子だったフリーズが表情を変えずにそう言った。


「フリーズ様?」


「さきほどの国王陛下の宣言はちゃんと儀礼に則ったものだ。正式に効力のある宣言だ」


「だからなぜ私が」


「ウィンタリアの男子は全員、明日の決戦で討ち死にすると決まった」


 自分達が死ぬ、という話をしているのにフリーズの顔には感情が見えない。


「全員ですか……」


 国王、王弟、王太子、第二王子、第三王子、それぞれの子ら、王弟の三人の子、二人の孫、あわせて十二人が頷く。


「左様。そして、そなたは王都を脱出するのだ」


「そんな……私も、私も戦います」


「それはならん。そなたは冬の国の王位継承者、みだりに死ぬわけにはいかぬだろう?」


 どうしても、アウラは戦うことができないようだった。


「生きよ、アウラ。我が国の意志を残すために」


 泰然としているコールディン。


「生きることが必ずしも楽とは限らんぞ。時には死より辛い生もある」


 達観したようなフリーズ。


「わかりました。でも、なぜ私なんですか」


 フリーズの息子であるドーヌ王子の方が生き残って、再び冬の国を興すための旗頭にふさわしいのではないか、とアウラは思った。


「それはな、お前がシナツの孫だからじゃ」


 そう言ったのは、アウラの祖父である王弟ロッキールだった。


「おばあ様の?」


「あれはな、ウォッチャーじゃった」


「ウォッチャー?」


 それは伝説に謳われる北の守護者ではないか。

 闇の種族到来の際に、危機を伝える北の見張り手。

 それがウォッチャーだ。


 だが、闇の種族の到来に彼らは現れなかった。


「そう。わしも信じてはおらんかったが、今は信じておる」


 ロッキールは顔をほころばせながら言った。


「何があったのです? ウォッチャーはここには来なかったのに」


「いやいや、ちゃんと教えてくれた。闇の種族が来ることをな」


 ロッキールの目は、まっすぐにアウラを見ていた。


「え?」


「うむ。アウラじゃよ。そなたが伝承の通り、闇の種族が来ることを教えてくれた。シナツから受け継がれたウォッチャーの血がそなたに流れておるのだ」


 祖母の血、ウォッチャーと言われてもアウラには自覚はない。

 けど、ここにいる人たちはそれを信じているのだ。


「それが、お前が選ばれた理由だ。仮初めとはいえ、ウォッチャーなら生き延びる可能性は無くはない」


 フリーズはそう言う。


「……わかり、ました。王都を出ます」


 アウラは頷いた。

 そうするしかなかった。

 もし、自分が本当にウォッチャーだというのなら、この事態を打開する方法を考え付けばよいのに、と。

 心からそう思った。


 アウラが退出すると、ロッキールは笑った。


「まったく兄上も素直じゃない」


「素直でないのはお前もだろうに」


 コールディンも笑う。


「わしのは、可愛い孫娘をなんとか生き延びさせたい、と思う祖父心ですじゃ」


「まったくわしのところはどれもこれも男ばかりで可愛いげのない」


「後継ぎの弾には困らぬでしょう」


 フリーズが口を挟む。


「そのどれもこれも死ぬ覚悟を決めているのに、呑気ですなあ」


 どっと笑いが起きる。

 結局のところ、アウラに甘い王族はみんな彼女が死ぬのを嫌がっただけなのだ。

 それを大袈裟に王位継承者がどうとか、ウォッチャーだとか言ってアウラを納得させようと企んだのだ。

 王子たちや王弟の孫、子らも年若いアウラが死ぬのを良しとはしなかった。

 たとえそれが自分たちの死と引き換えであっても、だ。


「私としては、可愛い奥さんがいなくなってしまうのが残念ですよ」


 フリーズによって勝手にアウラと許嫁関係にされたドーヌ王子が笑いながら言う。

 幼なじみで、可愛いアウラのことは嫌いではなかった。

 彼女が生き延びるというのなら、自分の生にも意味があるようで嬉しい。


「本来なれば、私がもらい受けるはずだったのですよ」


 ドーヌにとっては従兄弟にあたる第二王子の子が笑う。

 彼もまた、フリーズが王位を継げば臣籍にくだる。

 その際に親戚のアウラを妻にしようと色々画策していた。

 まあ、それも無駄になってしまったが。


「それを言うなら私が」


「俺も」


「おれだって」


 と若い王族が追従する。


「まったくアウラは人気者じゃの」


 と、コールディンは笑った。


 それが最後の宴であることを全員が知っていた。


 ここに残っている王族は全滅することになる。


 そして、六日目の朝が来た。




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