墜落
掲載日:2018/06/04
もう日が高く昇った頃です。
少しだけ調子の悪い顔をして、
何食わぬ顔で玄関を開けるのです。
そしていつもの声でただいまと私を呼ぶのです。
私も何食わぬ顔でおかえりと笑います。
体中に誰かの匂いを纏ったまま、
もうとっくに私の知るあなたの匂いなんて
どこかにおいてきてしまったのでしょう。
いつだって知らぬふりをして、
ただ素直な女の子を演じて、
お前は馬鹿だと言われて、
それでも可愛がってくれたのです。
可愛がってくれてたなんて、
私のただの妄想かもしれないけれど、
しばらくは夢を見させて欲しいのです。
その服を脱いで綺麗に畳んだ服を着て、
またあなたがあなたに戻る時、
私はあなたと誰かの抜け殻を大切に拾い上げるのです。
それは確か、過去に私が存在していたその抜け殻でした。
私の抜け殻に知らぬ誰かが棲み着いて、
拾い上げるのは私で、いつもその繰り返し。
その手も腕も、目も鼻も、綺麗なままなのに、
ただその唇だけはもう、
私は触れることはできないのです。




