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第6話

「ちょっと、家のお正月の準備の手伝いをしてくれないか。それ相応のお金は出すから」

 小学校時代の同級生、簗瀬さんから頼まれて、1913年末に私はお正月の準備に忙しい簗瀬さんの家に赴き、手伝い仕事をすることになった。

 簗瀬さんの家は、我が家と同じ会津上級武士だが、我が家と違い、秩禄処分等を上手く乗り切り、同級生の簗瀬さんを中学校から陸軍士官学校へと進学させられる程の資産を有している。

 私は、簗瀬さんの家の状況を内心で羨みつつ、年末の数日間、家の手伝いをした。

 そして、最終日の仕事を終えた後、お金に加え、お餅等も頑張ってくれた褒賞として簗瀬家から貰えた。


 これで餅のあるお正月が今年は過ごせる、と喜び勇んで自宅に帰ろうとする私を簗瀬さんは呼び止めた。

「ちょっと話したいことがある」

「どうかしたの?」

 私は、簗瀬さんが呼び止めた理由が分からなかった。


 簗瀬さんは、私を物陰に誘い込んで詰問した。

「ちゃんとあいつと手紙のやり取りをしているのか?」

「色々と忙しくて、疎遠になっているかも」

 私は、そんなに深刻に考えていなかったので、気楽に答えた。


「この正月にあいつと会う予定はあるのか?」

「仕事で忙しく働かないといけないから、会えそうにないわ」

 簗瀬さんの続けての質問に、私は軽く答えた。

 簗瀬さんは、深い溜息を吐きながら言った。

「篠田、あいつにお前は甘えすぎだ」


「甘えすぎって、どういうことよ」

 この時まで、私は前々世の過ちを無意識に繰り返していたと言っても過言ではなかった。

 簗瀬さんの次の一言は、私の甘えを打ち砕いた。

「あいつ、お前が浮気している、と信じ込みつつあるぞ」


「何でよ。仕事に私は忙しいだけなのに。彼は私の事情を分かってくれないの」

 私は思わず大声を挙げそうになり、慌てて自分で自分の口を塞いだ。

 幾ら同級生同士とは言え、痴話喧嘩めいたことはしたくない。

 簗瀬さんは、私を諭した。

「手紙の返事も書かない、正月に帰省しても、会おうとしないのだろう。彼からこぼされたよ。篠田は、別に好きな人が出来たのかな、本当に冷たくなったとね」

 私は胸を突かれる思いがした。


 彼とは、文字通り、小学校入学以前からの幼馴染だ。

 だから、私が何も言わなくても全て私のことを分かってくれている、と彼のことを信じ切っていた。

 だが、その信頼に甘えすぎて、前々世で、私は彼に婚約破棄されてしまったのだ。

 今度こそは幸せになりたい、と思いながら、同じ過ちを私は繰り返していたなんて。


「簗瀬さん、ありがとう。彼とすぐに連絡を何とか取って、頭を下げて事情を説明するわ」

「それがいいよ」

 私は、素直に簗瀬さんの忠告に感謝し、簗瀬さんはそれを受け入れてくれた。


 彼の家は、私の自宅の近くにある。

 善は急げ、と私は簗瀬さんの自宅からの帰り道に、彼の家により、彼を呼び出してもらった。

 家から出てきた彼は、私の話を黙って聞いてくれた。


「本当にごめんなさい。色々と余裕がなくなっていたの」

 私は恥を晒すようで気が引けてならなかったが、正直に全てを明かすことにした。

 兄が相場でしくじってしまったこと、それで我が家はより貧乏になってしまい、私が仕事に励まないといけない身になってしまったこと、そして、今の私は夜盲症になり、手紙を夜に書くどころか、読むのも困難な有様だということ。


 全てを聞き終えた彼は、私を抱きしめてくれた。

「そんなに生活に困っていたとは知らずに、浮気をしていると疑って悪かった。ごめんな、りつ」

「ううん。正直に言わなかった私が悪かったの」

 彼の謝罪の言葉に、私は涙を零しながら言った。


 だが、その一方で疑問が出てきた。

 彼は、何故に私が浮気をしている等と疑ったのだろうか?

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