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第5話

 彼と別れ、私は(前々世でのこの頃の)自宅に帰宅した。

 会津藩の元上級武士とは思えぬ貧乏暮らしで、この自宅も借家なのを私は思い出した。

 私が帰宅すると、(前々世での)私の両親が自宅にいた。

 その容貌等も、私の記憶に合致している。

 間違いなく、私は前々世に戻っているようだ。


 ということは。

 私は暫く赤貧に喘ぐことになる運命だ。

 彼は会津中学校に行けたが、私は小学校在学中から色々と小遣い、生活費を稼ぐ為に働かねばならなかったくらいだったのだ。

 明日から懸命に働かねばならない。


 その時、私は気が付いた。

 未来の記憶を活用すれば楽ができるのではないだろうか?

 そう考えて、未来の記憶を思い出そうとして、私は愕然とした。

 ほとんど思い出せない。 

 そういえば、村山キクやジャンヌ・ダヴー、岸忠子のことさえ、基本的に名前しか思い出せない。 

 何故なのだろう?


 私は一つの仮説を思い付いた。

 未来は全くの不確定な代物だ。

 村山キクやジャンヌ・ダヴー、岸忠子は、この世界に既に生まれているから、名前が思い出せる。

 でも、これから先のことは不確定なのだ。

 だから、未来のことは分からず、思い出せないのだ。


 とは言え、さっきの出来事で、彼と私の運命を変えたのは間違いない。

 この世界では、彼と私の本当の家族を作って見せる。

 私はあらためて、そう誓った。


 とは言え、それはすぐに揺らぐことになった。

 前々世で分かっていた筈だが、私の日々の生活が忙しすぎたのだ。

 色々と日雇いでいいから、少しでも収入の良い仕事がないか、と私は懸命に仕事を探す惨状だ。


 そうこうしている内に、彼は陸軍士官学校入学試験に合格し、陸軍士官学校生になった。

 そして、私には更なる追い打ちが掛けられた。


「兄さんが」

「ああ」

 両親は私に頭を抱え込んで相談する始末だった。

 東京に出て証券会社に勤めていた兄は、「手張り」に大失敗し、大借金を作ってくれたのだ。


 前々世の知識を懸命に探った末に私は、両親に思い切って提案した。

「兄を破産させるというのは」

「破産しても借金は残る。余り意味が無い」

 父は俯きながらそう言った。


 そう、明治から大正になるこの時代には現代のような破産法は無く、破産しても免責が無い以上、破産は余り意味が無かった。

 だから個別に話し合って、債権者と示談するしかないと言っても過言ではない状況だった。


 そして、兄が破産できない以上、債権者の追及が私達の下にまで及んできた。

 家族とは言え、無関係だと突っぱねれれば良かったのだが、篠田の家の誇りがある。

 両親は無理をしてしまい、私にまでとばっちりがきた。


「ヤツメウナギの干物。小さいけど」

「ありがとうございます」

 私は、栄養失調に近い状態になり、夜盲症になってしまっていた。

 それを解消するために、当時から目にいい、と言われていたヤツメウナギの干物を私は無理をして購入する羽目になっていた。


 こんな状態では、彼から手紙が来ても、返事を書くどころか、手紙を読むのも私には困難だった。

(何しろ、昼間は懸命に働かざるを得ず、夜しか手紙を読む暇が無いといっても過言ではないのに、夜にろくに目が見えないのだ。)


 でも、彼なら私の苦境を黙っていても分かってくれる。

 だって、私の愛に彼は応えてくれる筈、と生活に追われた私は、いつか信じてしまっていた。

 そう、私は前々世の過ち、私の気持ちを彼は分かってくれる、と私は信じ込んでいて、彼は私の気持ちが分からず、別に好きな人ができたのだと思い、と二人の気持ちがすれ違ってしまった、という過ちを気が付かない内に引き起こしていたのだ。


 だが、助っ人が私に現れた。

 同級生の簗瀬さんだ。

 簗瀬さんは、私と彼の気持ちがすれ違っていることに気づいた。

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