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第3話

「ここって、色々と曰くのある民宿では無かった?」

「全くネットの噂を信じるなんて、歴史愛好会会員失格と思いなさい」

 私の目の前で、一緒にヴェルダン要塞を訪れに来た同級生が議論をしている。

 とは言え、本音としては私自身も余りいい気はしない。

 歴史愛好会の仲間として泊まることになった民宿というのは、ヴェルダン要塞を訪問するのに近く、手頃な値段で泊まれることは事実なのだが、どうも曰く付きの民宿らしかった。


 私のフランス語はまだまだ拙いと言って良い。

 何とか日常会話が精一杯で、周囲の助けが必要だ。

(もっとも、岸澪や村山愛もいい勝負なのだが。)

 それ故、ジャンヌ・ダヴーに(私の内心としては、婚約者の愛人に頭を下げるなんて、腹立たしくて堪らないが)、フランス語については助けを仰ぐ羽目になる。

 そして、この民宿について、ジャンヌが調べた結果、ジャンヌは良い顔をせず、渋い顔をした。


「ネットの怪しい情報で、裏が取れないけど、独立した少なくとも3つの情報源に基づく情報らしいから、嘘と単純には決めつけられない」

 ジャンヌは、そこで言葉を切った。

「それでも聞きたい?」

 そう言って、ジャンヌは、私達3人を見回して、私たち全員が肯いた。


「どうも、別世界を垣間見せる民宿らしいのよ。自分の願望が叶った別世界を」

「そんなの大したことないじゃない。偶々、夢でも見たのでしょ」

 ジャンヌの言葉に、愛が突っ込んだ。

「でもね。その別世界が本当に気に入ったら、その別世界に行って、現世では遺された体は死んでしまうらしい。実際、何人かの泊り客が亡くなっているという雑誌記事があるらしいわ。全くの自然死なのに、誤解を招くというその民宿からの抗議から、その記事は訂正を余儀なくされて、ネットから削除されたらしいけど。その記事を読んだというネット情報を見つけられた」

 ジャンヌは、そう私達に言った。


 さすがに私達は考え込んでしまった。

 こういう怪奇話というか、現実では考えられない話というのを、私達は単純に切り捨てられない。

 何しろ、ここにいる4人全員が、生まれ変わる前の前世の記憶持ちという、現実には考えられない存在なのだから。


「別世界への門、いわゆるゲートがあるのかもしれないわね。私は行くわ」

 澪が腹をくくったようで言った。

「危ないかもしれないのに。それでも行くの」

 ジャンヌは、驚いた口ぶりだった。

「だって、第一次世界大戦を生き延びた彼と幸せな結婚を続けられた世界を垣間見れるかもしれない。そのままその世界に行けるなら、むしろ本望と言えるわ」

 澪が言うと、その言葉に触発されたジャンヌと愛も肯いて同意した。


 私も肯かざるを得なかった。

 もしかしたら、第一次世界大戦が始まる前の世界に行き、彼を救い、私の本当の家族を作れた世界に行けるかもしれないのだ。


 そして、私達は、その曰く付きの民宿に泊まることになった。

 建物自体は百年以上前、19世紀に建築されたらしいが、何回か改修されたらしく、快適だった。

 この民宿に前泊し、ヴェルダン要塞の各所を巡り、もう一度、この民宿に泊まった後、帰宅するという予定だった。

 さすがに日本では中学生だけで泊り掛けの旅行という訳にはいかず、マダム・サラを始め、保護者が何人かついてきた。


 夕食を外の食堂で食べた後、他の3人を始めとする同級生達とヴェルダン要塞の歴史について語り合い、私はベッドに潜り込んだ後で念じた。

 本当に門があるのなら、前世に私を戻らせてください。

 前世のあの時、彼から相談を持ち掛けられた時に。

 そうすれば。


 彼は海兵隊士官になることはない。

 となると、岸忠子との縁談も、村山キクやジャンヌ・ダヴーと、彼が会うことも無くなるのだ。

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