プロローグ?
他の私の小説、「僕の人生の一番長い一日」や「私の平穏な生活を返してください(サラの祈りー第三部)の続編的な小説ですが、色々と背景説明が必要になってくるので、この際、プロローグとして背景説明を付けました。
これで分かりやすくなっていればいいのですが。
粗筋にも書きましたが、この小説世界は史実と違う歴史が流れた世界です。
まず、最初の分岐点が、戊辰戦争において、勝海舟の説得に応じて、榎本武揚が旧幕府艦隊を率いて脱走せずに明治新政府に投降したことです。
更に榎本武揚はフランス軍事顧問団と協力して、旧幕府軍の将兵に対して投降を進めた結果、1868年中に会津若松城陥落等により戊辰戦争が終結するという結果がもたらされます。
その為、土方歳三らの旧幕府軍の将兵の一部は、五稜郭の戦い等で戦死せずに投降して明治を迎えます。
そして、一時、土方歳三は牢生活を送った後で釈放され、婚約者の琴と結婚し、屯田兵として北海道開拓にあたりました。
その一方で、榎本武揚らは徳川家を密かに護るために、海兵隊を維持し、いざという時に徳川家の親衛隊にしようと試みます。
その試みから、海兵隊は史実のように廃止されることはなく、旧幕府軍や奥羽越列藩同盟軍の生き残りが集う場所になります。
その中には、大鳥圭介や北白川宮能久親王殿下、林忠崇等の大物もいました。
そして、海兵隊は、明治初期の士族の反乱、特に西南戦争鎮圧で勇名を轟かせ、確固たる地位を築いて存続していくことになります。
西南戦争に際して、土方歳三は屯田兵の一員として海兵隊に参加します。
更にそれを知った永倉新八や斎藤一ら旧新選組の面々も、土方さんと共闘しようと海兵隊に志願して奮戦しました。
そして、後の新選組伝説の掉尾を飾る戦いを彼らは行い、土方歳三は西南戦争で戦死しますが、遺児の土方勇志が遺されました。
史実と微妙に異なる経過を辿りますが、この世界でも、日清戦争、義和団事件、日露戦争が起こり、日本は勝利を収めます。
そして、日露戦争後、日本は南満州鉄道を米国の民間資本と共同経営することになり、このことは中国の民族主義者と米国政府との仲を裂くことになります。
また、土方勇志は長じて海兵隊士官に任官し、日清戦争で初陣を飾り、その後も海兵隊士官として勇戦して昇進し、最終的には伯爵に叙されることになります。
更に時が流れ、この世界でも第一次世界大戦が勃発し、英仏両国政府から日本政府に欧州へ派兵してほしいとの要望が出されました。
海兵隊上層部はこの要望を聞き、戊辰戦争時にフランス軍事顧問団が自分や父兄を助命しようと奮闘してくれた恩義に今こそ報いる時、と主張して海兵隊の欧州派兵、具体的には西部戦線への派遣が実現します。
ですが、ヴェルダン要塞攻防戦等で、海兵隊は大量の戦死傷者を出し、その補充や航空隊編制のため等、様々な問題が起きたことから、最終的に日本は大量の陸海軍の将兵を欧州に送り込むことになり、第一次世界大戦が連合国側の勝利で終わるまでに、日本は更に大量の戦死傷者を出します。
その一方、ヴェルダン要塞攻防戦で、ある若手海兵隊士官が戦死します。
「彼」は本人自身、戦死するまで子供が出来ているとは知りませんでしたが、実は4人の子を遺しました。
横須賀の馴染みの芸者、村山キクとの間に村山幸恵を。
幼馴染で一時は事実上の婚約までしていた女性、篠田りつとの間に篠田千恵子を。
正妻、岸忠子との間に岸総司を。
フランスで知り合った街娼、ジャンヌ・ダヴーとの間にアラン・ダヴーを。
4人の子は全員が順調に成長し、それぞれ一廉の人物になります。
中でも篠田千恵子は、土方勇志の初孫、土方勇と結婚し、土方伯爵家にその血を伝えることになります。
第一次世界大戦が終結した後、世界に永久の平和がもたらされて欲しい、と世界中の多くの人が思いましたが、そうはなりませんでした。
共産主義国家ソ連の成立、中華民族主義の高揚、世界大恐慌、独のヒトラー政権樹立、等々により、徐々に世界で軍靴の音が高まります。
日本は米英仏等と共闘し、世界大恐慌を乗り切り、世界平和の維持に努めましたが、戦争への流れを完全に押しとめることはできず、第二次世界大戦が勃発し、独ソ中対米英仏日を中心とする第二次世界大戦が引き起こされます。
世界中で多くの人が亡くなった末、第二次世界大戦は米英仏日の勝利で終結しますが、英仏は疲弊しきって植民地の独立を押しとめる力を無くしてしまい、独立戦争が世界中で頻発します。
第二次世界大戦で大量の死傷者を出した日米が内向きになっていたこともあり、植民地は相次いで独立しますが、このことは更に世界各地で民族・宗教紛争を続けて頻発させることになり、21世紀になった今でも、世界各地で紛争は絶えず、テロ行為が稀ではなくなっています。
それを少しでも鎮めようと、国連は平和を維持するための軍事執行活動を世界各国の協力を得て、世界各地で行っています。
そして、21世紀になって、「彼」と岸忠子、篠田りつ、村山キク、ジャンヌ・ダヴーは、あらためて子孫として現世に生まれ変わってきましたが、前世の記憶が戻った際に、日本で大騒動を起こし、日本にいられない身になってしまいました。
「彼」は、ほとぼりが冷めるまで日本海兵隊に入ることになり、基本的に世界各地を転戦しています。
岸忠子は岸澪、村山キクは村山愛、ジャンヌ・ダヴーは前世と同じジャンヌ・ダヴー、篠田りつは土方鈴の名を今では持ち、中学1年生でフランスに留学して、ほとぼりが冷めるのを待っています。
その一方で、女性は4人共、かつての前世をやり直せないか、と今でも思っています。
「彼」がヴェルダン要塞攻防戦で戦死しなかったら、別の未来があったのではないか、いや、そもそもあの時に、という想いが抜けないのです。
(「彼」が若くして戦死した一方で、4人の女性は全員が70歳代まで長命して、その間に「彼」との記憶が美化されて結晶化したためなのもあります。)
そして、留学先の同級生に誘われたことから、「彼」が戦死したヴェルダン要塞を他の同級生と共に4人は訪問することになりました。
その場所で、4人の内の篠田りつ以外は、単純に彼が戦死しない世界を望みましたが、篠田りつはそれ以上のことを望みました。
篠田りつは、「彼」と結婚し、娘の千恵子達と家族揃って幸せに暮らせた世界を望んだのです。
そして、彼女は過去へ戻って、それを実現しようと頑張ります。
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