【誘惑】
桜井さんは、もしかしたら自分の事を好きなのかな、と思わせる技術がずば抜けてすごいのである。
そんな彼女に、翻弄されながら、俺はまんまと桜井さんの意図せぬ術中にハマっていた。
そんなある日、慣れない仕事から帰ってウトウトしていると
俺に、桜井さんから深夜一本の電話が入る
「........あっ!もしもし湊くん??良かった起きてた?」
「あっ、うん!こんな時間にどうしたの??。」
「実はさ、、、今、○○駅にいるんだけど電車寝過ごしちゃって終電無くなっちゃったんだ。笑」
「マジで??やばいじゃん。
うーん。。分かった!
じゃあ今からそっちの駅行くからまってて!走るから!」
桜井さんによると最終電車を寝過ごし乗り継ぎが出来なくなってしまい家に帰れなくなったと言うのだ。
俺は、なぜ彼氏ではなく、俺に電話をしてくるのか?といったことも一瞬よぎったが、
こんな夜中に1人でいる桜井さんが心配になりいてもたってもいられず走って桜井さんのいる駅まで向かった。
その駅は、
俺の住んでいる最寄駅から1時間弱走ればついた。
今思えば、なぜタクシーを使わなかったのかと思ったがそんなことを考える前に俺はもう、走り出していた。
とにかく桜井さんに会えることが嬉しかった。
俺は無我夢中で走りようやく駅に着き桜井さんと無事合流出来た。
「ごめん!お待たせ!タクシー使えば良かったね。笑 そこまで頭まわんなくて。笑」
「こっちこそ。こんな時間にほんっとごめん。親にも彼氏にも連絡したんだけど繋がんなくて。」
そりゃそうだよな。真っ先に俺に連絡来るなんてありえないよな、
若干期待してしまっていた分、少しがっかりした。
でも、これから朝までどうするかカラオケかファミレスでも行くかな、とか考えていると桜井さんが衝撃的な事を口にした。
「今日湊くん家泊まってもいい??」
俺はこのあまりに予想外の一言に一瞬何を言っているのか分からず戸惑った。
「あ、えっ?う、うん俺は全然大丈夫だけど。笑」
「あっ!笑 今変な事想像したでしょ。笑
なんにもしないでね。笑」
「しないよ!笑 それより早くタクシー捕まえよう!笑」
駅に止まっていたタクシーを捕まえると俺の最寄駅に向かった
時計はもう、3時になろうとしていた
家に着くと
引越して来たばかりで何にもない殺風景でつまらない俺の部屋だったが、ここに桜井さんがいるというだけでこんなにも楽しくドキドキするものかと驚いた。
「梨奈、もう遅いからお風呂どうぞ!
俺、もう眠いから先寝てるからそこのベッド使っていいよ!」
「えっ?悪いよ!笑 私が地べたで寝るよ。」
「どこの世界に女の子を地べたで寝かせる奴が居るんだよ 笑」
「えーー、笑 ほんとにいいのー?
うーん。。。じゃあお言葉に甘えて。。。んじゃあお風呂行ってくるね!おやすみっ。」
「おやすみ。」
眠いと言った俺だが当然全く寝付けるわけもなく目を閉じてジーッとしていた。
時計の秒針を刻む音とシャワーの音だけがいつもよりも何倍も大きく聞こえる。
全く眠れないままそうこうしているうちに桜井さんがお風呂から上がってきた。
濡れた髪をドライヤーで乾かしている音がする。
なんか不思議な感覚だ。
走った疲れがここに来て襲って来た。眠い。
このまま眠ってしまおう。。。
「湊くん、、、起きてる?」
「は、はいっ!起きてるよ。」
つい、反射的に返事をしてしまった。
「やっぱり悪いからさ、湊くんベッドで寝てよ。走って疲れてるでしょ?」
「いや、大丈夫だよ。梨奈こそもう遅いから寝な。」
「もぉー。言うこと聞かないんだから。分かった。じゃあ私も床で寝る。」
「えっ??笑」
そう言って桜井さんと俺は背中合わせで寝ることになった。
ドキドキと心臓の音が聞こえる。
桜井さんに聞こえて無いかと心配になるくらいに。
「桜井さん?起きてます?」
「.................。」
寝ちゃったか。笑
結局
俺はそのあと一睡もできずに夜を明かしてしまった。