ケンティック
更地になって平らにならされた場所に、地縛霊がたたずんでいた。
「ココハワタシノヘヤナノココハワタシノヘヤナノココハワタシノヘヤナノ……」
建築家は困ったように話しかけた。
「すまないとは思うが、建て替えないといけないんだ。理解してくれ」
「ココハワタシノ……」
幽霊は実際には何をするわけでもなかった。ただ工事中、ずっと恨めしそうな顔で見ているだけだった。恨めしそう、というのも建築家が後ろめたさからそう見えただけかもしれなかった。
基礎工事が終わっても変わらない幽霊に建築家は言った。
「で、ここに何を立てたい?」
幽霊は続きを待っているのか沈黙している。
「新しく人が住める場所を作る仕事をうけているが、何を立てるかは決められてない。ここは君の部屋なんだろ? だったら、いずれ誰かが住むにしても、間取りやデザインくらい君が決めるもんだろ」
沈黙は続いた。
やがて、
「……木がホしい」
幽霊はぽつりとそう言った。
「……木の見エるマンションだった。……椅子がほシい。……背もたレのない頑丈な椅子。……全く同じデザインの大キなテーブルがほしい」
それからは打てば響くだった。
流れるように要求が紡ぎだされ、建築家はその通りに作っていく。
マンションが完成すると国のお役人がやってきた。
「ここは何にする予定なのかね?」
「マンションです」
建築家は答えた。
「しかしこんなに広い土地はいらないだろう」
「いえ、きっと必要です」
部屋ですから、というのは黙っていた。
「では早速人を入れよう」
「それが、既に住民がいます」
「なに?」
建築家は幽霊を紹介した。
「幽霊がいちゃ人が住めん。これはイカン!」
そう言うとお役人はすぐさまいなくなり、霊媒師を連れてきた。
「これで人が住めるだろう。わははは」
霊媒師はお役人を気にせず座り込むと、盃に酒を注いで三日そこに座り続けた。
お役人は途中で頭をかきながら帰った。
建築家は許しをもらって盃を囲んだ。
「この場所を譲って、成仏してくれんかね?」
「良いヨ。どんなに整えテも、ここはワタシの場所じゃないもの。ありがとう」
幽霊は成仏していった。
「良かった良かった。さて誰に住んでもらおうか。これだけ広ければ何人でも住めるな」
建築家とお役人が話していると、そこに大工のアルバイトが走ってきた。
「建築家さん! 空から女の子が! 伏せてください!」
女の子はマンションの敷地に着地した。片足がマンションの屋上から一回までを貫いた。
最近巷ではやりの巨大娘だった。
大きなマンションの敷地ですら少し狭かった。彼女はテーブルに座って、庭の草の上で寝るしかなかった。
代わりに、周りに建物を作る際にはとても助かった。器用で巨大な手は建築にとても便利だった。
巨大娘はそこにいることになった。
巨大故スカートだとパンツが見えた。ズボンでもロマンのいきり立つアングルだった。
じきに慣れた。
建築家は恋に落ちて、花束をもってプロポーズする。
「ずっとここに住んでくれませんか?」
「はい」
そうして建築家は一つの仕事を終えたのだった。