プロローグ
静かに雪が降っていた。
真っ白な雪に赤い薔薇のように血の染みが咲いていく。
目の前に佇む漆黒の龍はその深紅の瞳を憎悪に染めていた。
絶望を体現したその姿の前には如何なる生物も存在を否定される。
剣を持つ右手はもうほどんと動かない。もう生き残れる可能性はない。
現状で思い浮かぶ対策は気づいてはいけないという言い訳をする。
一瞬で全魔力を注ぎ込んで全力で屠るしかない。
この辺の地形は不毛の地に変わるだろう。ああ、また小言を言われるな。
心中で謝罪した。天を仰ぎ見て静かに雪が静かに舞い散る空を見上げた。
そしてそっと目を閉じた・・・
振るう事出来ない剣をあっさりと手放す。
緩やかに静かに右腕を上げ右手を突き出す。
「我の・・・想いを・・・喰らえ・・・古き・・友よ!」
一気に溢れ出した激情を顕現した膨大な魔力の奔流があふれだした。自我を失ったようにうねり合いながら津波となって巨大な龍を一気に飲み込んでいく。それは魔力の限界を一瞬で振り切るほどの膨大な魔力だった。
ピシィ・・それは絶対に聞こえてはいけない音だった。頭を鈍器で殴られたような感覚を覚える。
その瞬間、体中の欠陥が破裂し血飛沫が舞い、雪に更なる薔薇を咲かせる。
激痛が全身を覆うがそれを歯を食いしばり耐える。徐々にその痛覚さえなくなっていく。
「約束だからな・・・いつまでも・・・・隣に・・・」
巨大な龍を覆っていた蠢いた魔力が一瞬その動きを止める。
直後、周辺の地形を一変させる魔力爆発が巻き起こった。