5 安全運転を心がけましょう
・あらすじ、俺の愛車はチートでした…
草原を抜けた車は木々生い茂る森へと差し掛かる
草原では、トリケラトプスのような角がある草食生物や遥か上空にプテラノドンのような生物の群れを見ただけで〈認識阻害〉のお陰なのか特にハプニングなく平和なドライブだった
現在俺は薄暗い森をぐねぐねと車で進んでいる
始めは木と木が邪魔で通れないのでは?と思ったがエナが通れる道をナビゲーションしてくれているおかげで問題なく進めている
「マスター、少し問題が発生しました」
「ん?、この先行き止まりとか?」
「いいえ、この森を抜けるルートはもう作成済みです、問題はそのルート上に魔物がいることです、広い草原と違ってこの森では迂回が出来ません」
魔物と言う響きに先ほどの恐竜に似た生物達を思い浮かべる…
「エナ、どうしたらいい?」
「レーダーの反応は小さいので、居ても小物です、心配するほどでは無いですが注意だけはしていてください」
エナも心配ないって言ってるから信じよう、道もこのルートしか無いらしい…不安を感じつつも俺は車を進める
ちょっと行くとエナのナビ通り、前方に小さな緑の影が3つ見え、車の速度を落とし3つの影から距離を空けて車を停車させる
「ゴブリン?」
小さな体、緑色の皮膚、醜い顔、
ゲームなどによく出てくるテンプレそのモノなゴブリンの姿がそこにあった、想像と少し違うとすれば目が凄く赤いくらいか
ピロン♪
ナビの画面にその緑色の魔物が映し出される、いろいろ書き出される文字や数字 どうやら俺の思った通りゴブリンだったようだ
細かい数字はあまり気にせず、説明の部分に目をやる
[個体しての能力はさほど強くないが、強い繁殖力を持つためゴブリンの群れや集落が出来ると注意が必要、繁殖の為に人の雌個体を使うケースや家畜、作物の被害により、常に冒険者ギルドでは討伐、駆除依頼が出ている]
目の前にいる3匹のゴブリン、通り道にとどまっている理由は食事のようだ、狩った獲物だろうか?その肉を豪快に食い散らかしている
幸いエナの能力、認識阻害のおかげかまったくこちらに気付く様子は無い
「討伐とか駆除って書いてるけど、俺一般人だし…なにより勝てる気がしないな」
ゴブリン達の食事風景を見てビビってしまい、自分が戦え無い事をしっかりと口にする
「大丈夫です、マスターなら勝てます」
「無理」
全力で首を横に振る
「では、私の言うことをそのまま実行して下さい」
「…うん」
「 マスターは緊張しています、ハンドル持ったままでいいので目を閉じて深呼吸してください」
目を閉じ、鼻か空気を吸い込み、口から息を吐くしばらく繰り返し自分を落ち着ける
「では、マスター行きます、右足をアクセルペダルの上において、強く踏み込んで下さい、以上です! いざ突撃です!」
…目を閉じている間に軍服のような衣装にチェンジして敬礼しているエナを突っ込めばいいのか、車で敵に突っ込みをすればいいのかわからなくなりながらエナの指示通りアクセルを強く踏む
「もう、どうにでもなれ」
車は急加速し食事中のゴブリンを目掛けてどんどん速度を上げ接近していく
ドゥドン グシャ
鈍く重い音がバンパー越しに伝わって来る
認識阻害の効果なのか当たる直前までゴブリン達はこちらにまったく気付く様子無くそのまま車に引かれていった
吹っ飛んだ緑色の小さな2つの身体は血で出来た真っ赤な水溜まりの上に倒れピクリとも動かない
討伐推奨のモンスターだとしても無防備な状態からの一方的な虐殺には、罪悪感が沸き上がる
「マスター、まだ一匹残っています」
突っ込んだ時の立ち位置のせいで一匹のゴブリンが車にかすっただけで軽傷である
片腕に傷を負いながらもう片方の手で棍棒を持ち この車に威嚇してくる
しかし睨み付ける赤い目には恐怖の色が見てとれる
もうひと押しで追い払える…何かないか?
ハンドルに目を向けた時にハっと気付き俺はためらい無くハンドルの中心を強く押す
プァーーーーーーーー
大音量のクラクションが鳴り響く、驚いたゴブリンは尻餅を着いた後 一目散に逃げていく
「よし、うまくいった」
逃げたゴブリンを見て俺はホッとする
「どうですか、マスターはモンスターと戦闘したら勝てるんですよ」
「エナ…、あれは戦闘じゃ無くて故意の事故かなんかだと思うぞ…たぶん」
「いいえ、あれは戦闘です、先制攻撃で華麗に敵を倒し 残った敵を撤退に追い込んだ、マスターの圧勝です」
紙吹雪が画面内に降り注ぎその中で拍手をするエナを横目に このなんとも言えない罪悪感のようなものを抱えながら、俺は車のアクセルを踏み村に向かって進み出す
「なんか後味悪いな…安全運転を心がけよう」
この異世界で安全運転なんて出来るのかな?と思いつつも戦闘?事故は極力起こしたくないなーと思う
大丈夫…俺は今回の戦闘での教訓はクラクションの重要性だ、日本では通行人や自転車に退けとクラクションを鳴らすと罰金があったような気がするがここは異世界 気にする必要は無い
そんなことを考えながら北へと車は進む、森を出てしばらく行くとようやく道らしい道が見えてきたのだった