2 あの事故を無かったことにしましょう
落下死の恐怖により俺が目を閉じてからしばらく時間が経っている…一向に何の衝撃もこない
むしろ静か過ぎる位だ…恐怖から強くハンドルを握っていた手を緩め、ゆっくりと目を開ける…
「白い世界…」
思わず口からそんな言葉が出てくる
ここは、よくラノベ小説などに書かれている死後の世界とかなのだろうか、わからない…なんの情報も無い…
この世界のことについていろいろ考えたいのだが、目の前に気になるモノを発見してしまい まったく集中出来ない…
この白い世界、何も無いというわけではない、俺自身 車に乗っているし、車に積んである赤提灯や鍋なども無事である
車の外に白く何にもない空間がひたすら広がっている
…訂正、気になるモノは車の前方 3m 付近にある…いる?
これでもかと言うほど、全力で土下座している金髪和服の男性…ピクリとも動かないそれはもう芸術のような綺麗な土下座だった
そして気になることがもう1つ、その金髪和服の男性の頭にいわゆる獣耳が生えている、女性だったらよかったのに…
少しでも今の状況を知りたい俺は、恐る恐る車を降り金髪ケモ耳男に話しかける
「あの~」
ばっ と顔を上げ俺に体の向きを合わせ再び土下座するその男
「本多[ホンダ]様、うちのバカ息子が本当に申し訳ありませんでしたーー」
大きな声でされた、いきなりの謝罪に固まってしまう俺…何とか声を絞り出し質問する
「あの~えっと…、なんでこんな状況になってるのか説明して頂けると非常に助かるんですが…」
金髪ケモ耳男は顔を上げ正座をしたまま姿勢を正しゆっくりと喋りだす
「では、最初から説明させていただきます、まずは自己紹介から私は仙狐の御津音[ミツネ]と申します 」
「仙狐?」
「はい、本多様に分かりやすく説明しますと、神様の使いといったところでしょうか」
「じゃあその、神様の使いが何故俺に土下座する状況になってるんですか?」
「その原因は、本多様の亡くなる直前の事にあります」
あ…やっぱり俺死んでたか…
死んでる事をさらっと言われてまた固まってしてしまう
ラノベ小説が好きでよくこのようなシチュエーションが出てきて、死んでるかもしれないな~と頭の片隅で思っていたが改めて人に言われるとやはり動揺してしまう、死ぬ前でもないのに…いや死んでるのか?走馬灯のように家族やら友人の顔が浮かんでは消える
「…続けてください」
「では」
御津音は一度お辞儀をしてから喋りだす
「今回の事故…本多様が亡くなる原因である道路に飛び出してきた狐…その狐が何を隠そう下界修行中の私の息子なのです」
「あの狐が息子さんだったのか…、でもそれ御津音さんが黙ってたら不運だったな~俺ってなって終わりのような気がしますが?」
「それだと私の上司…地球などを管理してる神様の所に本多様の魂が還った時に何があったのかバレるんですよ、実際息子は神通力使って貴方の車操ってましたし…」
あー、だから狐を避けるときにめっちゃ膨らんだのかー…事故当時のことを思い出して考えていると御津音さんから気になる発言が飛び出す
「こういう不祥事があると息子の将来や私自身の出世に響くじゃないですか」
「んっ?」
「だから、上司の神様にバレる前に他の管轄の神様達と コネや弱味を使って今回の本多様の件をもみ消そうかと思いまして」
「はい?」
「それで、本多様への謝罪と今回の件をもみ消す説明の為一旦この世界に来て頂き、今に至ります」
「えっと…ん?」
「つまり、今回の件をもみ消したいので私の上司である神様にバレないように違う管轄の神様の所に本多様の魂を送るということです」
そう言って彼はイケメンスマイルをこちらに向ける…俺への謝罪どこに行った?
困惑している俺に御津音さんは通販の販売員のようにさらにたたみかける
「今なら、生き返れて、さらに強力な神の加護がついてきますよ」
!
「生き返れんの、俺」
てっきり魂だけ違う神様に引き渡されると思ったが違うようだ
「神の管轄が違うでもちろん地球とは違う世界つまり異世界での生き返りになります、体に関しては本多様のクローンのような体を準備してますので気軽に異世界転移したとでも思って下さい」
「生き返れるのは嬉しいでのですけど、なんで俺の為にそこまで?」
「いえ、あなたの為だけではなく一度魂を生身に入れその世界にしばらく馴染ませないといけないので」
そういう理由か…もともと死んでいるのだし違う世界でも生き返れる?のであればありがたい話しである…、…ここは事件の揉み消し、不正?に何も言うまい…
「…よろしくお願いします」
「了承もらいましたし、まず神の加護を授けて貰いますね、本多様への謝罪の意味を込めたサービスですよ」
俺にまたイケメンスマイルをした後、親指と小指を立て電話のような仕草をする御津音さん
「≫∩♯≫⊃√様 例の件で加護を御願いしたいのですが」
すると俺の頭にも低い声が響いてくる
「ミツネヨ、フリンノコト、ワガツマニ、シャベルデナイゾ」
異世界?の神様、あなたも裏取引か~い、声に出さず心の中で突っ込みを入れる
「分かっております、ではここにおります本多 圭[ケイ]に加護を御願い致します。」
「ホンダケイニ、ワガカゴヲアタエル」
白い世界の上空より神々しい光がゆっくりと降りてくる、きっと加護を与える光なのだろう、その光はスポットライトのように俺を………
照らさずにすぐ横にある俺の愛車をキラキラと照らし出す
「ミツネヨ、ヤクソクハマモッタ、ゼッタイ、ツマニシャベルナ…」
「あの、≫∩♯≫⊃√様 ∩♯≫⊃√様ーもしもしー」
電話を切られた時のように御津音さんが呼びかけるが返事は返ってこないようだ
俺の口では到底発音の出来ない神様…
それは俺、本多 圭 ではなく、俺の愛車…ホンダの軽 です
御津音と目が合いしばらく無言が続く…
「彼の加護はいろんな異世界の中でも最強クラスなので頼んだのですが、そのー…あの御方は大雑把なもので…今回は、生き返れるということで手を打って頂けますか?…」
「はい…」
高望みはいけない、御津音さんも言ってた加護はサービスだと…
「効果は大分下がりますが本多様には私の加護を授けますので」
キラキラと俺を包む光、明らかに先程の光に比べ光量が弱い…
「期待しないで下さいね」
「いえ…ありがとうございます」
ふわっ
急にこの白い世界に風が吹き出す
「こちらの都合で申し訳ないですがもうお時間のようです、バカ息子のせいとはいえ巻き込んでしまいすいません」
御津音さんが頭を下げる
「いえいえ、こちらもスピードの出しすぎとか運転中に考え事など悪い所がありましたし、地球に未練はありますが死んでいては意味無いので、生き返れたってだけで十分です」
「そう言って頂けるなら幸いです、では風が強くなる前に車に乗ってください、あちらの世界の神 ロトム様に車付きで転生していただきますから」
「いいんですか?」
「はい…ロトム様の弱味は握りまくってますから、これくらいパッとしてくれますよ…フフフ」
怖い笑顔のまま御津音さんはドアを開けて乗車を促す
促されるまま運転席に座る俺
「体感で1分足らずで地球とは別の世界エステリアに到着します、それではお元気で、今度は貴方の夢が叶いますように…」
バタン
御津音さんによりドアが閉められた瞬間 車の外側は真っ暗になりなにも見えなくなる
光を感じたのは、言われた通り1分後位だった