14 異世界を爆走しましょう
あらすじ、隣町まで夜のドライブ…助手席も後部座席も野郎だけど(泣)ってそんな事言ってる場合じゃない!
「すいません、少し遅くなりました」
マルクさんが倉庫近くに停めてある車の所まで走って近づいてくる、ついでに俺とエっさんはシートベルトも締め準備万端だ
マルクさんを後部座席に座るように促し隣町に出発するメンバーがそろう
「では出発します」
アクセルを踏み動き出す、車の停まっていた所は西門の近くにあるため もうすでに門番さんには話を通してある、門を出て少し行った所でしばらく停止…ある人物の報告を待つ…来た
「やはり、練習場にボウズはいなかった…西門を出ているということだからやはり隣町に行きやがったみたいだ」
苛立っているのと頬の傷のせいで迫力がある
「ケイさんだったか…すまねー俺の馬鹿弟子をよろしく頼む」
倉庫が門の近くにあった為 先に門まで来ていたハンスさんを発見、その時にエっさんが車のことや隣町に行くことなど説明してくれた、ハンスさんは念の為といつもの馬の練習場を見に行ってくれていたのだ
「はい、いってきます」
アクセルを徐々に強く踏んで行き車を加速させる
目的は2つ、ロメオくんの確保と薬の調達どちらも早いほうが良いにきまっている
この世界にはもちろん法廷速度なんて物はない、俺はさらに強くアクセルを踏んでいく
「二人共しっかり掴まっていてくださいね」
加護で揺れが少ない車だとしても速度が速いと恐怖感はある、後部座席のマルクさんはシートベルトはもちろんのこと斜め上についてある取っ手を握ってもらっている
初めての車のスピードにマルクさんは必死に取っ手にしがみ着いている、俺自身も薄暗い道を猛スピードで運転してけっこう必死になっている…そんな中…
「マスター、いい感じです!もっとスピード出しましょう」
「うひょー速えー」
一大事にテンションの上がっている美少女と40歳児、エナはかわいいから良いとして自重しろエっさん…まーたしかに速いけど
今車の速度は100キロを軽く越えている、エっさんに聞いたら馬の速さは急ぐと一時間で25~30キロメートルほど進めるらしい…
ロメオくんの進む四倍以上のスピードで爆走する俺達、追い付くのはあっという間で保護して はい めでたしめでたしになる予定だった…しかしそれは何もなければの話しである…
暗くなった道を続けて爆走している、外はもうライトをつけて走ってないと事故ってしまう薄暗さだ 、気を張りながら運転していると画面から話しかけてくる声が
「マスター 前方道なりに馬と人を捕捉しました」
「よし、追い付いた」
「でも問題ありです、その人 魔物に囲まれそうです」
エナはナビに地図画面を表示させる、青い点は先程捕捉したロメオくん、問題はその後方と周りに点在する多数の赤い点つまり魔物だ、要約…ロメオくん超ピンチ
「もっと速度上げます…気を付けてください」
アクセルを踏んでいる右足にさらに力を入れベタ踏みする、間に合え…
ーーーーーーーーーー
「なんで…なんで…」
馬を全力で走らせながら弱音がこぼれる、僕は暗い夜道を走ることは覚悟をしていた、実際習った光魔法〈ライト〉を使いながら進めることが出来ていたのだから
問題はそこじゃ無い…今後ろの方から近づいてくる魔物が問題だ、
夜間の道と言っても街道には魔物が出てくる確率は低い方らしい、なのに
…レッドウルフ、集団で狩りをする魔物、数によって危険度が変わる、今僕を追っているレッドウルフの数は10匹を越えさらに徐々に数が増えてきている
止まったら一貫の終わり、僕は一心不乱に馬に鞭を入れる…でも自分が助かる姿の想像ができなかった
馬のスピードが上がらない、全力で走らせている為馬の体力がもう無くなりかけているのだ…
助かる想像が出来ないと気持ちが悪い方へ悪い方へとどんどんいってしまう
「全部…僕が悪いんだ…町のことも今も…自分が悪いんだから…」
死んでも仕方ない…
声に出さないものの自分なりに死ぬのを覚悟した、自分が悪い、運が悪い、魔物が悪い…ドロドロになった感情は自分は死んでも仕方ないという方向へと引きずり込んでいく…
ヒィィィーン
甲高い馬の鳴き声と共に馬上が大きく揺れる、左の後ろ足にレッドウルフの一匹が噛み付いた、レッドウルフを引き剥がそうと暴れる馬
必死しがみつくも馬の力に勝てず振り落とされてしまう…
道脇に吹き飛ぶように振り落とされた…背中への強い衝撃…息が出来ない
レッドウルフ達は馬を追う方と僕を食う方とで別れたらしい…半分ほどの数が追う必用がなくなった 僕にゆっくりと近づいてくる…
「母…さん…ごめんな…さい」
僕は徐々に近づいてくる死を受け入れゆっくりと目を閉じる
プァーーーーーーーーー
大音量が辺り一帯に響く、その音とと共に恐怖心が一気に身体を支配する、さっきまで死を受け入れていた身体が震えだす…怖い怖い怖い怖い怖い
「死に…たくない…死にたくない…
」
周りでは何かがぶつかる音や地面と何かが擦れるような音が聞こえる、死にたくない怖い…生きたい…
「助けて…」
ザシュ
肉を切り裂く鋭い音が聞こえ恐る恐る目を開ける…僕の目の前は真っ赤な血で染まっていた
「おう少年、危機一髪だったな、おっさん達が助けてやるから安心しろ」
レッドウルフ数体が倒れていて血で水溜まりが出来ている
声の主は剣を構えて僕を守ってくれている、僕が憧れていた誰かを守るその背中
その背中に安堵したのか 僕はゆっくり意識を手放していった…
ーーーーーーーーーー
正直俺はここまで車の速度を出したことはない、常にアクセルベタ踏みとか日本でしたらすぐ事故るだろう、しかし今 運転技術向上の加護のおかげだろうか予想以上に運転出来ている
このスピードのおかげですぐに前方に影が見えてくる、馬に乗っているのがロメオくんだろう…しかし
「まずいな…」
助手席に座っているエっさんも苦い表情をする
「あっ」
俺は思わず声が出してしまう、レッドウルフが馬の後ろ足に噛み付いた、空中へと投げ出される
「ロメオくん…」
後部座席からも見えたのだろうマルクさんからも声が漏れる
俺は覚悟を決める
まずレッドウルフ達の気をロメオくんからこの車に移す
プァーーーーーーーーー
ハンドルの真ん中を強く押す
「皆、ガチで揺れるから」
俺は今のスピードを緩めることなく近づいていき目標近くブレーキを踏み込み多少乱暴にハンドルを右に切り込みスピンに入るつまりドリフトである
車で集団の真ん中を凪ぎ払うように広範囲のレッドウルフ達を吹き飛ばすことに成功する
しかしロメオくんの間近にいる4匹のレッドウルフはロメオくんに近すぎた為ドリフトで巻き込めなかった…
どうしようかと思っていると動いた人物が一人、まるでアクション映画のようにドリフト中にベルトを外しドアを開けて外に飛び出す
綺麗に受け身を取ったエっさんは鞘から剣を抜きロメオくんの近くのレッドウルフを流れるように切り裂いていく
悔しいけど正直かっこよかった …見た目もハリウッドの渋い俳優みたいだしさ
ドリフトで巻き込めなかったロメオくんから遠い方にいたレッドウルフは街道脇の林へと逃げて行く…
とりあえず一段落、ふーっと空気を吐いた後 車をゆっくりエっさん達に近づける、エっさんもロメオくんを抱えこっちに近づいてくる
「ロメオくんは大丈夫ですか、エリックさん」
顔見知りなのでかなり心配なのだろうドリフトの衝撃から復活したマルクさんがまず口にしたのがこの言葉だった
「大丈夫、少年は安心して気を失っただけだからさ」
後部座席のドアを開けてマルクさんの隣にゆっくりと座らせるエっさん
「とりあえずケイ君、もうひとつの急ぎの用事、隣町目指そーや」
そう言ってドアを開け助手席に乗り込みベルトを締めるエっさん
「了解、動きます」
危機一髪の所だったがロメオくんの救出に成功、もうひとつの目的である薬の調達に向かって再び俺はアクセルを踏んだ




