12 僕のせいで…(少年視点)
僕が…絶対に薬を届けるから…母さん、皆
父が亡くなってから2年 、母さんと二人でがんばってきた
今日もいつもと変わらない朝から始まった、母さんの仕事は 雇われ農家、僕を育てるために毎日休まず仕事にいく、僕も給金は出ないが母さんの手伝いをおこなう、身体の弱い母さんが少しでも無理をしないように…
「母さん、これ僕が運ぶから」
「あ、ロメオ無理しないの」
かごに入った野菜を決められた場所に運ぶ、まだ背が低いが僕は男だこれくらいいける
「ロメオくん頑張りますね」
「ええ、まだ12才なんでもっと子供っぽく甘えてくれてもいいんですけど」
遠くで母さんと同僚のおばさんが話している…僕は子供じゃない
黙々と農作業が続き昼休憩の時間になる、僕はこの時間が少し楽しみでもある
「おう、ボウズ今日もするのか」
「勿論、あとボウズじゃなくロメオだ」
僕は手に剣をかまえ、頬に傷のある体格のいい男性に催促する、今僕は戦闘を習っている
ここの畑は町から東に離れた所にあり柵はあっても魔物が出る事があるため念のために護衛がついている、今目の前にいる男性はその護衛のハンスさん、元冒険者だ
今戦闘を習っている理由はその冒険者になる為、ダンジョンを探索する 魔物を狩る 希少な素材を探す、危険な仕事だが実力次第で身分関係なく大金持ちになる事が出来る職業
現にハンスさんもお金に余裕あり引退した今でも実力を買われ護衛として働いている
「やぁっ」
ハンスさんに向けて剣を振りおろす
「ほらほら、ボウズ頑張れ」
剣を軽く横へ逸らされてしまい外れる、それでも僕は諦めずに剣を振る
「ちょっとはマシになってきたがまだまだだなっと」
剣を外した後、足をかけられ転んでしまう…悔しい
「えいっ」
倒されては向かい倒されては向かいを休憩が終わるまで繰り返す
休憩が終わり、午後からまた農作業の手伝い、ここまでいつもと変わらない僕の日常、その日常に変化が起こったのは、農作業が終わった夕方だった
農作業が終わり皆が帰る準備をしているそんな中、僕は隅の方で剣の素振りをしていた、すると畑脇の森から20センチ程の小さな影が柵越え畑に入ってくるのを発見する…ソルジャービーだ、スライムや爪ウサギ(クローラビット)と一緒で初心者でも狩れる蜂の魔物 前にハンスさんと狩った事がある
この世界では、増魂と呼ばれる考えがある、倒した魔物の力の一部が自分の力、魂の一部になると言うもの、実際魔物狩りをしている人とそうでない人では力の差はもちろん傷の治りかたすら違う
「強くなるチャンス」
僕は剣をかまえソルジャービーに接近する、こちらに気づいていないその魔物向かい剣を上から下に鋭く振りおろす
「よし」
相手に致命傷を負わす、羽が傷つきもう飛べないだろう、後はトドメを刺すだけ 剣を振り上げる
キャシャァーーーァーー
死に体から出てくるとは思えない程の音量で発せられた声、甲高い音が辺り一帯に鳴り響く
僕は驚きながらも剣を振りおろしトドメを刺す…よし終わり
今の鳴き声を聞いてかハンスさんが走って近づいてくる
「ハンスさん見てよ、前より上手く倒せたぜ」
そう言って自慢気に狩った得物を見せる、いつもみたいに「まだまだだな」と傷のついた顔に笑みをみせ声をかけてもらえると思っていたが現実は違った
駆け寄ってきたハンスさんはいつものやさしい顔ではなく真剣な顔をしている、僕の狩った魔物を見るとうしろのもう一人の護衛の人に声をかける
「やはりポイズンビーだ、急いで皆を避難させるぞ、来いボウズ」
そう言って僕の腕を掴みその場から離れようとする、腕を引っ張られ走りながら僕は混乱していた
「え…?」
疑問が出るも上手く言葉に出来ないそれを察してかハンスさんが
「あれは似てるがこの前狩ったソルジャービーじゃない、ポイズンビーだ普段はこんな所じゃなくもっと森の奥深くに居る魔物なんだが…」
「でも倒したよ…」
「ポイズンビーが危険なのは数と毒ださっきの鳴き声は仲間を呼ぶ声だ」
「…」
「気に病むな、この前狩りに行った時に違いを教えなかった俺が悪い」
「…」
トドメを刺した場所から僕達が走って200m離れたくらいで状況が変わる
森の方から羽音が聞こえてくる、バサバサといった鳥のダイナミックな音では無い 、羽がすれる低い音 人の不快感を煽るような虫の羽音その音は大きさと数共に増してきている
「クソッ もう来やがったか、ボウズ馬車まで走れ」
引っ張られていた腕を離し僕1人で逃げるように言われる、ケビンさんは剣を抜きその場で向きを変える
「僕も…」
「いいから行け、この数ボウズを守りながらじゃ俺まで危ねー」
「でも僕も戦える」
「ちッ ボウズはっきり言う邪魔だガキのお前は正直足手まといだ、行け」
悔しかったがなにも言い返せない実際ハンスさんとの稽古ではいいように遊ばれてるのだから
踵を返し無言で馬車の方に走る、悔しかった、子供扱いされること…足手まといと言われることが…
森に反響していた低い羽音が さらに大きな音になる、森から出てきたため音を遮るものが無くなったからだろう
走る先に見えるのはハンスさんの同僚の二人が最後尾を護衛しながら町へ足を進めている、僕は嫌な予感がした…その護衛以外の最後尾にいる人物に見覚えがあるからだ…
「母さん…なんで…」
「ロメオ」
きっと母さんのことだ避難してはいるものの僕を気にして最後尾にいるんだ…気にせず逃げてくれたらいいのに
「母さん早く、町の方に」
やっと最後尾においついた僕、母さんの手を引きそのまま町の方へ走り出す、門まで約1Km…短いようであまりにも遠い距離、追ってくる者の速度の方が圧倒的に速いのだ
キャシャァーーーァーー
後方から羽音の他に甲高い鳴き声が聞こえるハンスさんの所で戦闘が始まっているのだろう、ごめんなさいと思いながらも振り返らず母さんの手を引き門を目指す
後500メートル、羽音はさらに大きさを増す
スッ
走っている僕達の横で剣を抜く音が聞こえる最後尾を護衛していたハンスさんの同僚だ
ザシュ
近くで何かを切り裂く音が聞こえる…何かじゃない…ポイズンビーがすぐそこまできている…
「くッ、しまった」
…護衛の人の声、ポイズンビーがこっちに迫って来る
「母さんは逃げて」
「何を言ってるのロメオ」
僕を心配して叱る母さんの手を離しうしろを向き剣を抜く、大丈夫さっきも出来た
「はぁぁぁ」
迫ってくるポイズンビーに一太刀くらわせる、身体は真っ二つ正に一刀両断
「よし」
「ロメオ駄目ー」
門に向かって先に行っていると思っていた母さんの声がすぐ後ろに聞こえる、振り返ろうとすると背中を押され前向きに倒れてしまう
すぐ立ち上がり後ろに目をやる…地面に倒れた母さん、脇腹には何かに刺された傷があり血が滲んでいる…
母さんを刺した犯人は羽音を立てて次の獲物をと門へ逃げる人達にめがけ飛んでいく
「母さんッ」
僕は倒れた母さんに駆け寄る
「…ロメオ早く逃げなさい、お母さんは置いて…」
「そんな、出来ないよ母さんも一緒に」
「ロメオ…」
僕は母さんを肩に担ぎ門を目指す、護衛の人が近くで僕達を庇うように戦ってくれている
悔しかった、僕が大人なら母さんを担いで走れるのに 今このスピードがやっとだ…
悔しかった、僕が大人なら皆を守れたのに…
護衛の人が最後尾の僕達を庇うことでどうしてもしわ寄せが出てきてしまう…ポイズンビーを殺しきれず何匹も門に逃げる人達に向かって飛んでいく
「ごめんなさい…ごめんなさい」
僕は無力だった、皆を守るどころか皆を危険に去らしてしまっている
ひたすら足を前に進めて門まであと300メートル強 ここでやっと事態は好転する
町の方からの救援 、町の兵士や現役冒険者達がポイズンビーを倒し、怪我人の救助をしていく、そしてその救助が僕達の所にまで
駆けつけて来たのは大柄で厳ついスキンヘッドの大男、この町のギルドマスターだ、獣神の加護持ちで獣耳がついている 、彼は大きなバトルアックスを片手に持ちもうひとつの手を俺の頭に乗せ僕に言葉にをかけた
「頑張ったな、良くやった」
的外れな言葉だ…原因は僕なのに…なんで…僕は気付けば泣いていた、安心からなのか、自分の無力さが悔しいのか
彼のうしろから来た他の冒険者が僕に変わり母さんを背負い門の方に走りだす
「お前は走れるな、ここは俺達に任せて町まで急げ」
ギルドマスターが向きを変え大きなバトルアックスを横に振るう、獣神の加護特有の身体能力からなのか羽音を立てて飛んでいた2匹は原型が残らないくらい粉々になった
泣いてる場合じゃないのに、涙は止まらず、僕は涙を服で拭いながら母さんを背負う冒険者の後を追って走っていた
冒険者や門番の救援のおかげで町にたどり着くことができた、母さんを町の病院に連れていけた安心があったが僕には喜ぶ資格がない…目に映る光景が僕の胸を締め付ける
毒の熱で倒れてる人、服が血で滲んでいる人、それを看病する人、心配して寄り添う人
…原因は僕だ
何かしないといけない…熱で寝ている母さんの隣で耳に飛び込んで来たこの言葉
「解毒薬が足りない」
居ても立ってもいられなかった、この病院以外で薬があるとしたらクラウス商会…
「母さん僕が助けるから」
僕はクラウス商会向けて走りだす
トータスの大通りの中でも目を引く立派な建物、クラウス商会お店に入る棚には薬らしい物が見当たらない…直接マルクさんに
父さんが知り合いだった為ここの偉い人、マルクさんとは面識がある…階段を上り…たしかこの部屋、扉を開こうとすると中からマルクさんの声が聞こえる
「現状はわかりました、ここにはもう薬は無いですが、隣町のバモス支店にはポイズンビーの解毒薬があるはずです、至急連絡を入れます」
…薬が無い…隣町に…僕がとってこなきゃ
夕方から隣町に向かう者は居ない途中で夜になってしまい危険度が上がるからだ…きっと商会の人も二次被害を避ける為に朝イチで隣町に行くはずだ…でも僕は自分が原因で苦しむ人の顔を思い出してしまう
「僕がやらなきゃ…」
正直怖さもあるが居ても立ってもいられなかった、僕はその怖さをごまかす為に勢いよく階段を降りる
まず向かう先は牧場主をしている知り合いの家
「お、ロメオくん仕事終わったんだね、いつもみたいに乗馬の練習かい?」
「…はい、そうです」
「いつも通り気をつけてね」
庭にいる馬に跨がる…ごめんなさい
「…じゃあ練習いってきます」
向かう先は西門、先程のポイズンビーが出た門の反対側の門だ町中の為並足で門を目指す
町から出る時に門番のおじさんに声をかけられる
「馬の練習かい?なんか西門の方に魔物が出たそうだからあまり遠くに行かないようにそこら辺で練習するんだぞ」
「…はい」
あんまり西門には事件の詳しい情報がまわってきていないみたいだ、ほんの軽く注意をされただけで門をくぐることができた、…それに魔物が出たのは知っている、原因は僕だ
門をくぐりいつもの馬の練習場所に行くふりをする、今日の目的地はそこじゃない、隣町バモスだ
「僕が…絶対に薬を届けるから…母さん、皆」
自分で自分を勇気づけ馬を走らせる、日が落ち暗くなり始めた頃、普通なら誰もこの時間から出発しないその道を一人の少年と一頭の馬が走っていく