1,田舎の山道は気をつけましょう
山の頂上付近にぽつんと建っているこじんまりした一軒のラーメン屋「あかり」 ラーメン好きの間ではかなり有名で知る人ぞ知る名店である
定休日の今日、普段なら誰もいないこのお店の入り口に俺とスキンヘッドの厳つい顔した大男が立っている
俺は現在、その大男に深々と頭を下げている状況である、けしてヤクザな方からお金を借りているとかでは無い、この深々と下げた頭は感謝からの気持ちから来るお辞儀だ
「おやっさん、長い間お世話になりました、本当にありがとうございました」
厳ついスキンヘッドの大男…このお店「あかり」の店主である彼には大きな恩がある
仕事に就かずふわふわしていた自分を一杯のラーメンで変えてくれた人、そしてそんな一杯を作るのが夢になり、その夢に至る方法を1から指導してくれた人
今までの事を思いだしながらお辞儀を続ける、俺は少し泣きそうになりその顔を上げられずにいた
バチンッ
突然お辞儀をしていた背中に痛みが走る、きっと今俺の背中には大きな赤い手形がくっきりと出来ているだろう
痛みに耐えつつ顔をあげるとおやっさんが厳つい顔に少し笑みを浮かべている
「なに修行を終わった気になってやがる…これからが一番大変なんだぞ」
そう…おやっさんに弟子入りしてから4年、つい3日前に半人前と認めてもらった、なぜ半人前かというと、おやっさん的には自分の味、自分のラーメンが作れて初めて一人前になるのだそうだ
今の俺の状況をRPGのゲームで例えるとするなら、説明書を読み、キャラメイキングが終わった、操作方法の確認が終わったところくらい、つまりスタートラインに立った所である
「解ってますよ、俺 絶対におやっさん越えるラーメンを作りますから」
おやっさんに挑戦的な笑みを返す
「ふっ、材料すらまだ選べてないお前が偉そうに」
俺の宣戦布告を鼻で笑われた…
「…だから、これからこいつと一緒に最高の材料を探しに行くんですよ」
少しだけ声を大きくして、後ろに止めてある黒い軽自動車を指差す
運転免許を取ってから7年、ずっと乗り続けている俺の愛車である、このラーメン屋「あかり」に出会ったのもこいつとドライブしていた時の事だった
「まーいろいろあると思うが頑張れよ、忘れもんはねーか?」
「うーん、多分大丈夫なはずです」
トランクや後部座席にラーメンを作る道具やら鍋やらがぎゅうぎゅうに入っている…きっと大丈夫忘れ物は無い、確認が面倒臭い
「そうか、じゃあ行って来い」
「はい」
そう言って俺は愛車に乗り込んだ
「あっ、おいこれ持ってけ」
そう言っておやっさんは店先にある「あかり」の代名詞である赤提灯を取り外し、助手席の窓ごしに渡す
「俺がお前のような時期に師匠からもらったもんだ、餞別だ」
おやっさんの選別に涙腺が限界を向かえそうだ…出発しよう
「ありがとうございます、大切にします」
赤提灯を助手席に置き、車のエンジンをかける
「では、行ってきます」
俺は相棒の軽自動車のアクセルを踏み、夢へ最初の一歩を踏み出した
…はずだった
山頂付近にある店を出発してからしばらく経った頃
山道を運転している最中にラーメンの構成を考えていたのがダメだったのか…
それともおやっさんに認めら浮かれて注意力が低下していたのか…
俺の車がカーブに差し掛かったた時にそれは起こった
道路脇から小さい 狐 が飛び出してきたのだ
「おっ!」
ブレーキが間に合わずとっさに軽くハンドルを切る、その判断がいけなかった…
車は俺の予想を上回るほど右側に大きく膨らんでしまう
それだけなら問題なかったのだが不運なことに、膨らんだ先にカーブの影で見えていなかった対向車のトラックが迫ってきていたのだ
普段 車通りの少ない道の為、両車共に結構なスピードが出ている
正面衝突を回避する為、さらにそのままハンドルを切ってしまいう、やってしまった…
ガコンッ
結果的にはギリギリトラックは避け正面衝突にはならなかったのだが
「あ、俺死んだわ…」
目の前に広がる絶望的な光景に思わず出た声がそれだ
ゆったりとスローモーションのように流れるその光景はもしかすると俺の脳がこの状況から助かる為に最後の悪あがきをしてるからだろうか?
正直助かる気がしない…
現在の状況を簡単に説明すると 俺の運転している車がガードレールを乗り越えてしまい、山肌険しい崖のような場所を絶賛 自然落下中…
そしてトドメの如く 目の前には鋭く尖った岩が槍のように迫ってくる
さて質問あなたならどうしますか?
俺?
俺は激突する恐怖にただぎゅっと目を閉じることしか出来なかったよ…
・誤字脱字、文章力、語彙力の不足で読みづらいかもしれませんが少しでも楽しんでいただけると作者幸せです( *・ω・)ノ