パープルの平和な一日
今日は土曜日。出かけないと損するような天気で、そんな中でもヒーロー喫茶『アンスリウム』は開店の準備を始めていた。木造の建物で造花が飾っている店内は、シンプル且つ落ち着いた雰囲気だった。フロアではテーブルを拭いたりノンスリップトレイを拭いたりしていて、キッチンからは下準備を始めているようで、ほんのり食欲をそそるいい匂いが溢れていた。
ヒーロー喫茶と言ってもウェイターがヒーローの服装をしているのではなく、定期的に行われているヒーローショーで出ている人たちが働いている。店長と副店長はショーには出ていないが運営のトップに立つ人たちで、ヒーロー喫茶を始めようと言い出したのも彼らである。私はここ『アンスリウム』で一番の新人でいまだにフロアかキッチンか決まってないけど。
私のヒーローカラーは紫。だから紫色を基調とした制服だった。制服はある程度なら改造しても良いようで、人それぞれの着こなし方をしていた。私は目立たないように基本の制服のまま着ているけれど。
「花鳥さん、こっち。」
私の名前が呼ばれてそちらの方を見てみると優しげな男性、アンスリウムの店長がいた。彼の名前は天間直樹。彼はテンちゃんという愛称で呼ばれていて、イメージカラーはレインボー。虹色の制服が良く目立つ。ヒーローではないけどここのイエローが店長と副店長にも、と考えたらしい。
「なんですか?天間さん。」
まだ開店前なので名前で呼ぶ。開店すればカラーで呼ぶようにというお店の方針だ。お客さんもカラーで呼んでくれるからね。
「今日はキッチンでお願いします。今日は三人ずつで何かあれば僕も出るよ。」
天間さんはやわらかい笑顔を浮かべるので本当に困ったときに話しかけやすい。自分で解決した方がいいとは思うけどまだ新人だから、分からないことも多いし。そう考えると話しかけやすい人がいるというのは良い職場かも。
「ありがとうございます。それではキッチンの方に行きますね。」
天間さんと別れてキッチンに向かうと、肩幅の広い体格のがっしりした男性が準備を進めていた。黒色を基調とした制服を着ていて後ろ姿がカッコいい。彼の名前は古藤幹弥。無口な人だけどとても優しい人でほぼキッチン担当の方だ。
「おはようございます。古藤さん。」
「……。」
声を出している姿を見たことはないけど、礼はしてくれる。表情もよく見れば優しげに微笑んでいる姿がわかるし…表に出ないだけでとても優しい人だ。
さて、私も準備をしなくては。ふんわりと漂ういい香りとともに準備を進めることにした。