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やらなかった後悔

作者: 透水

こんなに長い短編小説は初めてで、日をまたいで書く大変さを知りました。

退屈せず読んでくだされば幸いです。

木に咲いていた桜が散る。

花粉でホームレスがくしゃみをする。

道端にミミズの死骸を見つける。

そんな風景を見て僕は涙が出てくる。

彼女は"死んだ"。

彼女のことを想うと涙腺が勝手に緩みだす。

逢いたくて悲しくても何も出来ない僕。

彼女からのメールを見て今日も思う。

僕は何をしていたんだ、と。

4月20日、僕は自殺を決心した。


去年の冬のこと。

高校2年生として終わりが見えた3月であった。

僕は同じクラスの佐久間良子さんに告白した。

彼女は2年になってから知り合ったが、とても仲良くなった。

優しくて容姿も整っていて、何より僕のことを知ってくれた。それは、もしかすると誰に対しても同じなのかもしれない。

しかし、それでも僕はたまらなく嬉しかった。家族にも興味を持たれない僕を知ろうとした彼女は、僕にとって特別な存在になった。

夏にはもう好きになっていた。友達も口数も少ない僕だが、彼女に対しては雄弁になれた。

そして金曜日の放課後、僕は彼女に告白した。

「好きです。僕と付き合って下さい」

「えっと…」

「…」

「…じゃあ、お試し、みたいな感じで4月いっぱいまで付き合うっていうことでいい?」

「…お試し?」

「うん。友達としての勇紀君は知っているけれど、彼氏としての勇紀君をちゃんと知りたいから」

「分かった。その1ヶ月で良子さんを振り向かせればいいってことだね」

「…う、うん。そうだね。こんな私だけどよろしくお願いします」

「あ、いえ、こちらこそお願いします」

付き合うことになった。

僕は彼女に告白した後、彼女と一緒に帰った。といっても、帰り道はいつも通りで、話す内容もたわいのない会話だった。しかし、目が合うとすぐ視線をはずしてしまい付き合い始めであることを何回も確認してしまった。

電車は僕の方が最寄り駅が近いので僕だけが電車から降りた。僕は電車から降りてから、彼女の目を見てずっと考えてたことを言った。

「もし明日空いてるならデー」

プシュー。

電車のドアが閉まって彼女を乗せたハコは行ってしまった。彼女は僕の方をじっと見ていたが、聞こえただろうか。

『もし明日空いてるならデートに行かない?』

彼女と付き合った実感が欲しかった僕だったが、神様はまだ許してくれないらしい。メールで誘ってみようかと携帯を見ると、画面には彼女からメールが来ていた。

<ごめんなさい。折角誘ってもらったけれど、明日は用事があるから行けないの。日曜日なら何も無いけれど、どうかな?>

どうやら伝わっていたらしい。

結果的には明日は断られてしまったけれど、彼女の方から明後日の予約を取り付けてもらえた。よっしゃ。

<用事があるなら仕方ないよね。一緒に行けるなら僕は日曜日でも嬉しいよ。>

僕はメールを送信した後行ってしまった電車の先を見た。

今頃彼女は何を考えているのだろうか。


僕は日曜日だというのに、平日よりも早い、4時には目が覚めた。いてもたってもいられなくなり、僕は予定の2時間前には約束した場所に来ていた。しかし、そのことも考えてハードカバーの本を持ってきていたからそれを読み進める。

内容は悲しいラブストーリー。その本をチョイスした理由としては、今日観る予定の映画の、原作の作者が同じだからである。だからといって話が繋がっているということはなく、むしろ、映画化した原作とその本とでは毛色が違う。

しおりを挟んでおいたところから読み進め、終盤あたりになると主人公とヒロインの関係がだんだんと発展していき、一番の見せ所はヒロインが死んで終わった。

途中までニヤニヤさせておいて最後がバッドエンドで、いつの間にか涙が出ていた。

これからデートだというのにこんな泣き顔では印象が悪かろう、と思い僕は本をしまって涙を拭おうとした。すると、横からほっそりとした綺麗な指がポケットティッシュを差し出してきた。僕が驚いてそちらを見ると、その指は彼女の指だった。

彼女はふふふ、と笑いながら僕を見ていた。

「おはようー。待たせちゃってごめんね」

「お、おはよう。えっと、どれくらい前からいた?」

「1時間前くらいかなー。

彼女よりも読書を優先するなんていけないんだぞ」

「ほんっとにごめんなさい。」

「けれど、私の場合は許可しまーす」

「…?」

「読書しながらあんなに表情が変わる人見たことないよ。最後に泣いちゃったのを見た時はびっくりしちゃた。

そんな感情豊かな君を見てたから飽きなかったのです」

「そ、そうなんだ」

「うん、そうなんだ。

さあ、行こうか」

そして最後にまたふふふ、と笑ってから彼女は歩き出した。

まず最初に映画を観に行った。

映画の感想としては、期待はずれで面白くなかった。しかし、僕は彼女の寝顔を見れて千円を払う価値はあるなと思ったので口に出して批評するようなことはしなかった。

「んー、よく寝ちゃった。ごめんね」

「いいよ全然。それよりお腹空かない?」

「そうだね、じゃあ、お昼行こうー」

その後は簡単に昼食を済ませ、大きなショッピングモールをぶらついた。

主に彼女の行きたい場所に行ったため、お洒落な服や靴などの売り場に行った。

「どう、かな?」

「とても似合っているよ」

「ありがとう」

ふふふ、と笑いそれからは彼女のファッションショーが始まった。沢山の服をアクセサリーと一緒に試着してくれて、僕はとても眼福だった。中でも僕はスカートに、全体が白の清楚なファッションは髪の長い彼女にとても似合っていると思った。

時計の長針が反対側に進んだ頃には、彼女は季節的にまだ寒いというのに季節関係なく何でも着た。

「ど、どうかな?」

「寒くないの?」

「すす、少し寒いかも」

照れているのではなく、寒くて口がガタガタ言うのだ。

ちなみに、彼女は3着目あたりから羞恥心が無くなってきた。

「さ、寒いけれど、今日くらいだから。あと1着だけ付き合って」

そう言って彼女は試着室のカーテンを閉めたので、また僕はそこから少し離れた所に立った。

周りの店員さん達からは、僕が1日に何度も試着室に近づく変態男に見えるのだろうか。

「さあ!」

彼女はどこにあったのか、比較的露出のある水着を着ていた。

…どこにあったんだろうか。

僕はまさか水着姿を見れるとは思わなかったので、口が半開きになるほど驚いた。

とても似合っていた。

いつもの流れるような綺麗な長い髪をシュシュで結わえていて、彼女の首筋を見るのが躊躇われるようだった。

デザインの善し悪しを差し引いて、明るい色の水着はとても活発な彼女の性格に似合っていた。

「…」

「勇紀君?そんなに私変だったかな?」

「い、いやいや、そんなことない。とても似合っていて絶句だったんだよ。そう、無言絶句だったんだよ。」

「…ふふふ、ありがとう」

緊張して変なことを言ってしまったが、彼女はそんなことは気にせず無邪気に喜んでいた。

「ふぅー、寒いからもう着替えるね」

そう言うが早いか、彼女は僕に背を向けてまた試着室に戻った。よほど寒かったらしく、鼻水をすする音が聞こえたがそこは紳士として静かに離れた。

僕がサングラスを掛けたりしてふざけていると後ろから彼女が来た。

「お待たせー」

「それは?」

「うん、買っちゃった」

「何買ったの?」

「秘密でーす」

彼女はファッションショーをした内のどれかを買ったらしい。

何を買ったのか気になるが、秘密にするほどとはいえ、まさか水着ではないだろう。

「よーし、次はゲームセンター行こう」

「ゲームセンター行きたいの?」

「うん。1度は行ってみたいの」

僕達は彼女の意思により同じショッピングモール内にあるゲームセンターへ向かった。

日曜日だということもあり、ゲームセンターには学生らしき歳のプレイヤーがちらほら見える。限界まで上がっているのではないかという程の音楽と、メダルの落ちる音で満たされたスペースはいるだけで疲れてしまいそうだった。しかし、隣の彼女は目を輝かせながら財布を握りしめていた。

まずは入ってすぐに目についた、マグカップの取れるクレーンゲームを選んだ。

「取るまで帰らないぞー」

それはつまり、取れるまで金を使い続けるという意味だろう。そのことを察した僕は彼女にちょっとした提案をした。

「2人でやらない?」

「2人で?」

「そう。でも、取った物は良子さんが貰っていいよ」

「分かった。じゃあ、どう2人でやる?命令と操作で分ける?」

「僕が最初のボタンで、良子さんがトドメのボタンを押そう」

「えー、勇紀君が最初かー。まあ、いいや」

僕は最初のボタンを押すという任を自ら名乗ることで、自然な流れで彼女のお財布を守った。

ただでさえ難しいクレーンゲームを素人が簡単に取れるはずがない。経験者である僕でさえ取るのに苦労する。

とりあえず、4回失敗したらやめよう。

お金を挿入。

「いくよ」

「うん」

既に真剣モードに入っている彼女は、クレーンを睨むように見ながら返事した。

まずは初めの一手を慎重に見極めながら動かす。

「あー、動かしすぎだよ」

「え、そうだったかな?」

「そうだよー。これは難しいね…」

僕としては比較的良いところに止まったと思ったのだが、彼女には不満があるらしい。

僕の中学の頃の『クレーンゲームの作業員』という渾名を知らない彼女には僕の腕の良さが分かっていないな。

そんなことを思っていると彼女の番。

彼女は慣れた手つきでボタンを操作してマグカップの箱に触れた。

ん?慣れた手つき?

「やっぱ駄目だったねー」

「えっと…。良子さんって本当にこれやるの初めて?」

「そうだよ」

「凄いね。才能あるよ」

「本当にー?照れちゃうよ」

彼女のボタン捌きは素人のそれとは違っていたから僕は聞かずにはいられなかった。僕が唯一、彼女に自慢できそうな分野が脅かされている。ここでいいところを見せなければ。

2回目のゲームスタート。次はさっきよりも少し奥で止めた。

「あー、これはまた行き過ぎちゃったね」

「え、また?」

「うん。まあでも、これくらいなら大丈夫かな」

彼女は余裕あるセリフを言ってからボタン前へ。

見事、取り出し口まで持ってきてゲット。

彼女のセンスもあるが、やはりここは僕の技術が光った賜物だろう。そう思っていることに気が付いたのか、彼女は僕の方をじっと見ていた。

「どうしたの良子さん?」

「んんー。…よし、もう1回やろう」

「え、もう1回?」

「そうだよ。しかも次は私が1人でやってみるから手出しは無用だよ」

「もういいんじゃないかな?」

彼女は僕の言葉を聞かずに僕をどかし、お金を入れて準備万端。

止めることはできなかったが、せめて応援はしてあげよう。

「頑張って、良子さん」

「集中するから、静かに」

怒られてしまった。怒られたというより、叱られた。

彼女は正面からだけではなく、左右の側面からもよく観察してボタンを押した。

アームが止まった位置を見て駄目だと思ったが、なんと取れてしまった。

「やったー。取れたよ」

「やったね。じゃあそれは、良子さんにあげるよ」

「ありがとう」

彼女は嬉しそうに感謝を述べながら財布からお金を出した。

財布からお金を出した?

「えっと、何をするの?」

「うん?次は私1人でやってみたいの」

結局、彼女にお金を使わせてしまった。

僕はただ見守ることしか出来なかった。

「いくよー」

彼女は誰に向かってか分からないが声をかけてボタンを操作した。1回目を押してから間を空けずに2回目のボタンを押す。

クレーンゲームをただの作業にも見える動きで、なんとマグカップをもう1つ手に入れてしまった。

近くで見ていた店員さんも、おぉ、と呟きながら拍手していた。

そして、当の彼女は2つの戦利品の内の1つを僕に渡した。

「これ、あげる」

「え、どうして?2つとも良子さんが取ったんだから僕はいいよ」

「今日の感謝の気持ちだから、ね?」

「…そう言うならありがたく貰うよ。ありがとう良子さん」

「ううん。こちらこそありがとう」

彼女はそう言うとクレーンゲームから離れて次のゲームの所まで行った。

「次はこれ」

その後は僕達はずっとゲームセンターで時間を過ごし、夕方のうちに僕達は帰路についた。

次の日の月曜日。

僕は昨日良子さんから貰ったマグカップで紅茶を飲んで朝ご飯を済まして学校に行った。

週の初めということがあり、どの顔も眠い感じだった。しかし、どんなに怠かったり遅れたりしても来るのが学生の本能らしく、チャイムが鳴る頃には1人を除いて全員が席に着いていた。

彼女は学校に来なかった。

朝のホームルームでの担任の話によると、彼女はウイルス性の病気にかかってしまったからしばらく来れないらしい。

昨日、元気な彼女と遊んだ僕としては不思議に思ったが、特別に驚くことはなかった。ただ、病気って恐ろしいな、などと的はずれなことを考えていた。

僕は学校が終わってすぐに彼女にメールをして安否の確認をした。すると彼女は数分で返事を送ってきた。

<心配してくれてありがとう。私は今のところ大丈夫だよ。

もしかすると、昨日寒い格好したのが駄目だったのかもね。

学校戻る時になったら連絡するからそれまで待っててね。>

僕はそのメールに了解という意味のメールで返事をしたが、少し引っかかりを覚えた。

僕には最後の文がおかしく感じた。

どうして彼女は<学校戻る時になったら連絡するね>で終わらさず、<それまで待っててね>なんていう言葉で文を締めたのだろうか。

これは、<こっちから連絡するからしばらくはメールを寄越さないでね>という意味を含んでいるようにも、取れなくもない。

昨日実は楽しくなくて僕からのメールがうざったいのではないかと思って暗くなった。

金曜日まで学校に来ず、また次の月曜日になっても学校に来なかった。しかし

、終業式を迎える前日の夜に彼女からのメールが届いた。

<メール出来なくてごめんね。寝ててメール出来なかったの。もし明日時間があったらこの場所まで来てくれる?>

彼女からのいきなりのメールに驚きはしたが、それよりもこの文の奇妙さに首を傾げた。寝てて1日遅れるなら理解出来るが、1週間も音信不通だったなんて有り得るだろうか。

そしてメールに添付された写真。

写真は地図のようで、真ん中の建物に丸印が付いていた。

僕はとても嫌な予感がしたが、とりあえず、明日必ず行くことを約束した。


彼女はやはり学校には来なかった。

僕は1日の授業を全部ぼんやりと過ごし、放課後を迎えた。

ホームルームが終わってすぐに約束の場所に行こうとしたが、その前に彼女の机に用があった。

お節介だとは思ったが、元気になった時に授業についていけなくなっては大変だと思い、溜まっていたプリント類を持っていくことにした。整理された大量のプリントから、彼女が仲のいい友達を持っていることを感じ取れる。

プリントをバッグに入れてからすぐに教室を出た。これから行くことを彼女にメールで教えてから小走りで向かった。


着いた建物は全てが白で、薬品の臭いがする。

僕は受付に案内してもらい、彼女のいる部屋に着いた。

彼女の部屋は1人で使うには広すぎるように感じた。

窓から、ちらほらと咲いている桜の木を彼女は優しい目で見ていて、心なしか彼女が光って見えた。

僕は一瞬、そんな彼女と風景に見とれて固まってしまった。

「おはよう勇紀君。本当に来てくれるとは思わなかったよ」

「もちろん来るよ。一応彼氏だからね」

「…うん。そうだね。

勇紀君、そのことなんだけどね」

「…?」

「別れよう」

「え…」

「勇紀君のことは嫌いじゃないけど、好きじゃないみたい。ごめんなさい」

僕はショックのあまり頭が真っ白になった。何を言われたのだろうか。

今日はちょうど、4月の初めの日になったばかりだからまだお試しの時間はあったはずだ。やはり前のデートが駄目だったのだろうか。

「そう、なんだ…。わかったよ」

「え?えっと…勇紀君も同じこと思ってた?」

「いや、僕は全然思ってないよ。むしろ、もっと好きになった。けれど元々釣り合わないと思ってたからいい夢を見れたと思ってるよ。ありがとう、良子さん」

「そっか…」

「これ、今までのプリント類持ってきたから渡しておくね」

「あ、ありがとう。

…あの、私実は」

「ごめんね、良子さん。僕のことは気にしないで、早く元気になって学校に戻って来てね。それじゃあ」

「勇紀君…」

僕は逃げるようにして部屋から出た。

彼女の前でまた涙を見せるなんてことはしたくなかったから、僕は彼女から逃げた。

今日考えてた話したかったことやこれからの話が頭の中で響いて虚しくなる。

僕はその日、彼女にフラれる為に呼ばれたらしい。

何か言おうとしていたが、場をつなぐだけの言葉を彼女から聞きたくなかった。

それから僕は引きこもった。


僕が学校と関わりを持ったのはそれから3日後の4月4日。朝早くに回ってきた連絡網だった。

「佐久間が死んだらしい。それで今日は休校だから次の人に伝えて」

…佐久間が、死んだ?

理解が出来なかった。頭がまだ眠っているのだろう。ゆっくりと考えよう。

まず、佐久間というのはこの学校で知ってる限りだと良子さんと、別クラスにもう1人いた。しかし連絡網ではどっちの佐久間とは言わなかった。つまりこれはクラスメイトが全員が知っている佐久間良子であって、それは彼女ということであって…。

頭が混乱しているようで、答えは出されていた。

僕は次の出席番号の家に電話をかけた。しかし、連絡網を回すためではない。

「もしもし。良子さんのクラスメイトの齋藤です。良子さんが死んだというのは本当のことなんですか?」

「…本当よ。末期ガンで余命3ヶ月だったんだけど、突然昨日の夜に悪化して死んじゃったわ。

良子の友達?」

鼻声で聞き取りづらかったが、彼女の母親だと、彼女と似ている声でわかった。

「…良子さんとは短い期間でしたが、恋人関係でした。」

「…。あなた、勇紀君ね」

「はい」

「勇紀君のことは2年生になってからよく聞いたわ。あの子いつも楽しそうに話してたから名前覚えてたの。

付き合ったのって金曜日よね?」

「…はい。そうです」

「別にあの子が自慢してきたわけじゃないのよ。逆に何も言わなかったわ」

「…」

「とても嬉しそうだったけど、次の日の検査の時ずっと泣いてたわ」

「…」

「あの子、本当に勇紀君が好きだったみたいよ。勇紀君と別れたエイプリルフールの日からずっと目を赤くしてたわ」

「そう、だったんですか…」

「そうよ。だからあの子は、幸せ、だったみたいよ。ありがとう」

僕は受話器を戻した。

彼女の死と同じくらいの衝撃が僕を襲っていた。

彼女も、僕のことを。

ふと、引きこもってから自分の携帯電話を使っていないことに気付いた。携帯電話は、最後に彼女にあった時に着ていた制服のポケットの中に入っていた。

着信が15件とメールが3件着ていた。

どれも彼女からだった。

4月1日。

<実は私、ガンなの。

勇紀君と付き合ったのは遊びなんかじゃないよ。けれど、余命があと3ヶ月しかないって言われてるのに最後まで付き合わせるのは勇紀君にとって辛いと思ったの。

今日がエイプリルフールって知ってた?本当は午前中だけらしいけれど、少し嘘ついちゃった。ごめんね。>

4月2日。

<勇紀君、昨日は本当にごめんなさい。もしよかったら今日来てもらえる?>

4月3日。

<怒ってるかもしれないけれど、最後になるかもしれないから。(昨日話したかったことなんだけど、私体調が急変しちゃったみたいなの)

初めて会った時から私に優しくしてくれて嬉しかった。その時、私はガンだって知った時でとても落ち込んでたの。だから勇紀君といる時は病気のことを忘れて普通の高校生活を送れてお礼が言いたかった。

1学期の遠足で予定とは違う所に行って迷子になったね。私と勇紀君が仲良くなったのってそこからだよね。

体育祭で私が熱中症の時に競技に参加しないでずっと付き添ってくれてたことは嬉しかったな。本当はすぐ治ってたけど一緒にいたくて甘えちゃった。

文化祭の後夜祭で一緒に踊って打ち上げもやったね。勇紀君の普段見ない活発な面が見れて男の子なんだなって思ったよ。

長距離大会で私に合わせて走ってくれて一緒にゴールして怒られたね。あの時勇紀君が私を庇ってくれた時はかっこ良かったよ。

私に告白してくれたね。夢のようだと思ったし、私なんかでいいのかとも思ったよ。病気じゃなかったらちゃんとお付き合いしたかった。

勇紀君と一緒にいていつも楽しかったよ。本当にありがとう。

長文になってごめんね。生きてたら学校で会おうね。

私は勇紀君が大好きです。>

僕は最後の一文を読み終えた後、自分の愚かさに気付いた。

彼女が別れ際に、頑張って言おうとしたことを僕は聞かずに決めつけていた。

反省しても悔いしか残らない。何も出来ない。知ってても何かできたわけでは無いが、それでも一緒にいることはできたはずだ。

彼女の言葉が遺された携帯電話と財布を掴んで外に出た。僕は無性に走りたくなって叫びながら駆け出した。

「うおおおおおおおおおあああああああ」

僕は走った。走って叫んだ。

しかし、いつまでやっても彼女は気付いてくれない。

僕はコンビニ弁当と水だけで生き、富士の樹海まで来た。距離はそれほど遠くなかった気がする。いや、遠かったかな。

分からない。気付いたら来ていた。今や僕の正気は彼女の遺した言葉だけだった。

最期にもう1度メールを見たところで、今まで気にしなかった電話履歴に留守番電話があった。

4月3日の20時25分。

僕は飛びつくようにしてその留守番電話を聞いた。

『えーと、勇紀君?昨日は本当にごめんね。今日来てくれなかったことは少し残念だったけれど自業自得だと思ってるよ。

さっきから胸が痛くて勇紀君の声が聞きたかったんだ。今何してるのかな?課題かな?死にそうな量でもちゃんと課題はやるんだよ。死んで課題から逃げるなんて許さないからね。ふふふ。

あ、そろそろ切れるだろうから最後に質問させて。私の幸せは勇紀君の幸せだけど、君の幸せって何?』

この留守番電話の数時間後に彼女は死んだのだろう。

僕にとっての幸せは彼女の幸せだった。

彼女にとっての幸せは僕の幸せらしい。

では僕はどうしたらいいのか。

なぜこんな質問を彼女が最期に、僕にしたのが分からないが、とりあえず僕は幸せを探すために家に帰ることにした。

彼女から貰った課題は終わらないかもしれないが、どうやら死んで逃げることは許されないようだからやるしかない。

そして答えを見つけてから彼女に逢いに行こう。

僕はどこかでふふふ、と笑う声が聞こえた気がした。

「君の膵臓を食べたい」を読んで感動し、似た終わり方の物語を目指しました。目指した割には駆け引きや感動が少なかったと思っています。

もっと内容を濃いものにしたかったのですが、受験勉強の片手間だったこともあり最後は急ぐ感じで終わってしまいました。

もし好評だったら肉付け修正をして終わり方を変えたもので書こうと思っています。

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