演習場にて。
この国、センティリア王国はかなーり広い大陸の西、そこにこれまた広い国土を持つ大国だ。魔術が得意な国で、大陸で一番魔術が浸透してる、なんて話もよく聞く程度には使われてる。そんな国の王族だとか王太子妃は魔術もかなり使える訳で。
「エリューシャ様……速すぎます……。」
「遅いわよ、レーネ!」
風を纏い半分浮きながらかなりの速さで進むエリューシャ様。追う私は全速力で走ってます。
「……もう少し速度を落としてください、演習場は逃げませんから……。」
「善処するわ!」
と言いつつ変わらない速度。となるとしがない侍女である私のスタミナは切れる訳で。
「ぜー……はー……あー……いっちゃった……。」
すでに見失う事に。……いつもの事でもある。
「はー……ゆっくり追いかけるとするかぁ……。」
侍女が離れても危険ではない方でもあるが故にこれも許されるのである。主に戦闘力的な意味で。……強いんです。暗殺者なんて返り討ちにしてしまう程度に。
……それに、この先で待ち受ける絵面の為の覚悟をキメないといけないのである。
エリューシャ様より五分ほど遅れて着いた騎士団の演習場。騎士達の雄叫びが凄い。
「……只今追いつきました。」
「……お疲れ様です、レーネさん。」
「ありがとうございます、騎士団長殿。」
この人は騎士団長、アクロイ・ルド様。赤髪青目のキラキラしいイケメンでスマートな身体付き。でもよくみるとかなりの筋肉がある細マッチョ。……眼福である。
「エリューシャ様はどちらに?」
「……あちらに。」
なにやら疲れた目をしている。……またか。覚悟を決め振り向くとそこには暴力的なまでのキラキラ空間が広がっていた。
「エリー、あの騎士なかなかいい動きをしていると思わないかい?」
「あら、本当だわ。よく見つけたわね!……かなり強くなれるわねあの子。」
「他の騎士達もいい動きだ。これなら魔獣にも負けないだろうね。」
「ええ。さすがアウルね、よく見てるわ!」
「エリーには負けるよ。」
「そんなことないわ。」
…エリューシャ様と、アウル殿下である。話している内容はまともだが。
「毎度ながら、凄まじい絵面だ……。」
「ええ……。」
アウル殿下は金髪緑眼、スラリとした身体をしたとてつもない美男子である。……殿下がいると空間全てが美しく見える程度の。ちなみに腹筋はシックスパックらしい。侍女仲間談。
そんな美男子とこれまた今日も美しいエリューシャ様が並んでいる。
「世界が光って見えます……。」
「……お気を確かに。」
極悪人ですらこの空間に放り込めば聖人や賢者になって帰ってくるんではないか、とまで思えてしまうほどのキラキラ具合。……目に毒、というレベルではない。
「よく近くに居られますね……。」
「慣れです、慣れ。……それよりなぜ私の方すら向かないのです?」
「気のせいですよ。」
あなたもキラキラしいイケメンだからです、アクロイ団長。ダメージが増えます。
「まあ、気にしない事にしましょう。……とりあえずもうそろそろ殿下の次の予定時刻のはずです、……エリューシャ様をどうにか。」
「あの空間に突入しろと?」
「はい。」
鬼畜か。
「殿下お付きの侍女はあの状態ですし。」
よく見れば壁際で彫像のようになっている侍女を発見。……キラキラ空間に浄化されたか。
「……団長。」
「お仕事は取りたくありませんから。」
ニコニコと笑ってやがります。……鬼畜かこの野郎。
「はぁ……。」
「骨は拾いますからね。」
気合を入れて、いざ死地へと。
バカップルともいう。