最初。
「ねえレーネ、アウルはどこ?」
私はレーネ。レーネ・グノーメンという。この大陸でも有数の大国、センティリア王国の王城で王太子妃付きの侍女をしている女だ。侍女仲間からはクールだと言われている。
「そうですね……。」
「多分城にはいると思うんだけど。」
この方は私の仕えるエリューシャ様。今日も美しい。流れるような金の髪に宝石のような蒼い瞳、すらりとし、出る所は出るメリハリのある身体。今日も美しい。若く、文武両道、頭も切れ、行動力もある。天に二物も三物も与えられた様な方。今日も美しい。そして王太子妃にあらせられる次代の国母でもある。……美しすぎて私としては目に毒でもある。
「現在アウル殿下は騎士団の演習を視察されております。戻るのはまだ先かと。」
アウル殿下はエリューシャ様と契りを交わした方である。要は次代国王となる方。この方も美しい。夫婦関係はかなり良好。エリューシャ様と並ぶと絵面が凄まじい事になる。
「騎士団のところね、そう……。レーネ、この後の予定は?」
「……そうですね、ダンスのお稽古がございますが。」
「それよりも騎士団の演習に興味があるわ。」
「畏まりました、では予定の変更を。」
そう言い、先触れを出すため退出しようとする。
「ええ。……時間が勿体ないからさっさといきましょうか。」
そう言って彼女はおもむろに立ち上がるとニヤリと笑い――
「ちょっと」
「それじゃ先に行くわねー!」
――風を纏い窓から飛び降りた。
「バッ……待っ!これで何度目ですか!せめて扉から!」
ちなみにここ、地上五階。
「早くしないと置いてくわよレーネ!」
「ああもうほんと勘弁して……」
それとこの世界、魔術が便利。
「だってこっちのほうが楽だもの、だから早くー!」
そしてこのお嬢、自由人である。
「窓は出入口じゃないんだけど……はぁ。」
結局私も窓から行かなければならなく。城の壁に簡易的に作った足場を伝い降りる。ようやく着いた地上では……
「遅いわレーネ!アウルが待ってるのよ!」
すでに先に進むエリューシャ様。そして殿下は待ってません。お仕事中です。多分驚かれます。
「早くしないと逃げるじゃない!」
「演習は逃げません……。」
「時間は限りあるの!さっさといくわよ!」
この王太子妃、じゃじゃ馬です。