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アラサー変身ヒロイン物

全然アウトな騎士(ナイト)さま

作者: 芋羊羹

「なに・・・あれ。」




 今、私の目の前で繰り広げられているのは、最近やっと見慣れた、花園はなぞの 愛流奈めるな天宮あまみや 星光きらら七海ななみ かなでの赤、黄、青のロリータコスチュームに身を包んだ、中学生三人娘と、スライムのように盛り上がった元・砂場の体に目と口をくっつけた、これまた最近よく見かける 魔痕ヴォルグ一体との、戦闘シーン。


 隣には、公道で所持しているだけで職務質問されそうだけど、一応国宝らしい、何ちゃらワンドな棍棒を握らせようとしてくる、ウサギとハムスターを足して五倍くらい大きくしたような見た目の、自称★フェアリーデンの戦士・ミーム。



 しかし今回、慣れてしまったこの非日常の中で、初めてお会いする人物が一人。






黄色い月をバックに、赤いマントが翻り、耳に心地の良い甘いテノールが、夜の公園に響く。





「はっはっは。白百合の花言葉に従い、世界を清浄へと導き、フェアリーデンの穢れなき魂の為に戦い抜くことを誓う!!さぁ、悪しき命たちよ、この妖精騎士フェアリーナイトの剣の前に跪け!」





 この公園の名物でもある、20メートルの大型ジャングルジムの上で高笑いを上げる、白いシルクハット、銀のバタフライマスクをつけた、半ズボンタキシード姿。

 いわゆる、ヒロイン達を守る、ヒーローの立ち位置なのだろう。





 だが残念なのは、半ズボンから延びる、無駄毛処理を施されてはいるものの、がっちりとして筋張った、筋肉質な成人男性の足。


 そして空に向かって構えた、細見の剣の柄の先で月光を浴びて煌めく、悪趣味な黄金のライオンっぽい頭。


 さらに、どこから噴き出したのか、あたりを雪のようにひらひらと舞う、無数の花弁と、むせ返るような百合の甘い香り。




うん、変態だ。






そんな変態の登場に、冒頭での私の一言へと戻る。

頼むから、あの変態もフェアリーデンの関係者とか言わないでよね。

いつも通り、ツツジの陰に隠れながら、様子をうかがっていた私は、隣のミームへと視線を投げる。



普通の白タキシードとかなら、まだ許・・・したくはないけど、譲ろう。

しかし、何をトチ狂って半ズボン。

半ズボンが許されるのは、中学生までである。大人の男の半ズボンなんて、スマホ握って即110番だ。


 しかし、私の冷たい視線もなんのその、ミームは、腹だか胸だかわからない胴体を偉そうに反らせながら、変態男を褒め称える。



「みゅっふっふ。いつもクールなリムリンも驚いたミューか!?彼こそ、妖精乙女メイフェムを守る正義の騎士!!女王様自らが選び、その加護をうけた、妖精騎士フェアリーナイトだミュー!!リムリンが妖精乙女メイフェムとなるまで、20年もの長きにわたり、人間界を守ってくれていた、最強の騎士なんだミュー!」



 うん、素直に驚いた。多分アンタが自慢してる方向と逆方向だけどね。



 でも分かった。あの半ズボンは、男の趣味もあるけど、元はと言えば女王様の趣味ってわけね。どうしよう、私の中での女王様の評価が地を這うどころか、マイナスへと潜っている。

 まぁ、20年前ならいざ知らず、今でも半ズボンタキシードを、ノリノリで着続けている時点で、完全に変態の仲間なんだけどね。



 っていうか、ロリータ三人娘や、20年来の強い戦士が居る現状での戦闘能力に満足が行っているのなら、なんで私まで巻き込んだのか。

 私の事は一般人としてそっとしておいてほしかった。


 恨めしい目を向けた私に、何を勘違いしたのか、ミームは嬉しそうにピコピコと長い耳を揺らす。



「あ~、もしかしてリムリン。ミームが彼に一目置いてるからって、嫉妬しちゃったりしてるミューか~?ミュフフ・・心配無用だミューよ!リムリンは魔痕ヴォルグを祓ウ事ができる、ただ一人の伝説の妖精乙女メイフェムだミュー!リムリンの変わりはいないんだミューから、安心していいミューよ!!」



 マジで、イラッとするわコイツ。



 こっちの空気をちっとも読まない上に、自分の良いように解釈し続けるこいつに、殺意が湧く。

 終わったら絶対、その短い脚と耳をひっつかんで、雑巾絞りの刑にしてやるから覚えてろよ。





「キャー☆妖精騎士ナイトさま~!!」

「助けに来てくださったのね!!」

「すてき~!!」



 そんな、私のダダ下がりのテンションも知らず、ロリータ三人娘は、半ズボンタキシードの変態へと黄色い悲鳴を送っている。

 何故、半ズボン姿の成人男性相手に、キャーキャー言えるのか、今どきの若い子の思考回路は理解できない。



 考えても見てほしい。駅前の立体交差点で、同じ格好の男が高笑いを上げたら、黄色い悲鳴じゃなくて、普通に悲鳴を上げて警察に通報する思う。


 ああ、それともあれか。ゲレンデで見かける異性は3割増しに見えるのと同じ様な錯覚現象なのだろうか。



「もう安心だよ☆子猫ちゃんたちは下がっておいで!覚悟しろ魔痕ヴォルグ、この妖精騎士フェアリーナイトが来たからには、もうお前の好きにはさせない!とぉうっ!!」



 バチコン☆と、趣味の悪い派手なバタフライマスクの奥で、ゴスロリ三人に向かってウインクし、軽やかに20メートルのジャングルジムからジャンプすると、元砂場・魔痕ヴォルグとロリータ三人娘たちとの間に着地する。



「彼が着ているのは、リムリンの聖衣と同じ、女王様が紡いだ糸が使われているから、運動神経が飛躍的に上がってるんだミュー!!それに、彼には天武の才があるんだミュー!!」



 えー・・やだなぁ。私、あいつとおんなじ物を着させられてんの?

 聞いてもいないのに、またしてもミームが男を褒めちぎり、私のテンションはさらに下降の一途をたどる。



「あ~、うん・・・天武の才あっても、いまだに半ズボン履いて変なマスクつけてる時点で、全部台無しだから。あと、あんたももうちょっと声のトーン落そうか。」



 なぜか、変態男ふぇありーないとの勇姿にヒートアップするミームの口を押さえつけ、ツツジの陰から、あちらの様子を伺う。



 しかしミームが、「強い、強い」と繰り返すだけの事はあるのだろう。変態男ふぇありーないとの変な剣の一振りで、砂場魔痕ヴォルグの姿が崩れ落ちる。

 残った砂場の周りには、明らかに人体に害がありそうな、黒い霧が立ち込めており、赤ロリータがこちらに向かって、懸命にペンライトを振っている。



 だから何故、いつもピンポイントに私のいるほうへ向かってペンライトを振ってこれるのか。

 本当はこちらの姿が見えているんじゃないかと、不安になってくる。



「急がないと、魔痕ヴォルグが復活するミューよ!早く妖精乙女メイフェムに変身して封印するミュー!!」



「いやよ!!だから、あのへんな衣装を着ないで済むってんなら、直接その棍棒で、魔痕ヴォルグの頭にフルスイングしてやるって言ってるでしょ?魔痕ヴォルグ退ける前に、変な衣装押し付けてくるあんたの所の女王様を何とかしなさいよ。」



「変な衣装じゃないミュー!!選ばれたものだけが纏うことを許された、伝説の聖衣なんだミュー!!」



「だから、いつも言ってるけど、伝説の聖衣って名前がついてりゃ、何でも許されるってわけじゃないんだからね!!」



 と、ちらりとあちらへ視線を向けると、変態男フェアリーナイトと赤ロリータ達が、こちらを指さしながら何やら言葉を交わしているではないか!!



 しかも、変態男ふぇありーないととは違う声で「懐かしきフェアリーデンの匂いが」とか聞こえてくるし!いつの間にか犬キャラまで、ここから見えない所に登場してたの!?まだ変身とかしてないのに、臭うとか、やばくない!?

 変態を見るのも嫌だが、私までも変態の仲間とか思われるなんて、冗談じゃない!!


 ミームからひったくるように棍棒エレメンタルワンドをつかみ取り、例の呪文をワンブレスの早口にまくしたてる。




「トキメキツナガレニジノハシセカイヲミタスメイフェムノキラメキヨケガレナイココロヲヨウセイタチニトリモドシテ」




 瞬間、ワンドの先から放たれた輝きが、黒い霧を包み、一瞬で四散させる。

 隣でミームが、心がこもって無いとか、いい加減な詠唱とかキーキー騒いでいるが、それどころじゃない!ゆっくりとだが、変態がこちらに近づいているのだ!一刻も早くここから立ち去らなければ!!


 なんか、「ふむ、これが妖精乙女メイフェムの気配なのか?」とか変態男フェアリーナイトの声が聞こえてきてるし!!


 気配ってなに!?あんたの職業、格闘家か暗殺者なの!?



 ここにいちゃ、マジやばい!顔を覚えられたりしたら、今後の私の生活、確実に暗黒面に落ちる。

 隣にいた、ミームの耳で、なんちゃらワンドを縛り付りつけ、力いっぱいオーバースローで、向こうの茂みに放り投げる。




 ミビユュゥゥゥ―――――――――――――――――――――――――――――




 という、きたない悲鳴を上げながら、逆方向の茂みに沈んだミームへ変態男フェアリーナイトの気それた隙に、私はその場を全力で遁走したのであった。








「ああ、やっと終わった・・・。今日こそは家でゆっくりしたいわ。」

今日は、珍しく定時に仕事が終わった。

 今日こそ早く帰って、ミームやら魔痕(ヴォルグ)やらのせいで、溜りに溜まった部屋の掃除と睡眠不足をさっさと解消してしまおう!

 何より万が一、変態男フェアリーナイトと出くわそうものなら、待っているのは破滅しかない。さっさと帰ってしまうにこしたことはない。


 私がいそいそと帰る準備をしてドアに近づくと、入れ違いに学生課・総務課・入試課の三人娘(20代)がキャッキャとほほを染めながらロッカールームに入ってきた。


「きゃっ! さっき騎星理事に、『おつかれさま』って声かけられちゃったぁ。」

「この間なんか、バスの中で、女生徒のお尻を触った痴漢男を撃退したんですって!」

「やさしくて男前で男らしいなんて、おとぎ話の騎士みたい。きゃぁっ!マジあこがれちゃう。」



 すれ違い際に「おつかれさま」などと声を掛け合い、ドアを閉める前に聞こえた噂話に、リアル騎士ナイトがいるんなら、こないだのヘンタイ騎士ナイトもやっつけてくれないものかしら。と内心ため息をつきながら、ロッカールームを後にしたのだった。





 しかし、私は知らない。

 ロッカールームに続く廊下に現れた、高級そうなスーツに身を包んだ男が、私が消えた校門への道に向かって、意味深に目を細めていたことを。 

読んでいただいてありがとうございます。

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