前略、王都の宿より
あれから三年、舞台は変わって・・・
こんにちは、元守護霊ことアウル・ロックマンです
現在王都に来ております
3年ほど前にあれ程強く「村を出る気は無い」と言っておきながら何故こんな所にいるかと言いますと・・・
生家に帰れなくなりました(汗)
あの後、火神教の神官を見送り、やれやれと思ったのもつかの間・・・その年の秋ごろ、父さんの仕事場である採石場に岩喰い竜と言うドラゴンの一種が巣食うようになり、まず父さんの仕事ができなくなりました
その後、村に「岩喰い竜対策本部」が建てられる事になり、危ないからと言う理由で農家もろとも村民全員を別の土地へ移住させられてしまったのです
新しい村に移住してから2年近く経ちますが、一向に岩喰い竜が倒されたとも追い出されたとも聞きません
一説によると、東の大国が軍備を強化していると言う事で、うちの生家の辺りに砦を作る為、わざと岩喰い竜を放したなんて話もありました・・・どうやら国境の近くだったそうです
十分な保証金さえ出せばうちの村の連中は普通に村出てったと思うんだけど、どうするんだろう?岩喰い竜
仕方が無いのでうちも川沿いの新しい村に移ったのですが、なにぶん父さんは石工かモンスター退治位しか能が無いので石工の需要のある場所を・・・と渡り歩いた結果王都に来てしまったわけです
まあ、私もちょうど就学年齢になった事でもあるので、王都の学院に通う事になりました・・・まさかコレ管理者の細工じゃないよね?
王都で生活する上でどうしても必要なものがある
それは奴隷だ
いや、性奴隷とかそういう事じゃないんだけどね
王都では、下働きをする者=奴隷となっている
例えば掃除、例えば買い物、例えば炊事だ
これを奴隷以外の者が行えばどうなるか?
周りの人から奴隷同然に見られてしまうのだ
単純に生活するだけなら問題ない
問題は学校等に通う場合だ
学校では、いかに自分の立場を守るかに腐心する輩がいるのだ
そういった輩に奴隷を持たずに様々な雑用をする所でも見られた日には、差別対象として認識されてしまうのだ
その為、俺は今なけなしの貯金をはたいて安くても不快でない範囲で奴隷を買おうと物色しに、奴隷市場に来ている
宿に泊まっている間の下働きは宿の奴隷がやってくれるので問題なかったのだが
しかし、長期滞在するとなれば集合住宅に住まなくてはならない・・・何しろかかる金額が段違いだからだ
この国の通貨は鉄貨・銅貨・大銅貨・銅板貨・小銀貨・銀貨・大銀貨・銀板貨・小金貨・金貨・金板貨となっている
この他に国家間取引に使われる特殊通貨もあるそうだが、俺たちはまずお目にかかれないので知らなくて良い
価値で言うと、鉄貨でお菓子一口・・・2・30円くらいかな?
鉄貨10枚で銅貨、銅貨10枚で大銅貨、大銅貨五枚で銅板貨、銅板貨20枚で小銀貨、小銀貨10枚で銀貨と言った具合で順繰りに価値が増す
銅貨1000枚で小銀貨、銀貨1000枚で小金貨といった具合だ
通貨には偽造防止の為に簡単な魔法がかけられている、流石に鉄貨や銅貨のように価値の低い物は偽造の手間をかける方が馬鹿らしく、むしろ贋金が出てくれた方が国はありがたいくらいなので放置されている
そりゃあ、高くても一枚300円で同じ重さの同じ金属より価値が上とは言っても微々たる物なら規制する方がバカらしい
偽造する方もよほど大規模で無いと作るだけバカらしいので、仮に鉱山を見つけたら素材のまま売った方が効率が良い
しかし一枚3000円の大銅貨になると話は別だ・・・大銅貨の大きさは銅貨の倍程度でしかない、偽造すれば素材の約5倍の価値だ
銅板貨も大銅貨の倍程度の大きさしかない、しかし金は信用だ、簡単に偽造されては困る
その為、国は秘匿技術に因って魔法をかけるのだ
日本なんかだと、落ちてても拾われる事の少ない一円玉も、実際に採掘して生成して成型するまでにかかるコストを考えると割に合わない通貨なのでシンプルだが、それでも存在する
逆に500円玉なんかはコストを考えても全然安いので偽造防止技術が駆使されているのだ
100円玉は製造コストどうなんだろう?今更考えてみると夜も眠れなくなりそうだ
脱線した
宿を取るとどんな安宿でも一晩大銅貨一枚、風呂付だと銅貨15枚・・・この世界の1ヶ月は5週×6日の30日なので風呂無しでも1ヶ月で大銅貨30枚・・・日本だと9万円だ
そんな大金何ヶ月も払っていられない
アパートメントだと風呂なしトイレ共同ワンルームで1ヶ月銅板貨二枚、1Kトイレ付で1ヶ月銅板貨三枚、1k風呂トイレ付で銅板貨五枚となっている
銅板貨五枚でも大銅貨に換算すればたったの25枚、風呂を我慢すれば1ヶ月大銅貨15枚で暮らせるとなれば、安い奴隷を買ってでもアパートメントを選ぶという物だろう
・・・でも1ヶ月辺り大銅貨15枚分以上になるような奴隷を買ったのでは本末転倒、俺は最低ランク・・雑用出来る程度の奴隷を一括大銅貨20枚の範囲で探す事にしている
奴隷市場に着くと、そこはある意味異様な雰囲気が醸し出されていた
まず事前に思っていた印象と違って明るかった・・・奴隷商人はともかく、店頭に居る売り物の奴隷まで明るく愛想を振りまいていた
それはさながら大型ペットショップのようだった
それと言うのも、この世界において奴隷は生活圏こそ分けられている物の、決して不遇な存在ではないという事なのだろう
・・・そうだな、やっぱり前世におけるペットに近い扱いなんだろう
前世においてペットが一匹で人間の生活圏に踏み込んで、同じ様に食事をしたり勉強をしていたら戸惑うもんな
雑用してるの見たからってそう言う扱いをしたがるいじめっ子の思想は理解できないが
雇い主に因って小奇麗にしていたり汚いままなのもそう考えると納得だ
市場を歩いていると、様々な奴隷が居るのだがどんなに安くても銅板貨10枚を中々下回らない・・・
銅板貨換算で四枚の予算では手を出すどころか値切る気にもなれないよ
そろそろ市場を外れるかという所で、気になる店を見つけた
獣人?・・・いや、モンスターか
その店は成人の腰ほどの大きさの人型モンスターを扱っていたのだ
ゴブリンやコボルトが並ぶ中、俺のモンスター知識に無い物がそこに居た
猫・・・なのかなぁ?
耳は猫っぽい・・・尻尾は見えない・・・ちっ!肉球は無いか
姿かたちは人間の子供と言っても違和感は無いが、耳だけが人と違う、そんな子が居た
「おや坊ちゃん、奴隷を買いに来たんですかい?」
奴隷商が俺に気付いた様で声をかけてきた
さてどうしたもんか
「いつまでも宿暮らしをするわけにいかなくてさ。かと言って学校に行きたいから下働きが居ないと差別されるし・・困ったもんだよ」
「そりゃ大変ですなぁ・・・お役に立ちたいところですが、うちは見ての通りモンスター専門でして」
ん?
「こいつら奴隷として売りに来たんじゃないんですか?」
「ああ、こいつらは・・・なんというか所謂虐待用の奴隷みたいなものでねぇ」
虐待用?
「人間の奴隷は人権があるんであんまり無茶は出来ないんですよ。だから人権の無いモンスターを買うんです」
なんとまぁ・・・人間は業が深い
「頭も良くないので下働きにも余り使えないんですよ、それでも良ければお売りしたいんですが・・・さっきも言ったように人間に出来ない事をさせる為の奴隷なのでそれなりの金額なので他の奴隷を買った方が良いと思いますよ?」
確かに高い・・・どう見ても仕事が出来なさそうなのに銅板貨12枚なんて値がついてる
使い潰す目的なのでそんなに値が張る物ではないが、それでも安い人間奴隷より高い
所謂富裕層の嗜みと言う奴だ
「この子・・・値札ついてませんね」
俺はさっきから気になっている猫耳の事を聞いてみた
「あ~・・・こいつですか。いや、実はモンスターという事で買ったは良いんですがね?実は呪い獣人という奴でして・・・」
「呪い獣人?」
何かの書物で読んだ事がある
獣人族が何かしらの呪いを受けて、何かしらの条件で獣化してしまうとあった
所謂「ライカンスロープ」と言う奴だろうか?
「呪い獣人は人権があるので虐待奴隷としては使えない、そのくせ獣化すると下働きが出来ないので雑用奴隷としても売れない困り物で・・・」
奴隷商人がそう言うと何かに気づいたような顔をした
「坊ちゃんなら、この子を買値で譲って差し上げても良いですよ?」
「へ?」
・・・今なんと?
「いや、でもお金全然無いですよ?大銅貨で10枚しかもって来てないし」
大嘘を吐く
こう言う交渉は相手の足元を見るのが先決だ、ここで下手に「大銅貨15枚」とか半端に少なめに言うのもダメ
まず相手の売る気を挫いてから「もう少しなら親を説得して」と言った雰囲気を出すのだ
そうすると、どうしても手放したいなら自分の方のギリギリを提示する場合が多い
「それっぽっちで奴隷を見に来たんですか・・・そりゃ途方に暮れるのも解ります」
呆れられた・・・計画通り
「ならそれでお譲りしましょう・・・食費ばかりかかるのも面倒ですし」
な・・ん・・・だと?
「え?五分の一にも行ってませんけど良いんですか?」
「ええ、実は借金のかただったのでもっと安く手に入れたんですよ」
なんてこったい、俺の予想の斜め上の展開だった
「何か注意事項とかあるんですか?」
「私も身請けして日が浅いのでまだ獣化した姿を見ていないんですよ、条件も知りません」
「なるほど・・・経費が殆どかかってなくて注意事項の申し送りも出来ない分安く売ると」
「そう言うことです・・・って随分お勉強なさっておられるようで。どこかのお店のご子息でもなさそうですが」
申し送りとか言っちゃったから警戒されたか
「つい2年前近くの村に移ってきたんですけどね、親の仕事を探してこの間こちらで勤める事になったんですよ。勉強できないと学校には入れても浮きそうなので割りと勉強しました」
「そうですか・・いやまいった」
「ん?」
奴隷商は得心が行ったという顔をすると
「先ほどの大銅貨10枚・・・足元を見ましたね?」
「あ・・ばれました?」
「ええ、いくらなんでも奴隷を買いに来たにしては少なすぎますよ。恐らく予算は20枚くらいじゃないですか?」
「!・・・そこまでですか」
意外と鋭いな、この奴隷商
「子供の小遣いとして大銅貨10枚は確かに大金です・・・が、奴隷を買いに来るには少なすぎる。無知な坊ちゃんならともかくある程度勉強をして居ればそんな無謀はしないがそれでも用意できる金額はたかが知れている・・・失礼ながら、親が流れ者であるなら良くて20枚では無いかと」
「なるほど・・・単に足元見ただけならもっと持ってるだろう所を身分を考えて少なく見積もるか。商人さんも若そうに見えて結構な経験を積まれてますね」
狸と狐の化かしあい・・・軍配は狐に上がりました
どちらが狐かは言わずもがな
「良いでしょう、先にそれでお受けしてしまいましたしね、こちらも勉強代と思っておきます」
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ不良債権になる所を原価より高めに売れたわけですし。上出来ですよ」
「掴まされた自分も悪いし」と付け加えながら書類を作る奴隷商
商人としてはまだまだ甘いのだろうが、そこは若さと謙虚さと言うことなのだろう
こう言う商人が大成する世の中であって欲しい
こうして俺は、無事奴隷を手に入れることが出来た
村に居たんじゃ相手が向こうからえっちらおっちら来ることになるので、主人公を移動させました
事件が起きないはずの田舎でまさか解決困難な事件が起こるだなんて