脱出
アウル君大暴れ
準備は整った
俺はまず一緒に囚われていた獣人に話を通し、彼らの拘束を解く
その後土魔法で簡単な棍棒を作り全員に渡すと、魔術による礫で壁全面に攻撃を仕掛ける
そちら側に戦力が無く、また大勢で展開できるほど開けているのは判っているので、壁をぶち抜いたらそのまま外に出る
獣人たちの話では、奴隷狩りがつれてきたのは同じ部屋に詰め込まれた成人男性ともう少しで成人する少年だけ
帝国では単純な労働奴隷として獣人を求める為、女子供は必要としないようだ
壁をぶち抜いた音に驚いて、何があったかと部屋を覗き込み、穴に驚いて扉を開けて入ってくる奴隷商人の使用人たち
そいつらに脳神経に作用する「昏倒」の魔術を仕掛けて無力化すると、まだ部屋に居た獣人に言って身包みを剥がさせる
廊下を見てもらい誰も居ないことを確認すると、自分達が着られる服を探す
獣人も長袖の服を着て帽子やフードで耳を隠してしまえばそうは目立たない
俺も自分の着られる服を見繕って着替えると、そのまま外に出た
外ではまだ着替えを済ませていない獣人たちと騒ぎを聞きつけた奴隷商人達が睨み合いをしていた・・・この世界に魔法戦などは無いし、いくら外郭とは言え帝都・・・弓を必要とする敵も無いということで遠距離からけん制等は出来ないようだ
俺はこの場にふさわしい魔術を練ると奴隷商人の前に姿を現した
「他国にまで奴隷を浚いに行く浅ましさ・・・貴様らの神が許そうと天が許さぬであろう!!」
芝居がかった大仰な台詞を嘲る様に笑う奴隷商人たちの遥か頭上から拳大の石が降ってくる
当然俺の魔術だが、俺を水神教の神官と思っている連中には全く関連性が導き出せない
「おとなしく我らを王国へ帰せばよし、そうでなければ更なる天罰が貴様らに降りかかる事になるはずだ!!」
「ば・・馬鹿な事を!!貴様らにいくら払ったと思っているんだ!?」
「ならば貴様らに我らを売りにきた者を恨むのだな、我は我が神ほど寛大ではない。天は我が知己なれば我の怒りを感じ、貴様らに必ずや罰を与えるぞ!」
暗にさっきの石は俺の意思を受けての物だと伝える
魔術は理解できずとも、神の存在を信じずとも
目の前で起きた事は理解できるはずだ
「ふ・・ふははははっ!」
「何がおかしい?」
「なるほど、先ほどの石は貴様の仕業だとしよう。だがあれほど大仰な仕掛け等すぐに再現できるはずも無い!!」
なるほどもっともだ
そう納得した所で俺は連中との間に水の壁を作り獣人たちを下げる
「ほれ見ろ!お前に出来るのはその程度の事に過ぎんのだ・・・・!?」
奴隷商人は一息に俺を嘲ると、次の瞬間自分を覆う影に気付き頭上を仰ぎ見る
そこには天を覆うばかりの石礫があった
先ほどの一撃のダメージを目的とした拳大の石とは異なり、連激の圧力のみを目的とした直径2cmほどの小石に押しつぶされるようにして地に伏せる奴隷商人たち
先ほど張った水の壁を境に、そこには地獄が広がっているようだった
「なんだ?」
帝都の王城を守る物見やぐらにその人物は居た
帝都防衛隊第一分隊指令官ビル・ランド
帝国において出世頭と思われながらも、しかし最も戦功を上げる事の出来ない位置でもある為閑職とも言われていた
しかし、そんな彼はといえば毎日当番の時間には物見やぐらに詰め、街の外に敵影が無いか、どこかから狼煙が上がっていないかを熱心に確認するまじめ人間だった
その彼が今見咎めたのは帝都の外郭
壁から少し離れた高台にある奴隷商人のアジトの方角に突然表れた黒い影だった
その影は突然現れたかと思うと、いきなり消え、その後突如土煙が上がったのだ
流石に距離がありすぎて地響きまでは届かなかったが、それが尋常で無いことはわかった
彼は急ぎ偵察隊の出動を命じると、自分は城の警護を固めるよう指示をして、自らも外郭へ向かった
土煙が晴れた後に残ったのは、既に息絶えた奴隷商人と辛うじて息はあるものの、恐怖で廃人と化した彼の護衛たちだった
奴隷商人の死体は綺麗な物で、特に目に見える出血も骨折も無い・・・恐らく全身打撲に因る内出血からのショック死だろう
俺はとりあえず服を調達するように獣人たちに指示をすると、残った既に着替えの終わっている獣人たちに奴隷商人一味を建物に詰め込むようにも言う
発覚は遅ければ遅いほど良い、逃げる時間を稼げる
俺は全員が指示通りに動いたのを確認して、奴隷商人から金目の物を奪う・・・町に出て足を得るためだ
建物の奥で小銀貨や銅板貨を見つけたと言うのでそれらも回収する
最悪馬車を買い取って分譲する事になるので、金はあるに越した事は無い
全員の身支度が住んだところで丘を降りると、遠くから馬がくるのが見えた
恐らくは騒ぎを見た誰かが衛兵に通報したのだろう
獣人たちに散会して様子を見るように言うと、俺は相手を待つ
「おいっ!そこの子供!!」
呼び止められるのを待っていると、声が届く距離にまで近づいた兵士が声をかけてきた
「なんでしょうか?とばっちり食う前に逃げたいんですけど」
「一体何があったと言うのだ?城からも見えるほどの土煙が上がっていたぞ」
どうやら城から来たらしい
けっこう大掛かりだったので見咎められたか
「どうもこうも、この丘の上の建物が何者かに襲われたんですよ」
「なんだと!?あそこは国の許可を取った正規の奴隷商だぞ!?」
なるほど、正規の奴隷商を襲えばそれは国を相手取った犯罪と言う事か
しかしそんな事知ったこっちゃ無いわけで
「とにかくわたしはとっとと逃げさせてもらいます、兵隊さんもさっさと報告に行くなり確認に行くなりしたらどうですか?」
「む・・そうだな、しかし貴様も不審人物には違いないし」
なんでそうなる
「不服そうだな・・・しかしこんな場所に貴様の様な小奇麗な人間なぞ、奴隷商人の仲間くらいしか居ないんだよ!!」
そう言うと、どこから出したのか投げ縄を俺に投げてきた
「くっ!」
まんまと首にかけられてしまった
無理に抵抗すれば窒息する・・とりあえず呼吸を確保する為に左腕を滑り込ませる
しかしそれを脱出しようとしていると見た兵士は、そうはさせじと縄を引き締めた為、一気に締め付けられた
勢い余って引き倒されてしまった俺を見て、獣人たちが思わず物陰から出てきてしまった
「なにっ!?まだこれほど近くに居ただとっ!」
俺を置いて行かれた一味だと思って油断していたのか、兵士は虚を突かれた格好になり思わず引いていた縄から力が抜けた
その瞬間を狙って、俺は術を発動する
ウォーターカッターを空中に発生させ縄を四散させ、突風を発生させて兵士を馬から落とす
何が起こったのかわかって居ない兵士を相手に俺は手を抜かない
自分の精神を平静に保った事を確認して兵士に「昏倒」の魔術をかける
馬には言語把握の術で意思を伝え、おとなしくしてもらった
とにかく今は早く帝都に逃げ込み、足を調達しないといけない・・・
騒ぎが大きくなる前に帝都を守る衛兵たちも昏倒させ、帝都の中に入り込んだ
今回出てきたビルさんは割りと重要人物です
次回から彼とアウル君で視点を交互に入れ替えて話が展開します




