外伝3.帝都の日常
大陸中央部を南北に貫く山脈を西に望む
そんなところに帝国の首都たる帝都は存在する
元々は山脈の麓に広がる小国の一国の首都に過ぎなかったこの街は、数百年前、大陸の覇権争いから逃れる為の互助会的な連合国の一都市になった
その後百数十年平和を享受し、連合各国が内部に対して全く警戒を無くした時事件はおきた
時の連合代表が独裁宣言をしたのだ
彼は自らの人脈で軍を纏め、一気に抵抗勢力を沈黙させ、独裁政権を樹立し、帝政を敷いた
それは正しく電光石火であり、連合各国の代表たちが反対勢力を蜂起する隙すらなかったという
彼が何故そうした奇行に出たのかを記した歴史書は無い
が、それを憶測する事実として、いくつかの事柄が歴史書に残っている
一つは、外部勢力からの働きかけによる内部崩壊の予兆
連合国外縁のいくつかの国が、隣接する国から自分たちに組するよう働きかけられていたらしいという事が、その後侵略戦争の際に発見された機密文書で明らかになっている
一つは、山脈側のいくつかの国家が独立を目論んでいたと言う事実
これに関しては、市民運動として歴史に残っている
更にもう一つ・・・王国の存在があったと言われている
帝国設立より遡る事500年前、山脈を挟んで西半分の大陸を支配する国家・・王国が誕生した
王国は生まれてから既に500年、その間に山脈の東西を繋ぐトンネルを作るほどの力を身につけていた
王国の側からすれば単に東西の交流を密にしたいというだけの理由だったのだが、未だ戦乱の中にあった大陸東部からすれば新たな戦乱の種にしか見えなかったという
結果として、影も形も無い虎の匂いに怯えて、その後300年トンネルに繋がる小国は侵略の魔手から逃れたといわれている
そんな帝国の首都は、何故かトンネルから僅か100kmしか離れて居ない場所にある
王国からの侵略を警戒していたわりには随分と近いところにあると思われるだろうが、これにも理由はある
まず事実はともかくとして帝国にとって本来の敵は自分たちより東部にある小国家群だった
それらから最も遠い位置に帝都があるのはある意味必然だったと言えるだろう
次に、この街こそ初代皇帝の生まれ故郷であったという事がある
初代皇帝は自らの故郷を帝都とするつもりはなかったようだが、もとより自然に出来ていた深い谷に因って東部各国から隔絶された地域であったこの街を利用する事を強くは拒めなかったという
さてそんな帝都には奴隷市というものが存在しない
表向き帝国は奴隷を正規の奴隷商のみに取引させる為、取引自体は街の外のアジトで行われることになっている
又、帝国における「奴隷」は「労働奴隷」が主であり、「愛玩奴隷」や「性奴隷」などは正規の奴隷商では取り扱われる事が無い
そう言った特殊な奴隷は隠れ里に居る非正規の奴隷商に因って賄われ、地方領主の屋敷に直接連れて行って、気に入ったものを領主が買うという形が取られている
これは帝国が表向きには美しい理性的な国であり、王国とは違うというポーズに過ぎず、聡い者であれば一市民であろうと知っているような公然の秘密である
そしてそんな見栄の文化があるため、帝都の中を労働奴隷が見えるように移動することはなく、労働奴隷の働き口も大店や宿、郊外の農場や鉱山などと言った所だ
帝都の壁の内側には富裕層だけが行き来し、壁の外には貧困層ではないものの、商家や支配階級で無いものの街が広がっている
奴隷商等は奴隷を街の郊外のアジトに囲っており、私兵を置いて管理している
この辺りは比較的治安が悪い為、身なりの良い壁の内側の市民はうろつく事が無いという
壁の内側の市民は危険に晒される事がなく、治安も良いため基本的に人を疑うことがなく
壁の外側とでは全く意識が異なる
これは帝都に於いてのみの事であり、帝国の他の街ではむしろ壁の外の常識で動いている
帝都の中は王城に詰める親衛隊、帝都の治安を守る守備隊、万が一の脅威から帝都を守る帝国軍駐屯部隊がそれぞれの役割を果たしている
帝都を守る役目は花形ではあるが、それ以上の武功を挙げる機会もまた失う為、帝都詰めを命じられたものは数年後必ずこう愚痴るという
「誰か攻め込んでこねぇかな~」
誰かが聞きとめたならむしろ出世街道から外れてしまいそうな一言ではあるが、むしろ共感してしまう為誰も咎めないのだと言う
帝都の中は、その平和とは裏腹に物騒な願いで溢れていた




