不思議な少年と魔法ラジオ
遺跡探索隊が出発し、薄羽たちがパーティーを組んだ頃
王都に新たな影が訪れていた
「ここがあの男の住処ですか・・・」
見た目は5・6歳の少年に見えるその影の口ぶりは、とても歳相応とは言えそうに無かった
影の視線の先にあるのは、5階建ての立派な「道場」
人の出入りの絶えないその建物に影は入って行った
「で・・・ターマはどこかと?」
目の前には見た目にそぐわない言葉遣いの子供が居る(自分の言えたことじゃないが)
この辺りでは珍しい黒髪黒目、背は1mくらいか?
年齢にすれば5・6歳・・・顔つきは西洋系だから見た目より上って事は余り無いだろう
「はい、ターマ様がお仕えになっている方がこちらにおられると聞きまして」
ここに住んでると思ったのか?
「ターマなら自宅の方だよ、別にここに住んでる訳じゃないんだから」
「え?こちらではないので?」
「どこをどう考えたらこの建物が住宅に見えるんだ?」
この道場に鍵付きの戸は一つも無い、それどころか扉も引き戸も殆ど無い、開放的なつくりになっている
これが住居だとすれば巨大な豪邸だ・・・王都のど真ん中にこれだけの敷地の豪邸作れるなんてどんな金持ちかっての
「いえ、ターマ様ほどの方をお迎えするのですしこのくらい普通かと」
あ~・・・ターマに「様」付けしてるからそうじゃないかとは思ったが・・・
「天上の方ですか・・・」
「え!?・・いや、なにをおっしゃってるので?」
しらばっくれるか
《まあ、続きは自宅でな》
「!!?」
これで大体察するだろう
自宅に戻るとテーブルで「ほっこり」しているターマと母さんが居た
まあ、お出迎えしろとは言わんがもうちょっとどうにかならんかな
「ただいまー、俺に用事があるって人が居たから家に来てもらったよ。部屋に居るから後でターマにお茶持ってこさせて」
「はーい」
自宅のリビングでは魔法ラジオが鳴っていた
この魔法ラジオはこの5年の間に開発された魔法通信機を簡略化させたもので、受信機のみを格安で量産し、高出力の送信設備を作ることで半径5kmくらいまでは放送が可能になっている
ちなみに魔法通信機自体の性能はまだそこまで高くは無く、携行用だと送信能力が半径500mと言った所だ
魔法ラジオは放送を中継する送信設備を設ける事で、放送元から遠くなるほど音質が悪くなる代わりに、王都全域に放送を流せるようになっている
これは俺が緊急アナウンス用として整備させた為だが、結果的に王都内の娯楽として市民権を得て、ある程度の規模の飲食店や宿などの共有スペースに普及した他に、富裕層のリビングに一台は有るような状態になっている
今やっているのは、どうやらお悩み相談のようだ・・・どこの世界でも嫁姑の確執は付き物のようで、聞く度に手を変え品を変え色んな相談がなされている
何故知ってるかと聞かれれば、道場にもご多分に漏れず魔法ラジオが常備されているからなのだが
用事がある人物とはさっき来た少年の事だ
《ターマ、お前の知り合いだ。茶を持ってきたら確認をしてくれ》
彼を自室に通すと、俺はターマに念話で用件を伝えた
「で・・だ。一体なんのようだ?」
少年を部屋の中に入れると、とりあえず用件を聞くことにした
ターマの上司であるパイフーを通さず来ていると言う事は、私用か急用かどちらかだと思うのだが・・・
「わたしの名前はマーと言います、ターマ様直属の部下として長年仕事をしていまして、物事の観測を生業としております」
「観測・・・と、言う事は、もしかして今起きてる状況を調べるのは・・・」
「はい、本来わたしの仕事だったのですが・・・私が他の仕事で居ない間にターマ様が下りてきてしまいまして」
「なるほどなぁ・・・」
仕事で部下に迷惑かける上司ほど厄介な物は無い
それも勝手にやった仕事で
俺も前世で働いてた時は、今じゃ絶対やるなと言われている手法を、仕事を手伝いだした常務がやりだした時には冷や汗物だった・・・
仕事は俺の名前で出すわけだから、結果的にそれをやったのは俺と言う事になってしまうわけで・・・
かと言ってその場で文句を言うか相談すると今度は直接の上司や先輩から黙ってろと言われるし
「ターマにも困ったもんだ」
コンコン・・・ 「失礼します」
言った側から本人が来た・・・とは言え、流石にまだ本体は起きてるだろう
「ありがとう、そこに茶を並べてくれ」
「かしこまりました」
ターマは茶をテーブルの上に置くと、礼をして部屋を出て行った
ちなみに、ノックは部屋の壁を叩いている
住居内の部屋に扉を作らないこの国にはノックの習慣も無く、俺が今広めている最中だ
《もしかしてマーですか?》
《ターマ様!!お久しぶりです、マーです!!》
《あなたまで一体どうしたのですか?連絡ならばパイフー様が使者を下さるはずです、あなたが来る様な事は無いと思いますが》
《あ、はい。それはそうなんですが・・・》
さりげなく念話を盗聴する
これは別に俺の能力ではなく遺跡から発掘された魔道具の力だ
能力は半径10m程度に居る何者かに来た念話を傍受し、会話自体を聞くことが可能になる
恐らくは念話が発達した世界で内緒話を嫌がった何者かが開発した道具なんだろうが・・・
自分が使われる立場だとしたら、こんないやな道具は無いな、会話に後ろめたい事が無くてもなんか気分が悪い
《実はですね、南の魔族が復活したようなんです》
《魔族・・ですか?確か南の魔族は後500年は封印されているはずでは・・・》
《ええ、どうも異世界から来た魔族が封印を解いてしまったようです》
《いや、それでもあなたが来ることでは無いのでは?》
《そうでもないのです》
この世界、実は今の人類の歴史は浅い
歴史が浅いと言うのは違うか、今の人類がこの世界を支配してからの歴史が浅い
王国や帝国があるこの世界だが、実を言うと最も歴史の古い王国ですらその建国から800年とたっていない
王国で幅を利かせている三大宗教もまた1000年の歴史を刻んでいないのだ
どう言う事かというと、この世界ではある時点を境に一気に文明や支配層が入れ替わる転換期のような物があるためだと思われる
今から約1000年前、この世界は魔族が支配していたとされている
魔族とはこの世界ではマナを元に作られた魔力の素・・魔素を多く取り込んだ人類だとされている
その当時の魔族は文明を持たず、ただ地上を支配する獣のような存在だったらしい
その傍若無人な魔族による支配を良しとしなかったのか、何者かが魔族を封印し、この地上から明確な支配者が消えたとされている
その際、山の中で暮らしていた人類は地上の支配権が誰のものでも無くなった隙を付き、地に広がり国を作ったと言われている
多くの小競り合いを制し、最初に地域を平らげたのが西の雄、王国であり、遅れること500年弱、今から300年近く前に帝国が生まれたと言われている
帝国は、最初は小さな国が集まって出来た連邦国であったが、その中に独裁者が生まれ皇帝を名乗ったとされている
皇帝が生まれ、帝国は暫く内部を固める事に終始していたと言われているが、この100年は内部の氾濫の目もなくなったのか外部へと徐々に勢力を広げ、俺が生まれたころ、王国に隣接した山脈向こうの国を吸収した所だったそうだ
話を戻そう
魔族は1000年前に封印された、だが当然のようにその前にも支配者は変わっている
魔族の前は大魔法時代と言う、魔法を使う人間の文明があった
これは、実を言うとこの国はおろか、殆どの国の文献に記されていない神代の文明だ
何故これを俺が知っているかと言えば、パイフーの持って来た「神代の歴史書」による知識である
これは管理者が地上で起きた事をレポートに纏めて「記録石」と呼ばれる物体に記憶させた物で、いくらでもバックアップがあるという
この「神代の歴史書」によると、魔族の時代は約3000年ほどあり、そのうち最初の1000年を「魔人期」として区別されている
この「魔人期」を構成したのが「魔人」と呼ばれる人類で、彼らは大魔法時代に魔素を取り込む実験に使われた蛮族であった
魔素を取り込んだ蛮族は元々低い知能の代わりに高い身体能力を持っていたのだが、そこに魔素を取り込むことで高い魔力耐性を持ち、そのことに気付かれた魔法文明は、一斉に反逆され潰れたと言われている
しかし、この魔法文明は地上に魔人よりも厄介なものを残してしまった・・・それが「魔素苔」と呼ばれるマナを魔素に変換する苔の存在だ
魔素苔は徐々に増え、周囲の生き物を魔物に変化させて行った
その魔物を食べて体内の魔素を取り込んだ魔人は、1000年かけて体質が変化し、繁殖し魔族へと進化した
それが大陸の南にある、山向こうの遺跡群だ
現在でも魔物の巣窟として立ち入れない状態だが、そこには魔法文明の資料も多く、調査するか悩んでいた所でもある
《魔族が復活したとなると、対抗しなくてはなりません。その為生き神となるべく送り込まれたのです》
《そんなことはアウル様に任せれば良いんですよ、何もあなたが来る必要なんて・・・》
こらこら、俺はそう言うのがいやだからわざわざ普通の人でも出来るアピールしてるのに何言ってくれるかね
《そうは言うけどアウル様はわたしたちを認識できるだけで、普通の人間なんでしょう?》
《そうでも無いですよ?多分古代魔法文明の人たち並に魔法に精通してます》
それは言いすぎだろう
《そこまでですか?》
《ええ、いくら見本があるとは言え魔道具を開発できると言うのはそれだけの能力があるということです。彼の発想の中には別世界の道具もありますから、それに因って新たな魔道具も生まれています》
《新たな魔道具ですか?》
《そうです、あなたもこの家に来たときに見ませんでしたか?音を出す魔道具を》
《ありましたね・・あれが?》
《あれが無線で音を届ける魔道具だと気づきましたか?》
《ええ!?念話が便利すぎて発達しなかったあれですか!?》
そんな理由で発達してなかったのか
《そうです、しかもこれは念話より格段に便利です》
《どう言うことですか?》
《有線式の伝声魔道具ですら出来なかった全方位送信により、範囲内すべての受信設備で声を聞くことができるのです》
いや、そのくらいで凄いと言われても
逆に有線だから出来なかっただけの話だからなぁ、それ
《そんな!!って、それは単に他の文明の発想があったからでしょうに》
まったく持ってその通りだ
《大体距離はどうなんですか?》
《相互通信なら1200フィートかな?》
ちなみに「フィート」は前世と同じ単位である
メートルもフィートも元からこの世界にありキロと言う単位も普通に使えた
この辺は平行世界故と言う事だろう
って言うか1200フィートは安全マージン入れてであって、有効距離は1650フィートだ
《念話だったら5000マイルでも届くんですよ?意味無いじゃないですか》
《わかって無いな~、これは長距離に広範囲で一方通行でも声を届ける事が出来るって事なんだよ?》
《それがどうかしたんですか?》
《念話でそれをやろうとしたらどれだけ強力な魔力が必要になると思う?》
《・・・》
《半径100フィートでも普通の人間じゃ無理だよね?》
《ですね》
《この道具は送信専用設備をつくる事で5Km・・・15000フィートに送れるんだよ》
《なんですって!!?》
《それどころか、これは受信機と送信所を組み合わせればどんどん広範囲に広げる事が出来る・・・今では受信機さえあればこの王都全域どこでも声を受けられるんだよ》
《そんな物を娯楽に使ってるんですか・・・》
緊急時の災害放送的な用途で広めたが、現実の用途は娯楽になっている・・・広めるにはこれが一番の手段だったと言う事なんだが
ちなみに前世の世界では「メディア普及の鍵はエロだ」と実しやかに囁かれていたが、これは真実であるような無いような
メディアとは基本的に「自己満足」の範囲のもので、それが顕著だったのがエロだっただけの話だ
もし本当にエロが決めてだとしたら、音楽メディアの勝敗はどう決まったんだと
まあ、そんなことで、娯楽と言うのは普及の決め手なのだ
「話は終わったか?」
「あ、はい」
「で、なんでこっちに来たんだ?ターマに挨拶するだけなら念話で十分だろう?」
まあ、念話するのに会う必要があるみたいな事を管理者が言ってた気もするが
「憑依をした場合、念話でも本人を確認してから出ないとダメなんです」
「ああ、そういえばそう言う制約もあったか」
白々しくとぼけてみる
「実を言いますと、異世界から魔族までこちらに送られてきたようなのです」
「それがどうしたんだ?」
「その魔族は、どういう訳か封印されたはずの太古の魔族を解放してしまったようでして・・・」
太古の魔族?
「ちょっと待て、魔族って確か1000年前まで居たろ・・・太古って程昔じゃなく無いか?」
「それは人造魔人を祖先とする魔人族です」
「なんだと?」
難産でした・・・
難産過ぎて変な設定増えました(汗
この話だけで1週間くらいかけてしまった




