消えた小学生
ある日、目を覚ますと小学生が消えていた。
誰がこんな馬鹿げたことを信じるだろうか。
日本中の小学生が一夜のうちにいなくなるなんて。
「さらった小学生たちの命の安全は保障しよう! だが、返すわけにはいかない」
テレビの中で紫色の髪の毛をリーゼントにまとめた謎の男が演説を続けている。
「我々、日本佐崎協会の手に渡った小学生たちを助けたい者は何人いるかな?」
通常ならば、おそらく「なんだこの頭のおかしな人間は」、と思うだろう。
通常ならば、映画かなにかのワンシーンだと思って流すだろう。
通常、ならば……。
「今の日本は活力がない! 皆でなにかしようという強い力がない! だから、それを呼び起こさせるために我々はあえて犯罪を犯すことにした!」
紫髪リーゼントの男は腕を天へ振り上げ、まるで独裁政治を続けるどこかの大統領のようなノリで続ける。
「小学生たちを助けたいと思うロリコン諸君! これから指定する全国、百箇所の地点に向かいたまえ! そこでまた会おう!」
読み上げられた場所をとにかくメモしていく。
今できることは、それしかない。
テレビに映っているこの男が何者であろうと、そうするしかない。
実際に、妹がいなくなっているのだ。
家族として、兄として、助ける機会があるのならそれを無駄にするわけにはいかない。
もしも、助ける機会がなかったとしても、これがなにかの罠だったとしても、なにも動かないなんてありえない。
「では、また会おう! 勇気ある者の参加を待っているぞ!」
紫髪リーゼントの男がそう言うと、ブツンという音とともにテレビが真っ黒になる。そして、数秒後、慌てた様子のアナウンサーが現在の状況を放送し始める。
「母さん」
呆然としたまま、テレビを見つめていた母親に声をかける。
「……」
暫く、返答がなかった。
一体、日本でなにが起きているのか、どうして警察や政府がなにも動かないのか。マスコミも事が全て終わるまでなにも気付かなかったのか。紫髪リーゼントのおっさんは何者なのか。そもそも、日本佐崎協会とはどういう協会なのか。
なにもかもが、謎だった。
それでも、今、しなければならないことは決まっている。
「駿平、行くわよ」
「分かってる」
母親の言葉に、駿平は即答した。