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ニセモノになったお嬢様

必要なのはアレじゃない。

作者: 渡辺 佐倉
掲載日:2026/07/11

最初にあった時から、ソリが合わないヤツだということには気が付いていた。多分それはエリザベートもそうだっただろう。


完全な政略のための婚約だった。

それが必要な国なのだということを自分もエリザベートもよくわかっていた。


自由に相手が選べるのは政情が安定している国だけだ。

安定していないからこそ安定を見せる必要がある。


だから、お互いにソリが合わないとしか言いようが無くても、それだけの話だった、筈だった。


* * *


エリザベート様がまるくなられた。

そういう話を聞いた時、何か戦略を変えたのだろうと最初に思った。


あの女はそういうやつだ。

必要とあればその位の事はする。


一次的に病弱を装う位、どうとも思わない、そういう人間性を持っている。

それを好ましいと思うかは置いておいて、少なくともそういう人間だった。


けれど目の前にいるこれはなんだ?


声も、顔も体も何もかもがエリザベートのものだった。

だが、明らかに違う。


王族だけが持つ嘘を見抜く魔道具も反応していない。

エリザベートだということだ。


なのに、その女はエリザベートが浮かべるはずのない笑みを浮かべていた。


「殿下はこころ安らげる場所がありますか?」


なんて聞いてきた時には何か意図があると思っていたが、その次に「私がそういう場になれればいいのですが」なんて言ってきた。


ありえない。

なんだ。

なんなんだ、この女は。


その言葉に眉を顰めた。


「……強制力があるのかしら」


そう、エリザベートは言った。

意味の分からないことを言った。

それ自体がもうおかしい。


それから「もし、他に思う方がいらっしゃるなら、私を自由にしてくださいませんか?」と絶対にエリザベートなら、彼女であればいうはずの無いことを言った。


この国を迷わすような選択だけはしない女だった。

それだけは確かなのだ。


それなのに今確認するようにこちらにそう言った。


「俺を試そうとしているのか?」

「……人を試すのはよく無い事ですよ?」


更に重ねられたエリザベートとしてあり得ない言葉に頭を抱えそうになる。


これ以上話しても無駄だ。

そう思い、考えうる最小の時間に二人きりのお茶会の時間を切り上げ、公爵家に非公式な手紙を一通書いた。


公爵家からの返事はことのあらましも何も無く、そしてエリザベートについては一言もなく『必要があれば、公爵家の後見をつけて別の令嬢をご紹介します』とだけ書かれていた。


公爵は異変に気が付いているということだ。


調べねばならないと即座に手勢に指示を出した。

一番に疑ったのは公爵家による国家転覆だった。


だが、王朝が変わったところでうまみが無い。

取って代わってトップになったところでうまみが増える様な国ではないのだ。


だから政略結婚が必要なのだ。


だからその可能性は最初に探らせて、最初に捨てた。


答えは中々明かされなかった。

ただ、あの女が自分が国を治めることに必要な女ではなくなってしまったのは分かった。


エリザベートは学園で取り巻きではなく、友達を増やしているらしい。

エリザベートは学園で平民にも分け隔てなく接しているらしい。

エリザベートは騎士団に笑顔で手製の菓子を差し入れているらしい。


そしてそれはほとんどの学園の人間には好評らしい。


反吐が出るようだった。

それをする暇があれば別の必要な仕事をする女だったのだ、エリザベートは。

他のもので充分な仕事は人をあてがう。

それを求められる立場だった筈なのだ。


少なくともあれは、おかしくなってしまった、まがい物の様なものなのだろう。


判断を迫られているということだ。

そしてそれが必要なのを後ろ盾である公爵も認識していた。


「理由が必要だな」


誰もいない部屋でそうひとりごちた。

これも誰かに聞かれているのかもしれない。

だが、一言位弱音を吐かせてほしかった。


誰が代わりになるにせよ、エリザベートより国政が上手くとは思えなかった。

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