第4話 「笑って」
翌日から、私はこっそり仕事を始めた。
城で働く人々の悪意を、少しずつ「採集」するのだ。
とはいえ、ここの人たちは基本的に善良だ。エミリアのような巨大な悪意などない。
日々の小さな苛立ち、妬み、不満——それらが結晶化すれば、小粒だが品質のいい宝石になる。
一週間で、私は赤いルビーを三つ、紫のアメシストを五つ、透明な水晶を七つ手に入れた。
「リリアナ、これは……」
私が差し出した宝石の山を見て、アレクセイは絶句した。
「今度はどこで」
「……………領内を、散歩していたら」
また嘘だ。
彼はしばらく私を見つめてから、静かに言った。
「君は、嘘をつく時、目が全然動かないな」
私は固まった。
これまで、嘘を見抜かれたことは一度もなかった。感情が動かないから、表情が揺れないから。
「っ」
「でも、追及はしない。君が俺たちを助けてくれているのは事実だからな」
アレクセイは宝石を大切そうに受け取り、深く礼を言った。そして、ふと付け加えた。
「一つ、頼んでもいいか」
「……何でしょう」
「笑ってくれ」
私は息を止めた。
「俺が礼を言うたびに、君は無表情のままだ。それが、少し……寂しくてな」
寂しい。
私への感情として、その言葉が使われたのは初めてだった。
誰も、私が悲しんでいても怒っていても、何も感じてくれなかった。
なのに、この人は、私の「無表情」を寂しいと思ってくれた。
「……笑い方が、わからないんです」
気づけば、口からそんな言葉がこぼれていた。
「生まれてからずっと、感情を殺してきたから。笑ったことが、なくて」
アレクセイは少し驚いたように目を瞬かせ、それから、とても優しい顔になった。
「なら、俺が君を笑わせてみせる」
「……無理です」
「そうか。それは挑戦として受け取った」
彼の顔に、かすかに悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
その笑顔は、どんな宝石よりも眩しくて——
私の胸の奥で、何かが、カチャン、と音を立てた。
黒曜石ではない。
透き通った、見たことのない温かい光の色をした、小さな何かが。
それが何という名前の宝石なのか、私にはまだわからなかった。
でも、初めて、知りたいと思った。




