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妹の悪意を極上の宝石に変える無感情令嬢ですが、追放先の辺境で溺愛騎士様に「笑って」と懇願されています  作者: ししのこ


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第2話 氷の地へ

追放は即時執行された。

 私は馬車に乗せられ、着の身着のままで国境へ送られた。

 ドレスは薄く、防寒具はない。装飾品はすべて没収された。

 唯一、ポケットに入っていた数粒の『黒曜石』だけが、私の手元に残った。

「ここで降りろ」

 御者が無愛想に言い、私を雪の中に放り出した。

 目の前に広がるのは、見渡す限りの銀世界。そして、吹き荒れる猛吹雪。

 寒い。手足の感覚がなくなっていく。

 私は雪を踏みしめ、歩き出した。どこへ? わからない。ただ、ここで立ち止まれば死ぬということだけはわかっていた。

 ザクッ、ザクッ。

 雪を踏む音だけが響く。

 やがて、遠吠えが聞こえた。

 魔狼フェンリルだ。暗闇の中から、飢えた赤い目がいくつも光る。

 私は完全に囲まれていた。

「……ここで終わりか」

 私は目を閉じた。

 最後に思い出すのは、亡き母の笑顔でも、父の冷たい目でもなく、ただ「無」だった。

 私は生まれてから一度も、心から笑ったことも、泣いたこともない。

 感情を持つことは、悪意を呼び寄せることと同義だったから。心を殺すことが、私の生存戦略だった。

 魔狼が飛びかかってきた。

 その時。

 ――ヒュンッ!

 鋭い風切り音と共に、銀色の矢が魔狼の眉間を貫いた。

「ギャンッ!」

 魔狼が雪に倒れ伏す。

 私は目を開けた。

 吹雪の向こうから、一騎の黒馬が現れた。

 乗っているのは、漆黒の鎧を纏った大柄な騎士。

 彼は私の前で馬を止め、雪の上に舞い降りた。兜を外すと、そこには月光のような銀髪と、氷のように透き通ったアイスブルーの瞳を持つ青年がいた。

「……無事か」

 低く、しかし不思議と温かみのある声。

 私は彼を見上げて、息を呑んだ。

 彼からは、何の「悪意」も感じられなかったのだ。

 影が出ていない。私のスキルが全く反応しない人間なんて、初めてだった。

 十七年間生きてきて、初めて「ただの人間」を見た気がした。悪意がないというのが、こんなにも澄んだ感触だとは知らなかった。

「……捨てられたんです」

 私は淡々と答えた。

「そうですか。では、俺が拾いましょう」

 アレクセイと名乗ったその騎士は、私を軽々と抱き上げ、馬に乗せた。

 その腕は力強く、私の冷え切った身体に、彼の体温がじんわりと伝わってきた。

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